ディメンションを考慮しステム形状を変更する
’90年代に花開いたカスタムブーム。ベース車両もさまざま、そこに盛り込まれる手法もまさに多彩。元々付くことも想定されていなかったパーツを付ける、ベースを改造していく中で、19/18インチや18/18インチの細めのタイヤから最新の17インチタイヤを履いてというように、かつての名車を現代的に走らせる手法も確立した。
「ウチのマシンは街乗りできることがまず基本。その上で、保安部品を外せばサーキット走行もできるっていうのが理想だよね」と市本ホンダ=CB’sの市本さんは、そのブーム当時からCB-F/R系に現代的な17インチタイヤを履かせ、派手目のルックスを組み合わせる車両を多く手がけてきた。
このCB1100Rは、故・市本さんが1997年に息子・宗一郎さん(市本さんは2023年5月に逝去。息子さんの名前はホンダの創始者・本田宗一郎さんに由来したものだ)の1歳の誕生日に、当時プレゼント用に作ったものだ。CB-F系のトップモデル的存在でレースベース仕様と言えたCB1100R、その’83年型(RD)がベースだ。当然のごとくというか、CB’sがそれまでのカスタムで培ったノウハウをフルに盛り込んだ「究極仕様」的な内容で、先の市本さんの言葉通りに、サーキット走行にも対応できる。他と違う工夫が明確に見られるのは、倒立フォークを装着したフロントまわりだ。
「前後17インチ化で車高は下がるんですが、バンク角の確保のために最低地上高は高くしたい。でも、使おうと思うオーリンズの倒立フロントフォークは全長が短いんです。一般的には延長キットを組んで対応するんですが、それだとイニシャルや減衰などの調整がしにくくなってしまうんですよね」
単純な延長では機能が削がれる。内部カートリッジを延長するなどの方法もあるが、ここで市本さんは別の方法を選択した。当時いち早くその機能に着目し、多くのハンドメイドスイングアームを依頼していたウイリーに相談し、トップブリッジ製作を頼んだのだ。そのスペックはヘッドパイプ上面から下方向に50mmのオフセットを取って、短いフロントフォーク長を補いつつ、フロント車高を確保するというもの。もちろんフルビレットで、剛性も確保しネガはなし。当時から25年を超えた今ならば別の手法やパーツも選べるだろうが、この当時には作業性もディメンションも妥協しない手法として、大いな参考となった。
できないことを出来るようにするという、カスタムブームの熱意やその際の技術の進化。それはブーム後にも、多くのショップやパーツメーカーが進めてきた。こうした新たな工夫の積み上げは、カスタム界のノウハウ=財産として残り、次の世代へ生かされていった。今も現役のこの車両からは、それが如実に読み取れるのだ。
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Detailed Description 詳細説明
外装はCB'sオリジナルのCB1100Rレプリカキットで、塗装はCB'sイメージカラーのパープルベースでソーメモリーがペイント。なお写真にはないがトップブリッジは本文のようにウイリー特注品で、フォーククランプ部をトップナット位置から50mm下方にオフセットしている。
エンジンは'83年式のRDベースで、JE製φ72.5mm鍛造ピストンで1062から1139ccにスープアップしている。ステンレスビッグバルブ、RSC(レーシング・サービス・センター。HRCの前身)製ハイカムなども組まれ、大幅にパワーアップした。キャブレターはFCRφ39mm。
フロントフォークはレース用のオーリンズ倒立で、こうした'80年代車の17インチ化と合わせて使うには全長が短かった。そのバランスをトップブリッジで取ったのだ。削り出し4ピストンのフロントキャリパーとディスクはともにブレンボでフェンダーにはカーボン製を装着した。
リヤディスクはカワサキのスーパーバイク用を流用。キャリパーはブレンボCNC 4ピストン。排気系はCB'sオリジナルのオールステンレスメガホンだ。
スイングアームもウイリー特注でホイール交換を容易にする耐久仕様。でリヤショックはオーリンズをレイダウン装着。ホイールはマルケジーニ製スーパーバイク用マグネシウム鋳造品で[2.50-18/3.00-18→]3.50-17/6.25-17サイズと現代的に。ドライブチェーンのオフセットは15mmとしている。