文:宮崎敬一郎
カワサキ「ZZ-R1100」回想コラム|宮崎敬一郎
みなぎるパワーでライバルを圧倒した
1990年、GPZ1000RX、ZX-10と続いたカワサキのハイパースポーツ旗艦の後継モデルとして登場したのがZZ-R1100。最初期型は通称「Cタイプ」と呼ばれ、「エンジンからフレームまで全てに手を入れた新しいシリーズ」といったふれこみだったが、発表時の評判はそれほど高いものではなかった。見た目が重厚でジェントルなスタイリングだったのもあるが、大方の見方は先代モデルのZX-10を少し拡大してパワーアップした程度の快速モデルだろうと予想されていた。
しかし、走ってみるとその性能は全てにおいて驚異的だった! まず、とにかくストレスがなく、どこでも速いのだ。この時代、まだまだビッグバイクは日本の箱庭的な峠道などではとにかく鈍重だった。高速安定性に振られた足まわりは動きがのろく、車体のディメンションも安定性重視で扱い難かった。
だがZZ-R1100は見た目に反し、意外なほど軽い身のこなしを発揮した。当時のスーパースポーツのように曲がるかと言えば、いくらか旋回性は落ちるが、レプリカ的なリッタークラスのライバルよりも自由自在に峠を駆けたのだ。さらにクイックなコースだけでなく、200km/hオーバーでフルバンクするようなライディングでも他を圧倒した。
なにしろ発生するパワーが他を圧倒していたのだ。もともと先々代モデルのGPZ1000RXから動力テストでは同クラスでトップクラスのデータを叩き出していたのだが、このバイクは次元が違った。GSX-R1100やCBR、FZR1000が260〜270km/hだったのに対して、余裕で290km/h前後のデータをマーク。それだけのゆとりを生む力量差が、何処でもスロットルのひと捻りでライバルたちをバックミラーから消し去った。
そんな高性能モデルでありながら、ビッグバイク初心者でも扱えるほどエンジンは従順だし、ハンドリングも素直、そして乗り心地も快適という最強最速のオールマイティ・キングだったのだ。その実力が知れ渡ると、ZZ-R1100は瞬く間に大ヒットし、逆輸入ショップには「ZZ-R1100あります。価格応談」と言う広告が出るほどだった。
しかし、ZZ-R1100にもウイークポイントがあった。超高速域での車体の節度だ。270km/h以上では何かの弾みに蛇行することもあった。そのため1993年に登場した改良モデルの「Dタイプ」では、フレームやカウル形状などを変更した。少しハンドリングは重くなったが、基本的な特性、アドバンテージはキープしていた。そして最大のライバル「CBR1100XX」が発売になった1997年までは、誰もが認める「最強、最速モデル」という称号を維持した。
かつての月刊『オートバイ』の誌面で振り返る「ZZ-R1100」
文:宮崎敬一郎