※本企画はHeritage&Legends 2021年10月号に掲載された記事を再編集したものです。
青春のモニュメントを復活、走行させてみたい
「よく話をするようになったのはウチが店を開けた’96年のこと。ケイファクトリーさんの商品を置かせてもらうようになってからでしたね。もちろん、それまでも鈴鹿サーキットで会う機会は多かったけれど、挨拶するぐらい」と切り出したのは、ブルーポイントの辰己さん。辰己さんは今も後方排気のTZR250でTOTのZERO4クラスなどに参戦。特にTZ、TZRに造詣が深いことから、同店には多くの2ストファンから、カスタムやメンテナンスの依頼が舞い込む。
「だって辰己さんは若い頃から鈴鹿では好成績をあげて、一方の僕はと言えばいつも予選はボーダーぎりぎり。あの頃の雰囲気では天と地ほどの差があって、なかなか声を掛けにくかったもの(笑)」と応える、ケイファクトリーの桑原さん。H&Lの読者ならご存じ、同社はマフラー&削り出しパーツの開発製造を手がけるメーカーだ。取材中はおふたりとも終始笑顔。日頃からの仲の良さが滲む。
おふたりの“あの頃”を簡単に書けば、まず辰己さんは’82年に「なによりレースがしたくて」(辰己さん)、鈴鹿ロードレース選手権にデビュー。当時の市販レーサーはホンダRS125とヤマハTZ250の二択しかなかった時代。とりあえず、とTZを入手したそう。これが現在の仕事につながっていくとは思いもしなかったはず。
一方の桑原さんも’82年デビュー。最初はCB400N(ホークIII)、CBX400Fと乗り継ぎプロダクションレースに参戦したが、トップチームとのマシン差を痛感、「同じバイクならそんなに差はないだろう」(桑原さん)と、翌’83年に中古の’81TZを買ってノービス250にスイッチも、「それまで同様、予選ボーダーライン前後を行ったり来たり。甘くなかったですね(笑)」(同)と言う。
辰己さんは’85年に国際B級に昇格、その後A級となって、’90年まで鈴鹿8耐など参戦しながらレース活動を継続。桑原さんは’86年にジュニア昇格(この年から国際B級はジュニアに名称変更)。ここでレース活動を休止して、ふたりは別々の道を歩むことになった。
「僕はとてもじゃないけれど、あの厳しいコンペティションの世界に居続けることはできなかった。けれど、この年齢になっても“あの頃”が忘れられなくて。仕方がないから、こうして当時のTZを手元にコレクションすることにしたんです(笑)」と、桑原さん。
冒頭の通り、改めて付き合いが始まり、ここに紹介の’85、’92年型(’90年型は辰己さん所有車)TZのレストアが辰己さんの手に託されたわけだが(’87年型もレストアの真っ最中)、「全部揃ったらもう一度、サーキットを走らせてみたい」と、桑原さんの夢は膨らむ。
さて、こうした往年のレーサーのレストアに関して辰己さんは、「完品(パーツがすべて揃っている)状態なら、だいたいは走らせるところまでレストアできますよ。相談してください」と。思い出が詰まったTZを持つオーナーには、ちょっと気になる情報だろう。
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1985 YAMAHA TZ250/最後の鋼管フレーム採用モデルは次世代TZへの息吹も感じさせる1台
辰己さんがほぼ完品状態で入手した車両をレストア、今は桑原さんの所有となる1985年型(59W)。
’84年型まではピストンリードバルブだったが、この年からTZ250はクランクケースリードバルブを採用した。
最高出力は70ps以上を謳い、’84年型の57ps以上とした公式スペックから大幅な向上を果たした。
フロントに17インチ、リヤは18インチを履いた。
鋼管スチールフレーム+タンク内側をステアリングヘッド部までリヤショックが這う“モノクロスサスペンション”スタイルはこの年までだった。
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1990 YAMAHA TZ250/衝撃とともに発表された革新の並列2気筒後方排気の最終モデル
1988年にデビューした後方排気TZ250の、1990年型最終モデル。紹介の車両は辰己さんの個人所有車。いつでも火を入れて走り出せる状態。後方排気を得意とするブルーポイントを象徴する1台だ。
後方排気3年目となったここに紹介の3TCでは熟成は着実に進み、エンジンは前後長を詰めシリンダー傾斜角を変更するなど新設計、デジタルCDI採用などで、公称出力は前作’89年型から2psアップの78ps以上に。エンジンの搭載位置を前進させることができて、ホイールベースも1355mm→1335mmへとショート化されている。パッと見の外観こそ変わらず見えるが、前年までの後方排気TZとは異質のバイクへと変貌した。
その特異な吸排気レイアウトに目を奪われがちだが、ワークスマシンYZR由来のDELTABOXフレーム、カセット式ミッション採用、前後17インチホイール化、フロントにダブルディスクの採用など、一気に大幅な近代化も図られていた。
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1992 YAMAHA TZ250/TZの歴史を締めくくるVツインは20年後の今、すぐに息を吹き返す状態
上の1990年の後方排気(3TC)の翌年、1991年からV型2気筒へとエンジンレイアウトが変更されたTZ250の1992年型モデル。20年の時を経て、今改めての実走も楽しみな1台なのだ。
この1992年型(4DP)では吸気ポートが4流→6流となるなど充填効率を向上、初代V型エンジン比2psアップの82psに。ちなみに最終モデルとなる’09年型(’08年11月〜12月受注分。15台限定で販売された)までに93psを発揮するほどに熟成された。
フロントカウルがよりスラント、シートカウルも整流を考えたデザインとなるなど、外観はより現代車に近い印象になった。
リヤバンクのチャンバー容量を稼ぐため、スイングアームも右側が湾曲。この車両は桑原さんが管理するもので、フロントフォーク、リヤショックともオーリンズ製に換装。フロントブレーキまわりはブレンボ、マルケジーニの3本スポーク鋳造マグホイールが履かされるなど、足まわりのモディファイが目立つ。