文:宮﨑健太郎
SHOWAの「SFF」技術と、「BPF」技術が合体!?
SHOWAの「SFF-BP」は、セパレート(分離した)・ファンクション(機能)・フロントフォークと、ビッグ(大きな)・ピストンを組み合わせた商標名だ。近年SFF-BPはホンダやカワサキのほか、トライアンフ、ライブワイヤー、ゼロモーターサイクルズにも採用されており、それら採用モデルの解説記事などで、上述のSFF-BPの名前の意味を読んだという方は少なくないだろう。
しかしそもそもSHOWAは「SFF」と「BPF(ビッグ・ピストン・フロントフォーク)」という技術を、別々に開発していた経緯についてはすっかり忘れている方もいると思われる。量産モデルへの初採用はBPFの方が先であり、2009年型のカワサキZX-6Rに41mm径のBPFが、そして2009年型GSX-R1000(K9)に43mm径のBPFが装着された。
下のYouTube動画は、2009年型ZX-6Rリリース時にカワサキがBPFの機序を紹介するために公開したのものだ。カートリッジタイプの倒立フォークに対し、BPFはシリンダーとサブピストンを廃しており、その分大きくなったメインピストンを採用していることがわかる。
BPFは鈴鹿8耐などの、ロードレースイベントの現場で磨き上げられた技術だ。大きなメインピストン=ビッグ・ピストンを使用することで、ピストン表面積/体積の増加で減圧力の削減を可能にしている。その結果、ブレーキング時のダイブ量を少なくするとともに、高速圧縮時の過酷な状況を緩和。そしてカートリッジ型倒立フォークに対し、パーツ点数を減らすことで軽量化を図ることができるのもBPFの大きなメリットのひとつだ。
その後BPFはホンダやドゥカティなどのスポーツモデルにも採用されるようになり、2010年代以降はスポーツモデルのフロントエンドとして、ポピュラーな存在となったのは多くのバイクファンの記憶に新しいところだろう。
セパレート・ファンクションは、MTB用としては珍しくない構造だった?
一方「SFF」は、2011年型のカワサキKX250Fに量産車としては初採用され、第2世代版が2013年型スズキRM-Z450およびRM250にされたように、モトクロス競技車の世界から導入された技術だった。
2011年型KX250FのSFFは、左フォークに大きなダンパーとそのアジャスター、右フォークにスプリングとプリロードアジャスターを備えており、メンテナンスと調整が容易になるとともに、重量とフリクションが低減することをセールスポイントとして掲げていた。
なおダンパーを片側、スプリングをもう片側にセパレートするという構成はSHOWAの専売特許ではなく、SFF登場以前にもオートバイ用に同種の製品は存在していた。そして自転車のダウンヒル競技などには必須の、MTB用フロントフォークの多くはSFF的な構造を備えている。
専ら、ダンパーとスプリングの仕事を左右フォークそれぞれ別に任せる思想は、コストコンシャスな乗り物に向いていた。平たくいえば、そういう構成にして部品点数を減らすことは、コストダウンがしやすいということに他ならない。しかしSHOWAはコストダウンはもちろん意識しつつも、重量減・摩擦低減というオートバイ部品としての「正義」を追求し続け、そのノウハウを蓄積していった。
「SFF」と「BPF」を融合させたSFF-BP
2012年に商標として申請された「SFF-BP」が、量産車として初採用されたのは2013年型のカワサキZX-6Rだった。上述のとおりSFFには左右フォークに機能を振り分けることで、それぞれの役割の最大化が図れるメリットがあるが、その観点からBPFの機能をSFFに融合させることは、ある意味必然だったと言えるのかもしれない。
2008年のリーマンショック以降の世界的不景気により、コスト圧縮のためミドルクラスのオートバイは2気筒が主流となっていったのは周知のとおりだ。そして2010年代に入ってからは、環境規制の著しい強化の影響により製造コストはさらに増加することとなり、世界中のオートバイメーカーはコストダウンと商品性アップの両立という、一見矛盾するような難しい課題を突きつけられた状況と対面して今日に至っている。
そのような時代に生み出されたSHOWAのSFF-BPは、ある意味で時代のニーズに見事応えたフロントフォークの逸品といえるのだろう。125ccの4ストローク単気筒スポーツのホンダCB125Rから、最高出力200馬力のスーパーネイキッドのZ H2まで、SFF-BPに盛り込まれた最新の倒立フォークのテクノロジーを体感できるというのは、多くのスポーツバイクファンにとってはありがたいことに他ならないだろう。
文:宮﨑健太郎