※本企画はHeritage&Legends 2022年8月号に掲載された記事を再編集したものです。
よく使うからや温度が高いゆえの劣化を見よう
「整備項目は1年を通じて基本的には同じなんですけど、注意したいことの強弱はありますよ」
おなじみレッドモーター・中村さんは言う。今回は2000年型のヤマハYZF-R1を用意してくれた。ほぼノーマルで走行は5万kmを優に超えているが、一見しただけでは塗装の衰えやサビ、汚れというものは見られないようだが……。
「割とよく手入れされていたんでしょう。でも、時間も距離もそれなりに経っています。そんな車両は夏の劣化も出やすいんですよ」
そう言って中村さんはシートを外し、バッテリーの状態をチェック。続いて燃料タンクを上げて、その下にあるエアクリーナーにアクセスし、確認と清掃を行う。
「バッテリーは暑いとタレやすくなります。テスターで12Vでは足りない。充電となりますが、年月が経ってたら交換前提です」
点火プラグや冷却水、エンジンオイルも要チェック。まずは見やすいところから進めていこう。
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1.エンジンまわりの疲れを取ろう
■バッテリー/疲労していると電圧低めで戻りにくい。だからまず充電。交換も視野に入れておこう。
車体をスタンドで直立・安定させて作業開始。リヤシート→シートと外すとMFバッテリーが見えるのでテスターで電圧を測る。13V台なら合格。12.38Vはお疲れモードで、充電したい。それでも電圧が上がらない場合はバッテリーが劣化していて次のトラブルを招くから、早めに交換しよう。
■エアクリーナー&キャブレター/新規を取り込む元は清掃、キャブレターは漏れやゴムヒビに注意を。
この頃のYZF-R1はヒンジで後ろを支点に燃料タンクが上げられ、エアクリーナーボックスが露出する。ボックスを開け、中のエアフィルターの汚れを確認、清掃か交換しておきたい。
今回は劣化の例として初期型XJR1200も用意していただいた。1994年式で、動かさなくなって15年以上という車両で、インシュレーターの横にひび割れが見える。2次エア吸入で調子が悪くなる前に新品に交換しよう。
キャブレターのフロート室周囲にもガソリンにじみと汚れがあったので、ここもパッキンを新品に。ゴムが柔らかくなる夏は交換は楽に行える。
■冷却水/オーバーヒートした後の液量確認とリザーバーへの補充をしておこう。
気温が高くなる夏は冷却系に厳しい時期。水まわりは重点項目になる。エンジンまわりが冷えている間(熱いときは高圧蒸気が噴出し危険なのでNG)にラジエーターキャップを外し、水量が十分かと漏れがないかをそれぞれ確認。YZF-R1では車体右前のカウルとフレームに挟まれた部分の上にカバーがあって、その内側にキャップがある。ついでに周囲の汚れも清掃したい。
暑い中を走ったり渋滞を待ったりで冷却系が熱くなると内圧が上がり、余剰となった冷却水(ロングライフクーラント)がリザーバータンクに行く。冷えればタンクから冷却系に戻るが、これを頻繁に繰り返す夏は冷却水が減ってリザーバーの下限指定よりも少なくなりがち。液量を確認し、補充したい。中村さんは「結構よくあることで、ツーリング先で足りなくなって困ることもあるからまめに見てください」とも。
このYZF-R1ではラジエーター直後にタンクがあり、水量は下限近く。そのためLLCを用意し上限の手前程度で補充した。
ホースの劣化や継ぎ目からの液漏れも注意だ。
■エンジンオイル/暑い時期は特に劣化しやすい。オイル量や色を確認、交換もまめに。
エンジンオイルも暑い時期こそ要確認。旧車では減りにも気をつけたい。普段はオイル点検窓(YZF-R1はエンジン右下)で指示内の適正量か、色はどうか(黒や乳白色は×)を見る。
長期保管車だったXJR1200も今後整備予定ということで、オイルを排出し確認。オイルトレーを用意し、マフラーのエキパイ部の袋ナットを緩めて、オイルドレンボルトを楽に緩められるようにエキパイを少しずらしておく。
装着されていたドレンボルトはアナログ油温計用の配線が通る社外品で、現在は廃番品。
オイルは真っ黒、もちろん要リフレッシュだ。
■点火プラグ/距離が進んでいたら点検を兼ねて取り付け方もチェック。
同じXJR1200で点火プラグも交換。プラグ外観にもサビが見え、ヘッド側にもサビと取付部に荒れが見える。
プラグレンチで慎重に外すと、電極はそれなりだがカラカラに乾燥していた。
再始動に向け新品プラグを用意( 右、NGKのDPR8E)。
ネジ部に固着防止用グリスを薄く塗布する。
シリンダーヘッドのプラグ穴に入れていくが、まずは手でゆっくり回し入れる。
まっすぐスムーズに入っていき、座面(ワッシャ)がヘッドに均等に当たったらレンチで指定トルクで締め付ける。決して斜めに入れないように注意!
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走る時期だからこその減りやサビに注意する
続いてはタイヤ、サスペンションにドライブチェーンまわり。いずれも目視しやすい箇所で、夏に走行距離が伸びれば消耗しやすい部分だ。タイヤならトレッドが摩耗するわけだから溝の残量に気を付けたい。愛車に合ったタイヤ、適正空気圧はプロやショップに相談して目安としておこう。
タイヤではエアバルブの中に入っているバルブコアにも注目。ムシとも呼ばれる2cm長程度の小さなパーツで、途中にゴムが巻かれている。このゴムが劣化しているとタイヤ内のエアが保持できなくなるので、機会があれば確認を。「国産ならあまりダメになるものでもないですけど、タイヤ交換の時に合わせて確認するのもいいと思います」と中村さんも言う。
サスペンションはリヤショックのロッド部やフロントフォークのシール部からのオイル漏れ(垂れ)、同じくロッドやインナーチューブの汚れやサビに注意。湿気の多い時期だからこそ、特にだ。
チェーンも雨中走行で水を浴びやすい時期で油分も飛びがちなので、清掃&注油に気を遣って損はない。いずれも静止状態でゆっくりやればいい作業だ。
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2.車体・足まわりの疲れも見よう
作業例では前後にスタンドをかけたが、リヤスタンドだけでもあると便利だ。タイヤ・チェーンまわりの作業はエンジンは始動しないで行うこと。
■タイヤ/トレッド面の荒れや溝の深さを確認。製造時期やバルブまわりも注意。
中村さんが手にするのはLEDライト。見たい部分を明るくするのは作業に有効だから見習いたい。
トレッド面の荒れとともに、ウエアインジケーター(トレッドに刻まれた溝にある突起。サイドウォールの△部の位置)も使って溝の減りを確認。
タイヤ製造時期はサイドウォールで確認。2000年以降なら4桁の数字で表され、これは「4920」、2020年の49週目に作られたと分かった。タイヤの賞味期限と言える2年にはまだ余裕あり。
エアバルブにはキャップもしっかり付けよう。
■タイヤ/エアバルブからの空気漏れチェックも整備のメニューに入れよう。
本文ではタイヤ交換ごとにバルブコア=ムシの確認をしようと記したが、エア漏れの確認は普段でも簡単にできる。バルブキャップを外し、薄めの洗剤液または石けん水を入れたスプレーボトルを用意して、エアバルブに吹き付けてやる。
少しタイヤを押してこのような泡玉ができたらエアが漏れている=バルブコアが劣化しているか、緩んでいる。
バルブコア。中央の黒い部分がシール用のゴムで、ここがダメだとエアが漏れる。普段は左端の突起でエアを調整。
工具=ムシ回しで締めている様子。
トレッド面や溝深さ、バルブコア、タイヤの製造時期を確認したら、空気圧を測って適正値にしておこう。エアゲージはプロショップのものと測定値合わせをするのもいい。
■サスペンション/セッティングの前にダメージを調べて取り除こう。
サスペンションというとついセッティング、フロントフォークのオイル交換やリヤショックのオーバーホール……と思いがちだけど、その前にまず確認と整備。オイル漏れや外部異常を見つけるのは大事。リヤショックロッド(これはXJRに装着されたツインショック。モノショックでも注意)に明らかなオイルにじみが見られたらプロショップにオーバーホール相談を。
フロントのインナーチューブも指示したような部分を見ておきたい。漏れはシール不良で、セッティングも意味なしになる。
比較用に用意したXJR1200のフロントフォーク。かなり広範囲でサビが出て、めっきもめくれている。これは交換だ。
■チェーン&スプロケット/ともに摩耗の度合いを見つつ清掃と潤滑で快調に。
ドライブチェーンはスプロケットとともに摩耗の度合いを見ながら清掃と潤滑。ドライブチェーンにチェーンクリーナーを吹き付けながら拭き上げ。クリーナーやチェーンルーブが他の箇所に付かないようにウエスを添えている。
スプロケットは歯を見る。まだ新品に近い状態だ。
注油は内プレートとローラーの間やリングとプレートの間を意識しよう。
チェーンもスプロケットも良好なものを比較用に用意した。ローラーがきれいにスプロケットの歯に入ることも分かる。注油は内プレートとローラーの間、リングとプレートの間を狙う感じで行い、余分は拭く。この作業では危険がともなうのでタイヤは手で回し、絶対にエンジンをかけないこと!
比較用のXJRのチェーンがこちら。スプロケットの摩耗はあまりなかったものの、チェーンのローラーは見事な全面サビ。プレートはホコリが載ったまま油分が飛んだと推測できる汚れが見える。これは当然交換となる。