※本企画はHeritage&Legends 2022年7月号に掲載された記事を再編集したものです。
17インチのために車高を適正化する専用品を製作
今やスイングアームの換装は、カスタムに当たり前の手法となった。ノーマルから剛性を高め、タイヤのグリップ力を引き出す。精度の高い製品なら作動性もより高まる。もちろん、ルックスも引き締まるという具合だ。
GPZ900Rでも国内仕様登場時からスイングアーム変更は当然のように行われていた。ただそこには、ホイールサイズの変更という要素もあった。一貫してリヤ18インチを採用したGPZ900Rノーマル。それを前後17インチにし、ハイグリップタイヤを履く。多く見られたのは、後継機ZZR1100用のコンバートだった。
「あの当時、’90年代、2000年に差し掛かるあたりまではニンジャのカスタムにも純正流用がすごく多かった。いろいろ換えたいんだけど、専用品を使おうと考えていた人が少なかったのかな。高いパーツは売れない時代でした」
こう言うのは、ハンドメイドスイングアームや各種ビレットパーツを次々と送り出してきたウイリーの富永さんだ。’80年代にはオリジナルのアルミ目の字断面材でスイングアームを作り始め、’90年代にはオーダースイングアームが全国的に知られることになる。同年代末にはビッグ目の字材を投入するなどしてきた。
「当時ウチでもオートポリスをニンジャで走るからってスイングアームを頼まれて作ったんです。すると17インチハイグリップタイヤが前提。リヤもリンク比が変わるので、対応リンクは早くから作りました。これは今でも動く定番の製品になってます。ただ、GPZ900Rはリヤを17インチ、小径化した時に尻下がりになってしまう。それで作ったのがハイトコントロールタイプスイングアームでした」
アイキャッチの写真は、今もウイリーに保管してある当時のテスト品。薄いブルークリアのダイヤモンドコートが施され、今の製品と言ってもいいほどの状態に保たれている。
「流用の場合でも偏芯式のエキセントリックアジャスターを逆付けして、アクスルシャフトが下側に来るようにしていたでしょう。すると元の18インチと同じ車高になる。あれを通常のチェーン引きと組み合わせるようにしたんです。
チェーンを調整してもアクスル位置はそのままで車高を17インチ用に確保して尻が下がらない。ちゃんと車高=ハイトをコントロールできますよという意味で名付けたんです。このスイングアームがハイトコントロールの最初。当時3本作ったうちの1本です」
リヤブレーキキャリパーブラケットも作動を確実にする直付けタイプ。右側ピボットベアリングはラバーシールタイプで、フレームとの隙間がなく装着できるなど、今のウイリースイングアームに通じる要素もしっかり盛り込まれる。富永さんが乗り手として、作り手として重視する部分の作り込みは変わらないということだ。
「さすがにキャリパーブラケットの削り方やデザインは今見れば古いけどね。チェーン引きもブラケット側とエンド部で挟んでるけど、今ならコの字とか2ピースにできるのが、ブリッジを入れて3ピースだったり。それだけNCなど機械もCADも進化してるんです。幸いにも今はカスタムの意味を理解して、いいパーツを使おうという人も多いですから、まだまだニーズには応えたい」
ハイトコントロールスイングアームのルーツから、パーツの持つ意味も改めて考えさせられた。これからのパーツにも、そんな目をもって見ていきたい。
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当時3本が作られた17インチニンジャ用ハイトコントロールスイングアーム
スイングアームピボット右側。
ボールベアリングを採用し、フレームとの隙間があっても正確に作動する。
上の青いニップルはアーム内をキャッチタンクとして使うためのもの。7N01ビッグ目の字(90×40mm。通常目の字は70×35mm)断面材はここで切り込みを入れテーパー状に成型、NC削り出しのピボットパイプに溶接後、時効硬化を待ってピボットをボーリングする。左右ブリッジも溶接。
裏面のリンクマウント。ここも削り出しだ。
直付けキャリパーブラケット。2ピースなのはキャリパー変更への対応用だ。
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ニンジャ用パーツは今も進化を続ける
GPZ900Rなどカワサキ水冷系クラッチカバー(タイプS-II)。カバー類やステムなどのビレットパーツも進化を続け、ニンジャ用はまだまだ人気が続く。
ニンジャ用17インチ対応リンク(~A11用、A12~用あり)。リンクはハイトコントロールスイングアーム初登場時からの定番で削り出し。
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細部を進化させつつ作られるハイトコントロールスイングアーム
今のウイリーHPで紹介されているGPZ900R用スイングアーム。リヤアクスルシャフトをスイングアームピボットシャフトより下に置いたハイトコントロールタイプで、コの字形状のエンド部やブラケットの作りに進化が見られる。