文:中村浩史
カワサキ「GPZ900R」誕生から国内販売までの歴史
あまりの人気ぶりに国内でも正規販売開始
1973年発売のZ2こと750RSから続いてきた「ビッグバイクのカワサキ」というキャッチフレーズは、1984年に新章に突入する。GPZ750/900Rニンジャの誕生である。
エンジンは当時まだ珍しかった「水冷」4気筒で、排気量はオーバー1000ccが当たり前になりつつある時代、あえて900ccに設定。これは、カワサキビッグバイクがZ1の900ccから始まったことに由来するマジックナンバーと呼ばれた。
ニンジャの登場は、それまでのビッグバイクのパフォーマンスウォーズを加速させたモデルでもあった。
1980年代中盤の国内4メーカーのビッグバイク市場は、世界最速争いが激化している頃。CB1100F、FJ1100、GSX1100Sが覇を競っていたなか、カワサキの空冷ラストモデルGPZ1100に替わって投入されたGPZ900Rニンジャは、排気量のハンデをフルカウルによる空力と、水冷エンジンでカバーし、最高速とゼロヨンでトップクラスのタイムをマークした。
さらにトム・クルーズ主演のハリウッド映画『トップガン』にも登場したことで人気が爆発。2022年公開の続編『トップガン マーヴェリック』にも、ガレージの隅に眠っているGPZ900Rがチラリと映し出されるシーンもあった。
GPZ900Rの登場は、ビッグバイクの高性能化も呼び寄せ、1985年にはGSX-R750やFZ750、1986年にはVFR750Fや、GPz750Rの進化版ともいえるGPX750Rが登場。国産750ccモデルも完全にレーサーレプリカの時代に移行していく。
さらにオーバーナナハンも超進化を始め、1986年にGSX-R1100、1987年にはFZR1000が登場。900ニンジャも1986年にGPZ1000RXへ、1988年にはZX-10に、1990年にZZ-R1100に進化したが、その後も販売を継続したことでも、いかに人気があったか、ファンが多かったか、わかるというものだ。
その900ニンジャは、1990年にフロントホイールを16インチから17インチに、フォークインナーチューブ径をΦ38mmから41mmに変更したモデルチェンジはあったものの、ほぼ姿かたちを変えることなく販売が継続されるほどの人気で、発売当初は輸出専用モデルだった900も、あまりの人気に逆輸入という形で日本に多くのニンジャが上陸したことで、1991年にはついに国内でも正規販売を開始したほどだった。
世界最速モデルとして登場し、後発のライバルたちにパフォーマンスで敵わなくなると、扱いやすいストリートバイクとして、そして現在ではプレミアムな旧車としても高い人気を誇っている。目新しさだけでなく、意味合いを変えて生き続ける不朽の名車なのだ。
文:中村浩史