文:中村浩史/撮影:松川 忍
スロットルを大きく開けた瞬間の路面を蹴とばす感じがイイ!
実際に走り出すと、FTRにジャジャ馬感や手に負えないモンスター的印象は、ほぼないと言っていい。
エンジンはスムーズに、トルクデリバリーもスロットルにきちんと応じた適切なもの。不快な振動はなく、スロットルを開けたら開けた分だけ加速、閉めたら閉めた分だけ減速してくれる。右手の動きにリニアというか、パワーフィーリングの完成度はかなりのものだ。アメリカ産、Vツイン、フラットトラッカーレプリカという言葉からは、まったく想像できないフィーリング。きっと、誰もが驚く。
スロットル開度がわずかなところからトルクデリバリーがあって、1000回転台の低速走行もスムーズにこなしてくれる。ちなみにトップギア6速で2000回転だと60km/hでスムーズに進むことができる。
高速道路のクルージングでは、6速80km/hが2900回転、100km/hが3500回転、120km/hは4100回転といったあたり。120km/hあたりでは走行風の圧もさほどではないから、ネイキッドだから云々といった感想は生じない。どっしりと直進安定性がある、国産ビッグネイキッドモデルのようだ。
2019年に日本発売された初期モデルは、フロント19/リア18インチホイールを採用していて、もうすこし直進性の高い、フロントが路面に粘りつくようなハンドリングだったけれど、現行モデルで前後17インチを採用。よりニュートラルな、直進安定性とレーンチェンジの軽快さを両立した、身軽なフィーリングになった。
もちろん、身軽になったとはいえ国産モデルの俊敏なものではなく、きちんと大きさや重量を感じさせるもの。フロントまわりの「軽すぎない安定性」はホンダCB1300にかなり近いフィーリングだと感じたほどだった。
クルージング中に前方が空くと、パッとスロットルを開けて加速したくなるVツイン。スロットルをあえて大きく開けてみると、リアタイヤが路面を蹴飛ばす感覚が気持ちいいし、このトラクション感がFTRの楽しさだ。
ちなみに、アメリカンマッスルカーやトラクションの塊、というような表現を使ったけれど、クルージング域の燃費は約22km/L。1200ccで120PSのエンジン、このパワーフィーリングやパンチある走りの面白さを考えると、かなりイイ。ちなみにタッチスクリーンメーターに表示される燃費データもほぼ正確だった。
最新技術に裏打ちされた野獣はこんなに従順で、こんなに楽しい!
装備重量が230kgにも及ぶオートバイがワインディングを軽やかに駆け回る、というのはちょっと非常識だけれど、FTRは国産ビッグネイキッドやドゥカティ・モンスター、トライアンフ・スピードトリプルといった、ライバルと目されるであろうモデルたちとは一線を画すキャラクターがある。
それはやはり前述したトラクションのかかりの気持ちよさ。加速区間できちんとスロットルを開けて、ブレーキングを頑張ってコーナーを旋回、そこから脱出でまたストロットルを開けるという一連のアクションで、とにかく加速が気持ちいい! 半面、旋回に関しては、重いものがゴロンと転がるというか、おそらくエンジンまわりのマスと重心の低さが安定方向に振れてしまっているようで、メッツラー・スポルテックのパフォーマンスをフルに発揮するに、まだ届かない印象だ。
けれど、ペースを上げながら加速→減速→加速を繰り返すと、意外なほどリズムに乗ってコーナーをクリアすることができる。こんなキャラクター、今どきちょっと珍しい!
さらに、この加減速で頑張るキャラクターは、コーナリングで頑張りすぎなくていい分、スキルのないライダーにも恐怖感を与えることなく、ワインディングを走ることが可能なのだ。
おそらくサーキットを走ると、CB1300やモンスターより良いタイムを出すのは難しいけれど、スポーツしたい、チャレンジしたくなる、気持ちのいいオートバイといえるだろう。
今回のテストでは、渋滞のあるストリートから高速道路を走り、海辺をクルージングしてワインディングも走った。基本は街乗りが楽なオールラウンドなスポーツバイクで、初期モデルの、ダートトラックもこなせるスポーツ性こそ弱まったけれど、ここに不満があるライダーは少数だろう。ダート路面をスライドさせながら走るライダーなんて、世界でもごくわずかだからだ。
FTRは、最高峰クラスの200PSや300km/hを競うオートバイではないし、荷物の積載性もゼロ、きっとタンデムライダーの快適性もほとんど考えられていない不便さのある、独特なキャラクターをもつストリートスターなのだ。
日本、いや世界で知られたオートバイブランドの中でも、ほぼ最後発だといっていいインディアンのスポーツモデルであるFTRが、東京モーターサイクルショーでお披露目された時のことは鮮明に覚えている。なんてカッコいい、そしてきっと乗りこなすのが難しそうなバイクなんだろう、と。
初めて乗ったFTRの初期モデルは、ものすごく発熱するエンジンだったし、前後ホイールサイズによる独特なハンドリングは、乗りこなすのが難しそうなモンスターだった。
けれど、きちんと訓練された猛獣のように、現行モデルのFTRは、誰でも味わうことのできる楽しさにあふれた、キャラクターのハッキリしたオートバイだ。これは、世界中の人にぜひ味わってほしい――きっとオートバイライフに新しい選択肢が増えているのだ。