文:中村浩史/写真:松川 忍
ホンダ「ゴールドウイング ツアー」インプレ(中村浩史)
ホンダゴールドウイングは多くの人に誤解されている
国産唯一の水平対向6気筒エンジン、バックギアさえついている、スーパーヘビー級の車両重量390kgの巨体、まるでソファのようなキング&クイーンシート――。日本を代表する超弩級ツーリングバイクであるゴールドウイングは、明らかに誤解されている。
ニューモデルとして誕生するタイミングですら、年間500台ほどの販売台数計画のゴールドウイングは、通年で販売される台数、おそらく数百台。年間の販売台数が100台を下回る年もあるのだというから、これではさすがに、「乗ったことがある」ライダーはそう多くないだろう。
まず「シルキーシックス」と呼ばれることもある、ゴールドウイング独特のエンジン型式。厳密には、シルキーシックスとは、メルセデス・ベンツとBMWのクルマに使用されている直列6気筒のことを指しているのだが、オートバイにはほぼ唯一と言っていい6気筒というエンジン型式のイメージから、そう呼ばれることが多いのだろう。
けれど、決してゴールドウイングの水平対向エンジンは、シルキーと呼ぶような、無振動の静寂なフィーリングなわけではない。120PSオーバーの、意外に荒々しいエンジンなのだ。
スーパーヘビーウェイトにやや気を使いながら発進すると、2000回転も回っていれば、この巨体をぐいぐいと前に進める強大なトルクが発揮される。スロットルをじわりと開ければじわりと、ガバッと開ければ、この巨体を意外なほどの力で前に押し出す。
その回転フィーリングは、6気筒エンジンというイメージから思われがちな、まるでモーターのような、シューンと、スーッと音もなく回転するような感覚ではない。ザラザラッと、クランクシャフトの回転やピストンのストロークを感じられるような力感を持った回転フィーリングなのだ。
ここからアクセルを開けていくと、6気筒独特の、吠えるようなサウンドが哭きはじめ、びっくりするほどの瞬発力を味わうことになる。ザラッとした回転フィーリングで巨体が押し出され、決して鈍重ではないアクションができるのだ。この時のどっしりした手応えは、CB1300スーパーボルドールにも、そう遠くはない。
選択できるパワーモードは、スポーツ/ツアー/エコノミー/レインの4種類で、このうちのスポーツモードは、スロットルに対するトルク反応が鋭く、DCTのギアシフトアップポイントも高回転になり、俊敏すぎて乗りづらく感じてしまうほど。 だから、普段使いはツアーモードがちょうどよかった。これでも充分パワフルで、路面温度が低い時にはレインモード、高速巡行の時はエコノミーモードと走るシーンに合わせて使い分けた。
390kgの車体を動かすのに使われる126PSの出力は、パワーウェイトレシオ3.04kg/PSと、たとえばCBR1000RR-Rの0.92kg/PSに比べればまったく大したことがない数値なのだけれど、これをトルクウェイトレシオで測ると、ゴールドウイングは2.25kg/N・m、対してCBRは1.78kg/N・mと、グッとその数値は迫ってくる。ゴールドウイングの17.3kg-mという強大なトルクこそが、このオートバイのキャラクターを決定づけているのだ。
クルーズコントロールとハイスクリーンの快適高速走行
やはりゴールドウイングが本領を発揮するのは、高速道路を使ったクルージングだろう。ライダー込み400kgオーバーのオートバイは、極低速で持て余し気味になる、ならば高速域でこそ、このスーパーヘビーウェイトが生き生きと走るはずだからだ。
クルージングスピードまでの加速は相変わらず力強い。水平対向6気筒は、他のどのオートバイにも似ていない咆哮を響かせながら、自然なつながりのDCTを介してスピードを乗せてくる。80km/h~100km/h~120km/h――。ゴールドウイングは、どこまでも加速を止めようとしないから、法定速度に合わせて右手に少し自制心を持たせてやる。120km/hが許される区間で、スピードメーターの針を見ながら、クルーズコントロールのボタンのオン、そして定速走行をセット。スロットルを握る右手もフリーになる。
そこには、ゴールドウイングでしか味わえない世界が広がっていた。巨体はピタリと吸い付くように路面を滑り、路面のうねりやギャップも、サスペンションが自然にいなしてくれる。
どっしりとした安定性というと言い古された表現になるけれど、そうとしか言いようがない。たとえば、このどっしりがCB1300スーパーボルドールとどう違うか、と言われればゴールドウイングの方がシートが低く、重心が路面に近いから、本当に吸い付くように、路面を滑っていくのだ。
レーンチェンジの局面では、曲げようとアクションを起こすと、フロントタイヤが路面を掘り込むようにホールドしながら車線を変えてくれる。決してクイックではないけれど、鈍重でもない。これが、ゴールドウイング独特の動きなのだろう。
左ハンドルにあるスイッチでウィンドスクリーンの高さを変えてみる。トップ位置ではヘルメットごと無風域になり、ロー位置ではちょうど額あたりまで防風してくれるのが分かった。これは、実は雨の走行でも有効で、激しい土砂降りの中を数10分走ったけれど、スクリーンをトップの位置にしておけば、ヘルメットのシールドを開けて走っても平気なくらいだった。
せっかくだからオーディオも使ってみよう、と標準装備のラジオを聴きながら走ってみると、80~100km/hくらいならば問題なく聞くことが出来て、120km/hでは耳に届かないくらいだと分かる。アメリカのハイウェイを55MPHで走る分には問題ない、ということなのかもしれない。