850cc上限の中で試した仕様をストリートにも生かす
レースでのノウハウをストリートカスタムにも生かす。特にテイスト・オブ・ツクバ=TOTは、主力となる鉄フレーム+多気筒エンジンの旧車がそのノウハウを積み上げる場ともなっている。
この車両は2016年までTOT F-ZEROクラスを走り、’22年のTOT KADURADUKI STAGEで6年ぶりにZERO-1で復帰し、2位入賞を遂げた“タゴスニンジャ”だ。もう20年以上前、TOTの前身となるテイスト・オブ・フリーランス=TOFに出走していた車両がルーツで、2000年12月のテイスト・オブ・フリーランス2000スペシャルラウンドでコースレコードを記録(ライダーは茂木正人さん)してFORMULA-ZERO(F-ZERO)クラスに移ったという。この少し前にブルドッカー・タゴスの田子さんはアメリカのデイトナ・モーターサイクルウィークでニンジャが31度バンクを駆ける姿を見ていた。そのイメージもずっとこの車両に込められていると言っていいだろう。
またタゴスでは今、ストリート用のGPZ900R Ninjaの多くにリフレッシュを勧めている。例えばステアリングステムなら、距離や時間に応じてベアリング交換を勧める。“ちょっとへたった感じからリセットして、新しい状態を作る”ことで、“これだ!”というしっかりした動きやキレを取り戻す。するともっと乗れるし、楽しくなる。と同時にこのリセットは、登場40年、生産終了20年というNinjaの純正パーツ欠品が進むことへの対処にもなっている。
「大きいところも含めて言うと、エンジンの作業は増えています。ミッションを始め純正欠品が増えたこともあって、何かあってそれをすぐ直すというのも難しい。ですからまず壊れない、遠くに行って不安でドキドキするようなことのないように。その上で少し元気よくというように仕立てるんですね。クランクジャーナルのラッピングやトレーディングガレージナカガワのR-Shot、WPCなどの表面処理も使いますが、どれも有効だと思います。
さらにその手前の段階で、エンジンオイルの管理をきちんとするといいんです。いいオイルを使うと、ばらしてもエンジンの中がきれい。交換する時には少し高いかなと思うかもしれないですけど、スムーズに動くのなら消耗もしにくいし壊れにくい。つまり、あとが安く済みます」と田子さんは言う。
そのストリートエンジンには、このZERO-1クラス用Ninjaレーサーのノウハウも生かされている。それはクラスのレギュレーションから導き出されたものでもある。
「以前出ていた(冒頭で説明)F-ZEROは予算があれば、排気量はじめいろいろできますけど、ZERO-1クラスは一番速さにつながる排気量が850cc上限として制限されています。ですから、マシンを速くするとなったときに工夫のしがいがあります。この車両のエンジンもGPz750R(φ70×48.6mm/749cc)とGPZ900R(φ72.5×55mm/908cc)のパーツ混成で、750クランクを使っていますが、こちらの方がトルクが出せます。今回はφ73.5mmピストンで824ccでしたが次回はφ74mm(φ73.5mmに同じヴォスナー鍛造品)が用意できて850cc仕様になります。余してしまうのでなく回しきる感じもあって、ストリートでも楽しい仕様だと思いますよ」と田子さん。
いかにロスを減らすかや、ボア×ストロークほかどんな組み合わせでいい特性を掴むかという工夫がZERO-1では鍵になってくる。そのいろいろ試した結果、つまりレースでの結果はイコール扱いやすさにもなるから、それがストリートにも反映されるというわけだ。
「足まわりはもうセッティングも出ているし、ライダー(井上玄悟さん)は初めてのニンジャでしたけどスムーズに乗れたようです」と、この6年ぶりの参戦で見事に2位を獲得したこのレーサー、さらに’23年5月のTOT SATSUKI STAGEではZERO-1クラス優勝も果たしている。仕様も、先の管理についても、今後も注目したいと思える1台なのだ。
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Detailed Description 詳細説明
カワサキ純正流用のエンジン回転計を備えるメーター部にはヨシムラ・プログレスメーターを追加する。カウルステーもアルミで起こし直されている。ステムキットはケイファクトリー。左右のマスターシリンダーはともにゲイルスピードVRCを使っている。
フロントカウルはマジカルレーシング製でアルミ製のインナーフューエルタンク/シートカバー&タンクカバーはパワービルダー製をマウントしてある。
エンジンはZERO-1クラスの850cc規定に合わせた仕様で、クランクはGPz750R(ストローク48.6mm。900Rは55mm)。シリンダーヘッドとシリンダー、ケースは900R。ピストンは今回φ73.5mmのTAGOS×ヴォスナー鍛造品で824cc。撮影後にφ74mmの850cc仕様化を予定していた。
キャブレターはFCRφ39mmで、排気系はケイファクトリー製フルチタンエキゾーストのディアブロ・オピウムを組み合わせている。
ライディングステップやダウンチューブ、クラッチレリーズはケイファクトリー製アルミ削り出し。アルミ製シートレールもケイファクトリー製だ。
フロントフォークはφ43mmのハイパープロAH1でフロントブレーキはブレンボAxial・4Pキャリパー+サンスター・プレミアムレーシングディスクの組み合わせ。
リヤショックもハイパープロでスイングアームはケイファクトリー製。ホイールはゲイルスピードType GP1Sで3.50-17/6.00-17サイズを履く。ドライブチェーンはRKの520FWRを使う。
リヤキャリパーはブレンボCNC 2Pでリヤディスクはサンスター・プレミアムレーシングディスク。ブレーキラインも前後ステンレスメッシュ化済みだ。