※本企画はHeritage&Legends 2022年10月号に掲載された記事を再編集したものです。
時代なりの良さも生かしきっちりと作り込む
GSX-Rはレーサーレプリカと言うよりは、自らがベースとしてレースを走ってきたそのものという印象がある。GSX-R750登場年度となる1985年の全日本TTF-1チャンピオン(辻本 聡)、鈴鹿8耐では3位(ケビン・シュワンツ/グレーム・クロスビー)と6位(辻本/喜多祥助)。ル・マン24時間耐久レースも1-2フィニッシュ…。
速く走るためのベースが市販車の状態で作り込まれ、そこにヨシムラやSERTを筆頭としたコンストラクターが数々の工夫を盛り込み、進化させる。そうして出来上がり、かつ速く強かったという背景がGSX-Rシリーズをより魅力的にしているのだろう。
2年目の’86年には、全日本TTF-1連覇(辻本)。8耐では辻本とシュワンツのコンビが3位を獲得した。その時の車両をモチーフに、ブライトロジックが新たに仕立てたのが下に紹介している車両だ。ベースもその’86年型かと思いきや、’89年型。しかも限定車RKだ。
「以前にも同じ’86年の#12レプリカを作りましたけど、今回もその路線です。フレームは黒仕上げにして耐候性も持たせました。オイルクーラーは純正廃番だから近しい感じの新品を探してます。オイルラインバンジョーは当時風に赤と青、チェーンはRKのゴールド。テールライトはLEDで極力当時に合わせて作ってます。
メーターもオールインワンでウインカーも超小型LEDだから、かなり当時ぽく見えますよね。小さくて軽いし、あの頃のレーサーらしくヒザまわりの収まりもいい。時代は経っていてもいいところはいいなと思わせてくれますよ」
ブライトロジック・竹中さんはこう概要を教えてくれる。モチーフ車は’86年型ベースだから角パイプフレームをスムージングしていたが、RKではその形状を市販状態で取り込んでいる(前回’15年製作のレプリカも同じ形状の’87年型がベースだった)。エンジンは’88年型Jでボア×ストロークが変わっていたが、’89年型K/RKでは元に戻った。ホイールもRKでは17インチで、モチーフ車と同じ3.50/5・50幅を履いていたから、RKがベースということにはまったくと言えるほど違和感がない。
違いがあるとすれば当時ショーワ正立のフロントフォークがオーリンズ倒立だったり、同じくニッシンアキシャルのキャリパーがブレンボ・ラジアルだったりという点だろうが、そこは既に35年以上が過ぎた今のストリートを考えれば、ほしい性能とルックスということになるだろう。
ただレプリカするだけでなく、フレームでも分かるように全バラの上での仕立て直しも行われている。ハーネスも長さを考えつつ作成、エンジンもフルで組み直し。キャブレターもTMR-MJN、タイヤも含めた足まわりも現代化されている。先の竹中さんの言葉にあるようなコンパクトで軽い点も含め、油冷GSX-Rを今ストリートで楽しもうと思う時に考えたい要素も備えた1台となっているのだ。
現代車でも進む経年を考慮しつつ手を入れる
油冷世代のGSX-Rを新車並みにリフレッシュした上で手を加える手法。それは、水冷のGSX-R1000にも同様に適用できる。もう一台紹介する車両はそのR1000。K9だから2009年型、この年に鈴鹿8耐4度目の優勝を果たしたヨシムラ#12車(酒井大作/徳留和樹/青木宣篤)をモチーフとして手を入れたものだ。
作りは先のGSX-R750RKと同様で、エンジンはフルに手が入り、車体も同様。右が赤、左が緑とされて識別性を高めるスイングアームスタンドフックやマフラーステー、アルミタンクほか各部パーツもモチーフ車にほぼそのままだ。
ただ、ここで見落としていけないのは、そんな極限的な寄せ方同様に、ベース車にも経年を補う手を入れていることだ。シリーズが現役でいるとなかなか気が付かないが、K9でも既に13年が経過している。何度かの車検を受けたという状態だから、消耗品や定期交換推奨部品は折を見て換えておきたい。
この車両では前後のオーリンズサスやステダン、ブレンボキャリパー/マスターにもその考えを適用してオーバーホールし再組み付け、分解時にベアリングやラバー類は新品にして必要な各部に給脂も行ってベースの状態も良化。さらにサーキット主体からストリート主体へ電装も見直した。
レースのためにではなく、一般ライダーがレースのようにライディングに集中できるような操りやすさをと作られた結果、レースでも活躍したGSX-R。
竹中さんは油冷初代からもう35年以上ずっと、そんなGSX-Rと付き合ってきた。全日本で、8耐で、AMAスーパーバイクで。そこで培ってきた、しっかりと動く、ライダーが集中して操作できるような環境を作るためのノウハウ。手法やパーツが洗練されれば、それも取り込んでいく。
そうした竹中さん流のバックグラウンドがあって、作られた車両が間違いなくきちんと走るから、その上にまとったレプリカというスタイルがさらに輝きを放てる。今回の2台は、GSX-Rがレプリカとして好適だということを改めて教えてくれている。