カワサキのお家芸といえるミドルクラスのパラレルツインが今また「ザッパーの再来」として注目を浴び始めている。ザッパーとは、アメリカでの風斬り擬音「Zap」からのスラングで風を斬って疾走るオートバイのこと。今どきのザッパーは、時速300km/hでもゼロヨン10秒台でもない。いつでもどこでも、誰にでも思い通りの走りができるオートバイのことだ。
文:中村浩史/写真:森 浩輔

カワサキ「Z650RS」インプレ(中村浩史)

画像1: Kawasaki Z650RS 総排気量:649cc エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列2気筒 シート高:800mm 車両重量:188kg 税込価格:103万4000円

Kawasaki Z650RS

総排気量:649cc
エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列2気筒
シート高:800mm
車両重量:188kg

税込価格:103万4000円

峠でも都内でも速いヤツはザッパーに乗っている

650ccというと、今も昔も中間排気量、ミドルクラスのオートバイというイメージがある。

かつて1950年代には、500ccからスタートした英国車のバーチカルツインが650cc化し、しばらくはオートバイの最大排気量だったことがあったのに、時代はそれから750cc、1000cc、1100cc、そしてそれ以上の排気量も許容する技術や性能担保が可能になっていったからだ。

日本のオートバイが、英国車に追いつき追い越せ、と性能向上を目指していた時代。それは、別記事で触れたように、日本で650ccの歴史がスタートした1966年(昭和41年)のカワサキW1だろう。名神高速、東名高速が部分開通を始め、ちょうど日本に高速道路時代が到来した頃だ。

W1登場の3年後にはホンダからナナハンことCB750FOURが登場。ナナハンはそれまでの常識をひっくり返し、1971年にスズキGT750、カワサキ750SS、1972年にはヤマハTX750、そしてカワサキから900スーパー4も登場。650ccどころか750ccオーバー時代が始まるのだ。

1973年にはカワサキZ2こと750RS、1976年にスズキがGS750を発売すると、当時厳しくなり始めていた環境問題を見据えて、各メーカーとも4ストローク750ccが出揃っていく。

ホンダも1974年にGL1000を発表し、日本は完全に750ccオーバー時代に突入するが、それでも650ccはラインアップから消えず、時代に取り残されはしなかった。

1975年には自動二輪免許制度も改正され、いまの普通二輪こと中型限定免許が誕生。中型限定=400ccまでしか乗れないライダーが増えたけれど、だからこそ650ccは生き残った。1000ccクラスが輸出オンリーだった時代、国内最大排気量の750ccは憧れの排気量だけれど、大きく重すぎて乗れない、とても扱いきれない、という意見が少なくなかったのだろう。

たとえば4気筒エンジン車に400cc/650cc/750ccの3ラインアップがあったカワサキの例。Z400FXが出力43PS/重量205kgだったのに対し、Z750FXは70PS/264kg。そして、その中間のZ650は64PS/228kg。Z650は見事に、400ccより力が強く、750ccよりも軽かったのだ。

画像: Kawasaki Z650 1976年 www.autoby.jp

Kawasaki Z650
1976年

www.autoby.jp

特にザッパーは、当時から腕に覚えのあるライダーが乗るバイク、という評判もあった。それは、やはり400ccより力があって、750ccよりも軽くコンパクトという理由からで、特に車格が400ccに近く、1420mmのホイールベースが、Z750FXの1495mmよりはるかに短く、Z400FXの1380mmにほど近いという数字にも表れていた。

当時のジムカーナ競技では、全国各地でザッパーがイチバン速い、大垂水峠最速、そして東京都内最速のプレスライダーはザッパー乗り! という都市伝説も定着しつつあった。火のないところに煙は立たないものだ。

ザッパーは、カワサキビッグバイクの新しい時代を告げるオートバイだった。国内モデルの頂点である750RSが、900スーパー4と同じ車体に、750ccのエンジンを積んでいたのに対し、ザッパーは軽量・コンパクトなハイパワーエンジンを目指しての開発がスタート。650ccとしたのは、車体も専用設計の軽量コンパクトなものならば、750ccと対等の出力をマイナス100ccでもクリアできる、というカワサキの自信だった。

そして650ccで生まれたザッパーは、1980年に新世代750ccのベースエンジンに昇華。1979年に誕生したZ750FXが、FXⅡに進化。車名はほぼ同じでも、まったく新しいカワサキ750ccが誕生した瞬間だった。

画像1: カワサキ「Z650RS」インプレ(中村浩史)

誰にでも扱いやすさを感じさせるストリート域での並列2気筒

ザッパー誕生から45年。2021年に「ザッパーの再来」と発表されたZ650RSは、Ninja/Z650をベースとしたノンカウルバージョン。カワサキはわざわざザッパーのイメージカラーであるキャンディエメラルドグリーンの車体色を採用して、新しいザッパーのイメージを強調した。

これはZ900をベースにZ1/Z2をイメージさせるノンカウルとした大ヒットモデルZ900RSの手法と同じだが、Z650RSは2気筒エンジン車。4気筒エンジンを搭載していたザッパーそのままの再来、というわけにはいかなかった。

今どきのモデルらしく、ベースモデルからの専用設定は少なめに。それでも、ザッパーを思わせるティアドロップタンクや、わざわざシートレール角度を下げて水平に近づけたシートレール、コンパクトなZ2テールが、カワサキヘリテイジを感じさせる。

同時に発表された「Z誕生50周年記念モデル」では、いわゆるZ2の「火の玉」カラーもラインアップされたが、やはりザッパーにはグリーンが相応しい、と思った人は少なくなかっただろう。

画像2: カワサキ「Z650RS」インプレ(中村浩史)

乗り味は、モディファイが加えられているとはいえ、やはりほぼNinja/Z650に近いものだ。大きく違うのは、やはりザッパーを思わせるアップハンドルによるライディングポジションで、上体が起きた快適ポジションが、カワサキが狙うレトロスポーツの味わいを濃くしている。

パワーフィーリングは、常用回転域できれいにトルクが出ている。アイドリングすぐ上の低回転域ではダイレクトな反応、中回転域には鼓動が連続したビートになって、高回転へのつながりがスムーズ。特に常用回転域で意のままにコントロールしやすいエンジン特性に仕上げているようだ。

ストリートでいつも使う回転域は2500~3500回転ほど。6速2500回転で流していると、2気筒らしいパンチあるパワーフィーリングと、穏やかでスムーズな出力特性が同居しているようなエンジンだ。

カワサキの2気筒400ccエンジン車でいうと、Ninja/Z400があるが、400ccのエンジンよりも出力は30PSほどアップしていて、これはもう別物。高回転でパワーを稼ぐ400ccとはキャラクターも別物で、約25kgほど増えた車両重量を補ってあまりある、軽量ハイパワーに仕上がっている。これもまた、ザッパー時代から変らない650ccの良さである。

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