文:宮崎敬一郎
ホンダ「CBR1100XX スーパーブラックバード」|回想コラム(宮崎敬一郎)
史上最強の164馬力! 新次元を築いた黒鳥
ホンダが負けん気で造った史上最速のバイクが「CBR1100XXスーパーブラックバード」だ。パワースペックは当時最強の164PS! このCBR1100XX スーパーブラックバードは、発表時のあらゆるプレゼンで「最強最速」というフレーズが随所に使われていた。それは長期にわたり「最強最速のバイク」として君臨していたカワサキZZ-R1100の存在があったからだ。
当時、欧州でのビッグバイクの出力規制が取りざたされ「新たに超高速バイクを造るメリットはあるのか? 」という間に立たされていた時代でもあり、神格化されつつあったZZ-R1100を横目で見ながら各メーカーが悩んでいたのは間違いない。実際、同ジャンルのバイクは、1993年に登場した149PSを発生したトライアンフ・デイトナ1200のみだった。それだけに桁違いのスペックを発生するCBR1100XXがどう仕上がっているのか、世界が注目した。
CBR1100XXのワールド発表試乗会は高速サーキットとして有名なフランスのポール・リカールサーキットで行われた。メーター読みで300km/h近くまで出るストレートがあるのだが、その時の車体の節度がZZ-R1100より遥かにしっかりしていた。長いストレートの後、そのまま超高速コーナーに突っ込んでいくのだが、車体はそんな高荷重をいとも簡単に受けとめた。前後サスのプリロードは、このコース用にかなり強めに加重されていたのだが、エンジンやカウルが路面に接地してしまうほど攻め込んでも不穏な挙動は全く起きないのだ。車体がしっかりしていたから高速コーナーでも躊躇なくアクセルを開けていけることに感激した。
今では当たり前のことだが、当時これほど頼りがいのある車体フィールを体感させてくれたのはCBR1100XXが最初だ。
また、ストリートでも見事に優等生だった。こんな力と車体でいながら、街中や日本の峠道でも普通に扱いやすいバイクだった。まるで、ZZ-R1100のウイークポイントを全て潰して強化した感じなので、何となくZZ-Rの陰が色んな感触に見え隠れしていたように思う。そして初期型は定地テストで300km/hに届くかどうかというデータをマークし、名実共に最強最速になったが、それも1999年にGSX1300R ハヤブサがデビューするまでのことだ。
そんなCBR1100XXもハヤブサが出る頃にはエンジンがマイルドになり、さらに数年が経つと足まわりもソフトめのツアラー的味付けに変わっていった。スポーツ性より快適さ扱いやすさを優先したモデルへとマイナーチェンジを繰り返していったのだ。