文:太田安治、オートバイ編集部/写真:南 孝幸
カワサキ「Ninja ZX-4RR KRT EDITION」サーキット&峠道 インプレ
ZX-4Rに興味のあるライダーの多くは「80PSものパワーで走りはどうなの?」というものだろう。高回転までブン回したらどうなのか、ハンドリングはどうなのか? ということで、まずはZX-4RRのスポーツ性能を検証する。
しなやかな足が峠で光る、フレンドリーなキャラ!
「R」をふたつ重ねた車名にレーシーなルックス、常識破りのパワー。ZX-4RRのイメージはことごとく過激だ。当然、1990年代のレーサーレプリカのように、サーキット走行前提の尖ったキャラクターを想像する人も多いだろう。だがそれは違う。ZX-4RRはサーキットでの戦闘力ではなく、公道での楽しさを最優先に作られているのだ。
400ccで80馬力というパワーは、1990年前後のF3(市販車改造クラス)レーサーに近い。このクラスのマシンに数多く乗った経験から、低中回転はモッサリ回るだけで、高回転になるとパワー炸裂というピーキーなエンジンを想像したが、走り始めてすぐに技術の進化を思い知らされた。
2000回転からでもスムーズに加速し、1万6000回転まで一直線に伸びる。1万2000回転あたりから力に厚みが加わるが、明確なパワーバンドはないに等しい。スポーツ走行で使うギアより1速高くても大差ないペースで、2速高くてもモタつかずに走れるほどフレキシブル。これがかつてのレーサーレプリカとの決定的な違い。パワーを振り絞ったエンジンではない。
ハンドリングも想像よりはるかに穏やか。RRはリアサスの動きがしなやかで、ブレーキングとスロットルオンでのピッチングがやや大きめ。サーキットでは旋回力を引き出しにくい面があるが、シャープで強力な旋回性よりスポーツランでのコントロール性と安定性を狙った結果の設定として納得できる。
事実、峠道での扱いやすさは惚れ惚れするほど。コントローラブルなブレーキ、自由度の高いポジションで、常識的な速度でも充分楽しい。かつてのレプリカが「サーキット7:公道3」の配分だとすれば、ZX-4RRはその逆。見た目とは違い、実にフレンドリーなスポーツモデルに仕上がっている。
カワサキ「Ninja ZX-4RR KRT EDITION」街乗り&ツーリング インプレ
サーキットやワインディングだけでなく、街乗りやツーリングでの使い勝手も大事なポイント。ということで、お次はZX-4RRで日帰りツーリングに繰り出してみたぞ! 街乗りやツーリングでの扱いやすさに注目だ。
街乗りもツーリングも快適にこなせる万能選手
サーキット試乗ではソフトめのサスと安定志向のハンドリングゆえにタイムを削る難しさも感じたが、現在このクラスのオートバイが出場できるレースはごく少ない。大多数のライダーにとって重要なのはサーキットでの速さではなく、公道での乗りやすさだ。
その点、ZX-4RRの完成度は素晴らしく高い。ゼロ発進でもクラッチ操作に気を遣わず、滑らかに速度を乗せていく。ZX-25Rのようにエンジン回転に留意して追い越し加速では躊躇なくシフトダウン、といったシビアさがなく、市街地なら6000回転以上を使うこともないだろう。なお、6速・100km/h時は約6200回転。高速クルージングでも余裕たっぷりだ。
秀逸なのはアップ/ダウン両対応のクイックシフター。中には低回転域で反応が悪いものやタッチが堅いものがあるが、これは2500回転以上なら小気味よく決まる。シフトダウン時のブリッピングは意図的に多くしているようだが、ショックがほとんどなく、バンク中でも安心してシフトダウンできる。
ZX-4RRの狙いが如実に表れているのは乗り心地だ。同じ車体を使っているZX-25Rはフロントがソフトでリアがハードだが、このRRはフロントの減衰力が高められていて、ソフトでありながらフワ付きが抑えられている。目玉装備であるリアのBFRC-liteサスペンションは、ストローク量を有効に使う設定。1G(車体に体重が乗った状態)から実に良く動く。市街地の小さなギャップ、峠道に増えている減速帯からの衝撃を見事に吸収するので接地感が薄れず、ライダーの肉体的負担も抑えてくれる。
今回はSEに乗る機会がなかったが、僕なら迷わずRRを選んで、SEの装備は必要に応じて後付けする。それぐらいRRのリアサスには価値があると感じた。