文:山口銀次郎/写真:西野鉄兵、山口銀次郎
ヤマハ「シグナス グリファス」通勤インプレ
細部までこだわりを感じる新シグナス、街乗り燃費も計測してみた!
まず、走り出しの感触は、しっかりシグナスシリーズであるというポイント。重量感やサイズ感に違和感がなく、シリーズモデルから乗り換えたユーザーに違和感を与えないまとまりっぷりをみせている。
長年愛用していたシリーズのモデルチェンジでがっかりするのは、機能やスタイリングの路線変更で、それまでに欲していた個性が失われてしまうことに尽きると思う。スタイリッシュでスポーティ、そして先進の性能を兼ね備えたシグナスが、和み系まったりゆったりビッグボディで登場、となったら愛好家にとっては路頭に迷わざるを得ないだろう。けれども、「グリファス」はガッツリとシグナスの正当後継モデルといえる。
乗り出して早々に、結論じみたことを記してしまったが、それだけ従来の通勤快足王シグナスXが与えるインパクトは大きく、むしろ必然的に期待は大きくなり応えて欲しいというもの。グリファスとなり、ダイナミックな進化として水冷化されたエンジンの採用といえるだろう。
しかも可変バルブ採用と、一歩も二歩も先へ行く進化に、その飛躍っぷりに「グリファス」の名が授けられたのも納得するというもの。エンジンの水冷化により構成部品の増加に伴う重量増は避けられないはずが、ジェネレーターとスターターモーターを一体化する等々軽量&コンパクトが図られ、車重で6kg増に抑えられている。さらに最高出力で2ps以上向上したことで車体造りも見直されているにも関わらず、なのだ。
実際に、高いステップボードの設定で身長177cmの私では足元が窮屈になる感じも、Xから受け継がれた感じで、シグナスならではの継承がされていたのかな、と。そしてまず驚かされるのが、エンジンの静粛性に尽きるだろう。
同系のエンジンを積載する、一回り大柄なNMAXを彷彿させるもので、水冷ブルーコアエンジンならではの静かさとなっている。150ccでの設定も視野に入れた上級モデル同等とは、ただ単純にリッチである。ある意味、空冷エンジンのガサツなフィーリングも手応えがあり悪い印象がないが、この静かな雰囲気に慣れてしまうと、先代に戻れなくなるかもしれない。
国内バイクの直径22mmハンドルグリップに慣れている方が大半だと思うが、グリファスのグリップは樽型でセンターの一番太い部分で1インチに迫るアメリカンサイズなワイルドなものとなっている。常に触れているポイントで主張する個性、少々違和感を覚えたが、これが意外にもしっくり馴染み、むしろ樽型フォルムがエルゴノミクスデザインで握り心地もよろしいのである。
「加速している!」という雰囲気はないものの、滑らかでいて確実に速度にノせてくる様はとてもスマート。しかも、Vベルト無段階変速ならでのは一気にエンジンが回り切る独特設定ではなく、タコメーターによると10000回転まで表示されている中6000回転あたりでエンジン回転数の上昇が抑えられており、無駄にエンジンが回り切っていない感じがとてもヘルシーである。
もちろん、必要にして十分な瞬発力があるので、状況に合わせての制御が活きていると実感した。その後、速度がノれば可変バルブVVAによりローカムからハイカムへスライドし、より高速向きの伸びをみせる。当然、切り替えのスイッチ感は希薄で、意識しなければわからない程度となっている。
車体は先代に比べ若干の重量増はあったものの、絶妙な足回りの設定やバンク角を確保した車体構成などにより、クイックリーなハンドリングや高い運動性能を確保している。通勤快速王として、よりコンパクトで軽量であるに越したことはないが、水冷化に伴う大型化は避けられないという予想をガッツリ裏切り、軽快なシグナスならではのステップワークが健在なのは喜ばしいことこの上ない。
ちなみに、ヤマハの125スクーターラインアップは他メーカーに比べ多く、それぞれが確立した個性があり、その個性をブラさないという開発陣の意気地を感じてしまった。正直、このステップワークの奥深さは通勤路では活かし切れないと思うのだが、そこがまた良い。高い限界値を備えることで、変化する道路事情にも対応でき、単純に懐が深いというのはリッチな気分である。
沿道から見られるサイドビューもスタイリッシュさに磨きをかけ、特にフロントセクションの存在感といえば過去イチといえるスピード感溢れるパターン構成で、飛躍進化に相応しい仕上がりとなっている。ハンドルカバーに補記類を装備しないグリファスは、極端なまでのショートスクリーンを装備している。ただのカバーに見えて、しっかりスモークスクリーンであるニクい演出なのだ。
ただし、唯一気になったのがハンドルに設置された液晶パネルがほぼ上面を向いており、白い雲がプカプカ浮く天気の良い日中の視認性が著しく悪いのである。と、かなり条件が重ならないと起きない現象だが、日中の通勤路に気付いたので記しておきます。もちろん、通常はドーンと大型パネルの主張の恩恵を受けることができるでしょう。
日本の通勤路に照準を合わせたセッティングのエンジンは、実に的を射たパファーマンスを発揮するが、高い燃費性能をも実現しているという。
驚異のダッシュ力と伸びの良さをみせつつ、好燃費? それはそれは欲張りではありませんか? と、少々意地悪にアクセラレーターを開け気味に走行すること162.7kmの燃費はというと32.5km/L。逆に、極力アクセラレーターを閉め気味に走行すること172.3kmの燃費は34.4km/Lと、乗り手としてはもっと大きな差が生まれると思いきや誤差程度の燃費結果で、結局は電子制御による好効率化が促されていたんだな、と実感した次第。