クラスは違えど、ライバルふたりが結果を出した週末

もてぎでの日本グランプリ、Moto2クラスでの小椋 藍の快挙の興奮が冷めませんが、その前日、日本時間の9/24(土曜日)に、もうひとつ日本人ライダーによる快挙がありました!
それが、ワールドスーパーバイクと同時開催のワールドスーパースポーツ300(=WSS300)での、岡谷雄太の今シーズン初優勝です!

画像: トップ争いはいつもこんな感じの15台!Moto3にも似ていますが、こちらはMoto3みたいに自由自在に動くレーシングマシンではないので、ゴツゴツとしたラフファイトになりがち 岡谷は#61です

トップ争いはいつもこんな感じの15台!Moto3にも似ていますが、こちらはMoto3みたいに自由自在に動くレーシングマシンではないので、ゴツゴツとしたラフファイトになりがち 岡谷は#61です

WSS300とは、日本でいうJP250、アジアでいうAP250の進化版で、市販300ccスポーツバイクで争われるストックレギュレーションのレースです。250ccっていうのはアジアや日本のスタンダードな排気量ですから、これがヨーロッパ版で300ccが基準となっています。
そこから、主催者によって性能調整がきちんと行われていて、ヤマハは320ccのYZF-R3、カワサキはNinja400、KTMはRC390が出場可能。えー!320と400が一緒に走るのかよー、と思うものですが、そこはエンジン回転数やウェイトハンデがあって、なるべく性能均等を目指している。しかも、1回勝ったら回転数を500rpmとか落とされてしまって、決して1モデルだけが勝ち続けないようなレギュレーションになっているんです。
これこそ日本のJP250に見習って欲しいところなんだけど……それはまぁ、別の機会にね。

画像: 今シーズン初表彰台はミザノでの1戦 ここカタルニアが2度目の表彰台だったわけです

今シーズン初表彰台はミザノでの1戦 ここカタルニアが2度目の表彰台だったわけです

岡谷雄太は、このWSS300に2019年から参戦をスタートした、WSS300では日本人唯一のライダー。参戦初年度は6レース走ってノーポイントに終わりましたが、2年目の2020年にはランキング10位ながら日本人初ポール、日本人初表彰台、そして日本人初優勝を達成! 一躍トップライダーの仲間入りを果たしました。
その活躍が認められて、2022年の鈴鹿8時間耐久レースには、SSTクラスのカワサキトップチーム「カワサキプラザレーシングチーム」に招聘されて出場。普段はNinja400に乗っているっていうのに、いきなり200psオーバーのZX-10Rをライディングして見事に優勝を果たしてます。

画像: トップライダーの仲間入りをして3年目。ここが勝負だぞ、雄太ッ!

トップライダーの仲間入りをして3年目。ここが勝負だぞ、雄太ッ!

その岡谷、今シーズンのWSS300ではちょっと苦戦中でした。優勝したのは2年前、去年は取りこぼしなくコンスタントに走って、ランキングは10位から5位にジャンプアップ! そして今シーズンはいよいよチャンピオンを目指してシーズンインしましたが、TOP6に入ることは勿論多いんですが、しかしよくブツけられます。
これ、クラスを問わずに徹底マークを受けるトップライダーの証なんだけれど、岡谷もこの洗礼を受けまくっていて、それでも22年は当たり負けしないというか、こいつ当てに来てる!って雰囲気をよく察知している感じがします。WSSってそれくらいの超激戦なんです。
実際レースを見ていても、まわりのライダー、ホント荒っぽい(笑)。マシンの性能差がほとんどないからか、勢い任せでブレーキングで突っ込んできて誰かにドーン!も多いし、進入でチョー頑張って止まれない、それで出口で膨らんで失速、ポジションを落とすライダーがホントに多い。

画像: ポールからスタートしたレースでは、まさに集団に飲まれてポジションダウン

ポールからスタートしたレースでは、まさに集団に飲まれてポジションダウン

そこが岡谷の強みです。もちろん、乱戦に自分のペースで走れない局面があるんですが、理想のラインでレースを走って、かぶせられたら退く、インに差し込まれたらライン一本分空けてクロスで抜く--そんな走りができている、WSS300で数少ないライダーですね。そうじゃなきゃラインキングで上の方にいられないのも、世界各国どのカテゴリーでも言えることでしょう。
でも、それが岡谷の欠点になっているって面も少なからずありますね。フェアなんだけど、フェアとアグレッシブとダーティは紙一重ですから、今のフェアさをもう少しアグレッシブ方面に振って、まわりのライダーに「アイツに当たって行ったらヤバい」って思わせたらいいよね。

画像: 抜かれたら抜き返すときもあるし、抜かれて後ろにつくこともあるクレバーなレースが岡谷の真骨頂 全日本デビューのころからベテランみたいな「走りの組み立て」ができるライダーです

抜かれたら抜き返すときもあるし、抜かれて後ろにつくこともあるクレバーなレースが岡谷の真骨頂 全日本デビューのころからベテランみたいな「走りの組み立て」ができるライダーです

そんな岡谷の今シーズン初優勝は、20年に初優勝を挙げたカタルニアでやってきました。
予選でフロントロー3番手を獲得した岡谷は、スタートダッシュ良くホールショットを獲得! そのまま大集団を、チームメイトのスティーマン(現在のポイントリーダー)、ヤマハのマエンドラやガルシア、ディアスと引っ張ります。去年、今年とヤマハ勢が速くなっていますね!
ここでスティーマンはロングラップペナルティを消化していったん脱落、カワサキのモゲイダ、ヤマハのマイヤーも先頭集団に絡んできます。

画像: 数々のライバルを斬って捨てて、最終ラップに大逆転!

数々のライバルを斬って捨てて、最終ラップに大逆転!

その中で岡谷は、トップにいたり2番手、3番手に下がったり。これ、裏と表にロングストレートがあるカタルニアで、スリップに入られるとほとんどパッシングされるからなんですが、岡谷は抜かれても抜き返して、いつもトップが見えるいい位置にいるんです。クレバーですね、スマートです。
特にカタルニアのメインストレートは、長い直線で下り坂ですから、毎周のようにスリップに入っての抜き方、スリップに入られての抜かれ方を見ていたような気がします。

最終コーナーで4-5番手にいてメインストレートでトップに立つとか、先頭にいてメインストレートで5ー6人に抜かれちゃうとかしながら周回を消化。12周のレースはいよいよ終盤です。
しかし岡谷、残り4周くらいで、メインストレートで6番手、そこから7-8番手にまでポジションダウン。うわぁ、こういう展開で集団に飲まれちゃうとずるずる落ちて行っちゃうんだよなぁ、と思ったら、やっぱり岡谷、なかなかポジションを上げられません。

そしてラストラップでは、ロングストレート明けの1コーナーで、7台くらいが横一列でコーナーへ。岡谷、その後方にいましたから、7台の1位タイに続いての実質2番手(笑)。そうすると、やはり7ワイドですから、無理なラインで進入していくライダーもいるわけで、レース序盤にトップ争いに絡んできたモゲイダが転倒。意地の張り合いで外へ外へ膨らんでいくライダーを尻目に、すっとインに入った岡谷がするするとポジションを上げ、4番手から3番手、裏のストレートからヘアピンへの進入で2番手へ!
うおぉぉ、ここまで上がってきた!と思ったら、最終コーナーまでの下り坂の右→右→右でヤマハのディアスをパッシング! 最終コーナーをトップで立ち上がって、そのままトップでフィニッシュしました! 序盤のレース展開のうまさは岡谷ならでは、そこから集団に埋もれてしまって、そこからうまく抜け出せたのが勝因でしたね。
こんなシーン、いつかロッシvsロレンソのヤマハ同士の優勝争いで見ましたねぇ!

画像: 岡谷、ふたつめの優勝トロフィ! あれ?1コめのとデザイン同じじゃない? あ、カタルニアだから?

岡谷、ふたつめの優勝トロフィ! あれ?1コめのとデザイン同じじゃない? あ、カタルニアだから?

「前に勝ったのも、3年前のここカタルニアでした! ここは、最終コーナーからメインストレートの脱出がすごく大事なので、そこを注意して、最後にうまくディアスを抜けてハッピーでした! いま日本では、たくさんの日本人ライダーがMotoGPを戦ってます。僕の優勝で力を送りたいです」と岡谷。岡谷、スペインに住んでいて、特にチームアジアのみんなと仲良しで、時に一緒にトレーニングに出かけている間柄なので、いつも日本人ライダー、特に小椋の結果、気にしてますからね。

画像: 小椋のTwitter 炎マーク3つのつぶやきが、翌日には現実になります

小椋のTwitter 炎マーク3つのつぶやきが、翌日には現実になります

すると、その夜には、決勝レースを翌日に控えた小椋がWSS300のTwitterを引用リツイートします。引用コメントは炎マーク3つですが、これ「ユウタやった、オレもがんばる」的な意味でしょうね、きっと(笑)。そうしたらそこに岡谷も返信して「藍も明日よろしく」とひとこと。言葉は少ないけど、いい関係だなぁ、このふたり。
ふたりとも、シーズンオフやサマーブレイクに日本に帰ってくると、毎日のようにバイクに乗っていることで有名ですが、もてぎ北コースでのノリックパパのトレーニング合宿や、ふたりがメイントレーニングコースにしているテルル桶川スポーツランドでしょっちゅう一緒に走ってます。クラスは違えど、ふたりで刺激を与えあっているライバルのような間柄なんだと思います。

そしてその翌日には、小椋の日本GP制覇ですから! とんでもないことが2日連続で起こった、という日本のレーシングヒストリーでした。

画像: オートバイ編集部の秘蔵写真w 岡谷と小椋、22年1月の合同トレーニング中のショットです

オートバイ編集部の秘蔵写真w 岡谷と小椋、22年1月の合同トレーニング中のショットです

岡谷雄太Webサイト→ https://yuta61okaya.com

写真/Kawasaki 文責/中村浩史

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