文:黒田健一/写真:南 孝幸
「GSX750S」に生じた今回のトラブル
セル一発で目覚めていたのに、エンジンが始動しないどころか…
カタナのナンバーを返納してからすでに1年半が経過、それでも年に3回くらいはエンジンをかけていたので、毎回チョークを引けばすぐにエンジンは始動していた。
しかし、今回はエンジンがかからない。不思議に思って燃料タンクを確認したらタンクは空っぽ、なぜ? 半分近くは入っていたはず……不思議に思いながらもジェリ缶で少しだけ給油してからセルを回すと、キャブレター周りからガソリンが溢れてきた。おっオーバーフローだ。
年明けには車検を取る予定だったので、キャブのオーバーホールを決断。GPz750Fの整備でお世話になっている東京都墨田区の「コアガレージ」に直行。正直、神奈川県の自宅からは70kmも離れているので利便性はよくないのだが、旧車のことを知り尽くしているショップなので頼りにしてしまうのだ。
さてカタナに戻るが、トランポから下ろされるとすぐさま整備台に載せられ、サクサクとタンクや外装類が外されていく。カタナも豊富な知識と経験があるので、外装外しに迷いがない。あっという間にキャブも外され鶏ガラのようになったカタナでも、美しい、とにかく美しい……カタナを買って良かったと思う瞬間だ。
話は脱線したが、外したキャブをバラす前に詰まりの確認をしたら、なんと正常。何が原因なのかは、この時点では不明。せっかくキャブを外したのでオーバーホールしてもらった。メカニックの横間さんがキャブをバラしながらひとつ一つのパーツを確認していくと、とても綺麗な状態と太鼓判を押してくれた。組み直したキャブを車体に戻してエンジン始動……通常ならこれで終了だが、問題はここからだった。
セルを回してもエンジンが始動しない、そして再度セルを回した瞬間に大量の液体が噴射して床に流れ落ちた。ブローバイから液体が吹き出したのだ。つまり燃料タンクにあったガソリンがエンジンに流れ込んでいたのだ。これで燃料タンクが空っぽになっていた理由が判明した。多分プライマリーを戻し忘れ、長期間放置したためにガソリンがキャブレターに流れ続け、さらにはエンジンにも流れ込んだのが原因。
オイルのドレンボルトを緩めると勢いよくエンジンオイルとガソリンが混じった液体が流れ出した。その量はおよそ10L。これだけの液体がエンジン内部に入っていたのは衝撃。しかし、事態はこれだけではおさまらなかった。
新しいエンジンオイルを入れてからセルボタンを押すとエンジンは息を吹き返した。久しぶりに聴いた図太いエンジン音にホッと胸を撫でおろしたのだが、心配なのはガスケット類が長い間ガソリンに触れていたことで悪影響を受けている可能性があることだ。
ギアを1速に入れた途端に更なる問題が発生! 長い間クラッチプレートがガソリンに浸かっていたので、すべてのクラッチプレートが張り付いていたのだ。すぐさま作業台にカタナを戻してクラッチプレートを取り出すと、指では剥がせないほど強力に張り付いている。しかもケース内はガソリンによってピカピカに洗浄されていた。
洗浄してから組み直すと1速に入るようになったが、シフトフィーリングはとても変。しばらくプレートをオイルに漬けておかないと、まともにギアチェンジできないだろうね。今回の事例は「旧車あるある」で、そんなに珍しいことではないそうだ。旧車乗りの皆さん、燃料タンクが空っぽになっていたらエンジンオイル量を確認しようね!
「GSX750S」のキャブレター&クラッチのオーバーホール
「カタナ750は大得意! 知り尽くしてます!」byメカニック・横間さん
修理を見守るだけの黒田は…。
ショップ紹介
今回お世話になったのは、旧車のレストア・修理を得意とする東京・墨田区の「コアガレージ」。代表の吉村さん(左)とメカニックの横間さん。
文:黒田健一/写真:南 孝幸