文:濱矢文夫、アドベンチャーズ編集部/写真:柴田直行
BMW「G310GS」インプレ(濱矢文夫)
高速巡航も、落ち着き払って快適そのもの!
BMWにはアドベンチャーツアラーカテゴリーを代表する存在のフラットツインエンジンを搭載したR1250GSシリーズがフラッグシップとしてある。その下にはF850GS、F750GSと並列2気筒エンジンモデルがきて、最も排気量が小さいこの312cc単気筒エンジンを使ったG310GSが並ぶ。
このドイツのブランドは40年以上GSシリーズを作り続けてきた歴史があり、歴代のどの機種もアドベンチャーとしてこうあるべきだというブレない作り込みを続けてきた。その独自のアイデンティティが走る楽しさがありながら合理的で、訴求力のあるオリジナリティあふれる世界を我々に提供してきた。もちろん末弟のGSも多分にもれない。
こういう表現すると、とんでもない装備や走行性能なのかと想像されそうだが、それは思い違い。贅沢にコストをかけた部分や奇をてらうところなどなく、初めて触れて走り出したときからずっと自分のバイクとして乗ってきたような違和感のない感覚。無理なく連続した走行を続けられる疲れにくい操縦性と、扱いに戸惑わないエンジンフィール。たくみなほどにそれがさも日常的で当たり前だと思わせるように仕上げている。
高速道路の入り口を目指した朝のストリートでは、2021年のマイナーチェンジで採用したスロットルバイワイヤの恩恵もあり、ノロノロとクルマの後ろをついていく低回転域での加減速ばかりでも、ギクシャクすることなくスムーズ。前方が空いてアクセルを大きく開けていくと嫌がらずにレブリミットまで達する。低速で低回転の走行から、追い越しをしたくて右手をひねり加速を強めるところまで従順で素直に動く。
電子制御スロットル化と同時にアシスト機能付きのアンチ・ホッピング・クラッチ(スリッパークラッチに相当)を採用したことで、クラッチレバー操作が軽いから信号で停止することが多い街中では助かる。手のひらが一般的な人より小さく、指が短い私にとって左右のレバーが4段階調整可能だからとてもうれしい。こういうライダーが使いやすいようにする気配りはハンドルバーの形状からも感じられる。
R1250GSシリーズと同様に、オフロードモデルのハンドルバーみたいにまっすぐに近いカタチではなく、グリップ部分がライダーの手前にやや絞られている。これによって、ヒジを外に出だすようなポジションにならずもっと内側に入り、腕が短い人でもコンパクトで楽な操作ができる。手首の負担も小さい。酸いも甘いも噛み分けたベテランだけでなく、入門者やリターンライダーも手を出しやすいクラスだからこそ、こういうユーザーインターフェースは長く使っていく上で大きな利益。
高速道路に入り込むと細身でコンパクトな車体ながら、直進安定性が良いことに感心。前後180mmとロングトラベルなサスペンションはうねりや段差をいなし乱れにくく、こわばらずリラックスしたクルージングができた。やや振動があるものの、途中で雨が降りだした100kmちょっとの距離なんて朝飯前といった感じ。疲れは小さい。ひかえめなウインドスクリーンとフェアリングは、見た目から想像するより風を防いでくれる。もうこの時点でアドベンチャーとして合格を与えたい気持ちが固まっていた。
たどり着いた山道では、ヒラヒラと軽い操作性。つづら折りがイヤどころか、アクティブな気持ちでペースを上げたくなる身のこなし。フロントが19インチでリアが17インチのアドベンチャーモデルとしては定番の外径のキャストホイールを履き、クイックすぎない、いい意味で落ち着きがあって路面変化の影響も小さい。標準タイヤのメッツラー・ツアランスは、そこそこのグリップながら、リーンしていく挙動は自然で、接地している面が広く路面をしっかりとらえている印象。汎用性が重要なバイクのキャラクターと合っている。
エンジンは極低回転域では粘りながらトコトコと歩くような速度で進ませることもできる。最大出力34PS、最大トルク28Nmのパワーは順当なものだが、スムーズにトップエンドまで軽く回り切るから、加速するのが気持ちいい。ずば抜けた速さはないけれど、混合交通の中をリードして走れるだけの加速を見せてくれる。高回転域だけでなく、中回転域でのトルクも太くはないがある。だから回転数が落ちたところからでも、急ぐことがなければギアを落とさずスロットルだけでいける寛容さ。
存在に疑いを持っている人がいたなら、心配することはないと教えてあげたい。総合的なまとまりの良さは、たとえエントリークラスでもGSはGSなのである。それを強く感じた。伊達ではない。これ1台でも充実したバイクライフがおくれそうだ。
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