文:中村浩史/撮影:松川 忍
インディアン「FTRスポーツ」インプレ(中村浩史)
上質で従順な反応FTRは野獣ではなく紳士だった
得体のしれないオーラが噴き出しているようなオートバイだ。
アメリカ生まれのVツイン、フラットトラックチャンピオンのレプリカとして生まれた、その名もFTR――フラット・トラック・レーシング。
さらに世界最古のオートバイメーカーのひとつ、インディアンの作品だというのだから、乗る前から人間を圧倒する、強烈なオーラがあふれている。
スタイリングは、いわゆるネイキッドバイク。FTRスポーツは、バリエーション3モデルのうち、スタンダードとRカーボンと違って、唯一小ぶりなスクリーンとアンダーカウルを装備してはいるものの、FTRのパッケージはトレリス形をしたスチールパイプフレームのネイキッドモデルだ。
メインフレームいっぱいに、隙間なく存在感を主張する水冷Vツインエンジン、そしてそこから伸びる、ズ太いエキゾーストパイプと、2本並んで天を衝くサイレンサー。小ぶりなタンクとテールがカチ上がったショートシートが、外装をミニマムに留め、逆にエンジンやフレーム、サスペンションといったメタルの塊感をむき出しにする。
到底、手に負えない、そう思わせるド迫力――。これがFTRの最大の魅力だろう。まるでマッスルカー、コルベットのように、チャレンジャーのように、マスタングのように、イカツい迫力がオーラとなって噴き出し、乗りこなせないモンスター感に圧倒される。こんなオートバイ、世界中を探したってめったにあるものじゃない。
けれど、いざ走り出すと、両足に挟み込んだモンスターは、意外なほど従順なアクションを見せてくれる。振動でハンドルバーを掴む両手がしびれっぱなし――なんてことはまるでなくて、充分に躾の行き届いた、上品な回転フィーリングに驚くことになるのだ。
1203ccの水冷Vツインは、アイドリング域から滑らかな回転フィーリングだ。Vツインにイメージするズドドドドド、な擬音など感じられずに、クリアに鼓動だけを感じさせてくれる。
あっけなく軽いクラッチレバーを握り、シフトペダルを踏み込むと、これもガチャン、というシフトショックもなく、カタンとローギアに入る。
なんて上品、なんてソフトな操作感。そのまま、アメリカンVツインでストリートに滑り出すと、実用トルクは2000回転も回していれば十分で、アクセルに対する反応も素早い。
とんでもない勘違いをしていた。FTRは、野獣ではなく紳士だった。