文:中村浩史/写真:森 浩輔/撮影協力:ライダースベース リバティ
「カフェレーサー」の歴史
行きつけのカフェに乗りつけて愛車を眺める楽しさよ
丸形ヘッドライトに低く構えたセパレートハンドル。ロケットカウルに、バーエンドならぬバーアンダーミラーを装着したたたずまい。これが、ホンダが「眺めて美しく、見られても誇らしい」と謳うホーク11だ。
眺めて美しく──となると、やはり思い浮かぶのは「カフェレーサー」というカテゴリーだ。最近、ちょっと聞かなくなったフレーズかも。
カフェレーサーという言葉の語源は、1950~60年代のイギリスにさかのぼる。夜な夜なオートバイ好きが集まっていたエースカフェロンドン。彼らが乗るオートバイを、カフェレーサーと呼び始めたのがきっかけだ。
24時間営業のそのカフェは、1985年に、7万2000人の観客が熱狂した「ライブエイド」が開催されたことでも知られる、ロンドン・ウェンブリースタジアムすぐそば。イギリスを南北に走る高速道路のインターチェンジに近いため、ロードサイドカフェとしてクルマやオートバイがよく集まっていたカフェだ。もちろん、今でもエースカフェはそこにある。
カフェに集まるライダーたちは、少しのコインを賭けて、またはジュークボックスの1曲が終わるまでに、カフェを出て戻ってくるという「ショートスピード」と呼ばれた遊びに熱中し始める。そこに参加する、ノートン、トライアンフ、BSAといった英国車をベースに、ロードレーサーまがいの改造を施したオートバイを、カフェレーサーと呼ぶようになったのだ。
転じて、その遊びに参加しないギャラリーたちのオートバイも、ショートスピーダーたちの改造を真似るようになる。それをひっくるめて、カフェレーサーというジャンル、カテゴリーが成立したのだろう。
行きつけのカフェに乗りつけて、しげしげと眺めるだけで楽しいオートバイたち。それをカフェレーサーと呼ぶならば、やはりホーク11は、カフェレーサーを目指したのだろう。
もちろん、バトル「する」側のカフェレーサーではなく、ショートスピーダーのギャラリーたちの「眺めて美しく、見られても誇らしい」オートバイだ。
速さなんか要らない。僕たちが欲しいオートバイは……
ホンダのカフェレーサーといえば、1974年に発売されたヨンフォアことCB400FOURが思い浮かぶ。1972年発売のCB350FOURの後継車として登場、排気量アップがあったとはいえ、基本構造は大きく変わらなかったスタイリングバージョンだ。
だが、当時「ヨーロピアン」と呼ばれたスタイリングが受けに受け、350FOUR人気をイッキに押し上げた。これは、ヨンフォアのルックスによる効果が大きかっただろう。
しかしヨンフォアは、約2年半後に後継モデルCB400Tにモデルチェンジ。ミドルクラス唯一、若いライダーたち憧れの4気筒エンジンは、新設計のSOHC3バルブ2気筒に取って代わられ、短いモデルライフを終えてしまう。メーカービルドカフェレーサーが消えてしまったのだ。
ヨンフォアはその後、1980年代中盤に人気が再燃、それからずっと憧れの絶版モデルとして人気だけれど、当時のヨンフォアを知っているベテランは、ヨンフォアはカッコいい、美しいけれど、動力性能はサッパリ、後継の400Tの方がはるかに速かった、という記憶に彩られている。
だって、それでいいじゃない。速さなんか要らない、僕らはカッコいいオートバイが欲しいんだ──それもカフェレーサーの心理なのだろう。
だから、ホンダが新しいロードスポーツに「眺めて美しく、見られても誇らしい」とフレーズをつけた時、カフェレーサーとカテゴライズされた時、ヨンフォアの姿を思い浮かべたファンも多かっただろう。
Honda CB400FOUR
1974年
ミドルクラス初の4気筒エンジンモデルとしてデビューしたCB350FOURをベースに、外装パーツを変更、4in1マフラーを装着したのが「ヨンフォア」ことCB400FOUR。このモデルこそ「速くない、凄くない、けれどカッコいい」カフェレーサーの元祖だろう。発売時価格:32万7000円