文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2022年12月25日に公開されたものを転載しています。
750ccクラス初のアルミフレーム・油冷エンジンを採用した1985年型GSX-R750!!
量産車のエンジンを使ったカテゴリーのロードレースの、ベース車両に積むエンジンとしての空冷4気筒の限界を感じたスズキが、1985年にデビューさせたのが油冷4気筒をアルミフレームに搭載するGSX-R750でした。
長年世界ロードレースGPおよびモトクロスGPで、水冷機構を採用するマシンを作ってきたスズキは当然ながら、安定した温度管理によりピストンクリアランスを詰められる・・・などなどの、空冷に比べての水冷のメリットを重々承知していました。しかしスズキはあえて水冷方式を選択せず、GSX-R750のエンジンを油冷方式でまとめ上げることにしたのです。
空冷に対する水冷のメリットとは逆に、水冷のデメリットといえば、ウォーターポンプなどの駆動ロス、ラジエター含む水冷機構を与えることに伴う構造の複雑化とコストアップ、そして補器類が増えることによる重量増・・・などが当時の技術としてはあげることができました。
これらメリットとデメリットを天秤にかけたうえで、スズキは軽く、シンプルな構成で仕上げることが最もユーザーのメリットになるという判断で、GSX-R750を「油冷」でまとめ上げました。とにかく軽くするという観点から、そのフレームには750cc以上の排気量を持つ量産車としては初となる、アルミ合金が採用されることになったのです。
またGSX-R750はフルフェアリングを備える量産レーサーレプリカ大型車の、初の作品となりました。アルミフレーム、油冷エンジンとともに、このこともGSX-R750を語る上で欠かせない大きな"エポック"でした。
コストパフォーマンスの高さから、プライベーターに支持されたGSX-Rシリーズ
高出力、クラス最軽量、そしてリーズナブルな価格設定だった初代GSX-R750は、世界中の大型スポーツバイクファンだけでなく、世界中のロードレース活動をするプライベーターたちからも大歓迎されました。
GSX-R750発売直後に行われた1985年のフランス・ルマン24時間では、完走23台中10台がGSX-R750で、成績的にも1-2フィニッシュという最高の結果になりました。また同年の鈴鹿8耐では、3位のケビン・シュワンツ/グレーム・クロスビー組を筆頭に、決勝トップ10の内5台がGSX-R750ユーザーが占めることになりました。
GSX-R750発売の1年後、1986年には同じ設計思想のGSX-R1100がデビュー。このマシンは米豪の量産車ベースのリッターバイク級ロードレースで活躍するだけでなく、当時の4ストローク大排気量車の最高峰クラスだったロードレース、TT-F1にも多大な貢献をしました。
1977年からスタートしたTT-F1のルールは、2ストローク350〜500cc、4ストローク600〜1,000cc(1984年から750cc上限に変更)の量産車エンジンを使うことを参加者に強いる一方、車体まわりについてはプロトタイプの使用を認めるものでした。
これは資本力に勝るファクトリーチームや、太いスポンサーを持つ有力レースチームには有利なルールといえました。活動予算の余裕のない金欠プライベーター勢にとっては、創意工夫を凝らすことこそはできても、予算的にはスタンダードの車体に補強を入れるなどのモディファイが精一杯だったのが実情でしょう。
そんなプライベーター勢にとって、GSX-R1100のフレームは非常に魅力的な「パーツ」となりました。GSX-R750と基本骨格は同一でもフレームメイン部には太いサイズを採用していたGSX-R1100のフレームは、高度にチューニングしたGSX-R750用エンジンを搭載しても全く問題ない剛性を有していたのです。
そのため、GSX-R750エンジンにGSX-R1100フレームを組み合わせることは、リーズナブルで戦闘力があるTT-F1レーサー造りの、ひとつの最適解として世界中のプライベーターに支持されることになったのです。
プライベーターに愛されるGSX-Rという伝統は、今後も守られるのでしょうか
1988年からFIM(国際モーターサイクリズム連盟)のSBK(世界スーパーバイク選手権)がスタートし、TT-F1は1990年限りでFIM世界選手権のステータスを失うことになります。そして、世界各国の国内選手権の最高峰クラスは、量産車ベースのエンジンとフレームを使うことを義務付けた、スーパーバイクルールで行われるようになっていきました。
スズキGSX-R750も、1992年型からさらなる高出力化という時代の要請に応え水冷化。1996年型では初代からのダブルクレードル・角断面アルミフレームを廃し、今もスーパースポーツの骨格の主流となっている、ツインスパー式のアルミフレームを採用しました。
2003年からSBKが2気筒・4気筒ともに排気量上限が1,000ccになったことを受け、世界各国の量産車ベース最高峰クラスも750ccから1,000ccへと移行していくことになりました。その流れもあり、1998年に生産終了したGSX-R1100に代わるフラッグシップであるGSX-R1000が、主戦モデルとして活躍していくことになります。
2003年には、名手トロイ・コーサーが駆るGSX-R1000がスズキ初のSKBタイトルを獲得。そして2007年には、鈴鹿8耐で1980年以来となるヨシムラの優勝を、GSX-R1000が達成しました(加賀山就臣/秋吉耕佑)。
なお欧州市場ではGSX-R1000RはEURO5規制に対応せず、2022年モデルで廃盤となりました。一方で周知のとおり、スズキはアメリカ市場向けのGSX-R1000系3モデル(GSX-R1000R、GSX-R1000RZ、GSX-R1000)の2023年型を発表しています。
EURO5規制に対応することなく、このまま大排気量GSX-Rシリーズの系譜が終焉することを不安に思う声は世界中から聞こえてきますが、もしかするとスズキはアメリカ市場では既存モデルの販売を継続して、稼ぎ出した時間(1〜2年?)の間にEURO5をスキップした規制対応・改良型GSX-R1000を開発するのかもしれません?
スズキの旗艦モデルであるハヤブサの例ですが、数年前にEURO4規制が施行されたときスズキはハヤブサをアメリカ市場では生き残らせ、2021年から規制に対応した新型ハヤブサを世界市場へとリリースしたという経緯があります。
GSX-R1000も上述のハヤブサ同様のやり方で、2024年または2025年に新型GSX-R1000系が登場する可能性もあるかも・・・? はあくまで憶測ですが、1980年代から続く栄光の系譜にピリオドを打ってほしくない!! という多くの人々の願いに、ぜひスズキは応えていただきたいですね!
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)