カワサキ「Ninja ZX-12R」|回想コラム(宮崎敬一郎)
無駄を削ぎ落としたスパルタンな車体剛性
ハヤブサの登場から1年遅れの2000年、178PSという最強のパワースペックにモノコックフレームという斬新なレイアウトで登場したメガスポーツがZX-12Rだ。カワサキが展開する“ZX”というスポーツ志向の強いブランド名で登場したのは、「300km/h近辺でのスポーティな機動ができる!」というキャラクターに由来する。これまでカワサキのフラッグシップだったZZ-R1100とは、ベツモノの最強最速を目指したモデルだった。もちろん、メガスポーツの中ではアタマひとつ抜けた実力で登場したハヤブサも意識していただろう。
ダイレクトな応答をする強力なハヤブサのエンジンは力量感を演出していたのに対し、ZX-12Rは、すべてがスポーツ志向の強い味付けで、軽やかにレスポンスしながらパワーが沸き上がるようなキャラクターだった。
そのハヤブサと、イタリアの高速テストコース「ナルド」で対決テストをしたことがある。データ的には最高速はほぼ引き分けなのだが、完全に6速に入ってからの勝負では260km/hくらいまではハヤブサが少しずつ引き離すものの、270km/hあたりで一気に追いつき、300km/hで並びながら前に出始めるといった関係だった。
ZX-12Rのフレームは、アルミのボックス構造を核としたバックボーンレイアウト。これが非常に頑丈で、ナルドのテストでも安定しつつ、平気でバンク付きのオーバルコースでスラロームすることができた。また日本の峠道のようなペースで流している分には軽快にフットワークした。ただ持てるパワーを使い切ってやろうとすると、ハンドリングは重くなる。でもさらに開けていくと再び軽くなって、今度はスーパースポーツ並みの旋回性を発揮するようになる。
これは速度レンジというのではなく、力をどう受け止めるかなので、サスよりもシャシー特性が影響しているのだろう。当時のスポーツモデルにはない独特の剛性感を醸し出していた。
しかし、そんな塩梅がわかるようになると、それをうまく使ってやろうと嬉しくもなるのだが、それはいかんせん非日常的すぎる走りになってしまった。多くのライダーには関係のない領域だが、ある意味、とんでもなくスパルタンで荒っぽいシャシー特性だった。
ZX-12Rはわずか6年で姿を消した。その後継には、魔法の扱いやすさと驚異的な高速性能を引き下げて、新フラッグシップモデルの「ZZR1400」が登場した。