街が雪に閉ざされてしまってやむなく、あるいは寒さが辛くて……。冬の間は大切な愛車を寝かせてしまっているライダーも少なくないだろう。趣味で楽しんでいるのだから、当然、無理して乗る必要もない。ただし一方で、いかに高価で高質なガレージに愛車をしまっていたとしても、再稼働時には必ずチェックをしておきたい項目もある。ほぼ半年の間、バイクに乗ることができない北海道では、そんな保管と春の乗り出し時にどんな注意を払うのだろう。道内随一の大都市、札幌のバイクプラザ・メカドックで聞いてみよう。
※本企画はHeritage&Legends 2023年4月号に掲載された記事を再編集したものです。

冬季保管サービスは年々利用者増加中だ

今回取材に伺ったバイクプラザ・メカドックのプロフィールを簡単に書けば、同店は現在の札幌市手稲区で’87年の創業。開店以来、排気量・ジャンルを問わず新・中古車を販売、車検・整備はもちろん、多くのカスタムバイク製作も手がけてきた。文章にすると日本中、どこにでもあるバイクショップと変わらなく見えるが、それは約半年間で駆け抜ける春〜秋の間だけ。11月からの残り半年、厳しい冬の間は降雪のない地域とは事情が変わってくる。

画像: ▲取材対応してくれた、バイクプラザ メカドックの阿部代表(左)とメカニックの畑中さん(右・故人)。開店以来30年超えの間に積み上げたノウハウで、カスタム&チューニングの相談に乗ってくれる。同店では道外ライダーが北海道を愛車で楽しむための、夏季預かりサービスも実施中。電話相談は通常営業となる4月以降に。

▲取材対応してくれた、バイクプラザ メカドックの阿部代表(左)とメカニックの畑中さん(右・故人)。開店以来30年超えの間に積み上げたノウハウで、カスタム&チューニングの相談に乗ってくれる。同店では道外ライダーが北海道を愛車で楽しむための、夏季預かりサービスも実施中。電話相談は通常営業となる4月以降に。

「冬の間はお客さまのバイクの預かり保管、バイク屋さんは開店休業だからほぼ毎日、除雪の仕事をしていますよ。そんな除雪と皆さんの乗り出し準備が始まる3〜4月は忙しさもピークになります」と、阿部寿久代表。

ちなみにカスタムバイク製作に絞って言えば、前年末までにオーナーと打ち合わせを済ませてパーツや塗装を手配、除雪の傍ら、届いたパーツや塗装仕上がりをチェック。春近くなり除雪仕事が減り出すタイミングを見て、徐々にカスタムバイク製作にシフトする。

画像: ▲シーズン中はいかにも北海道のバイクショップらしい店構え(写真左)のメカドックも、冬季は右写真の通り、表情を変える。除雪用の重機類はメカドックの所有車で計4台で周辺の除雪作業にあたる。作業の大半は交通量の少ない夜間から明け方だそうで取材時はまさにピーク。

▲シーズン中はいかにも北海道のバイクショップらしい店構え(写真左)のメカドックも、冬季は右写真の通り、表情を変える。除雪用の重機類はメカドックの所有車で計4台で周辺の除雪作業にあたる。作業の大半は交通量の少ない夜間から明け方だそうで取材時はまさにピーク。

「この辺りでは早い人はGWあたりからバイクに乗り出すのですが、遅くまで除雪が必要な年にはカスタム製作も後ずれして、お客さんを待たせちゃうことも度々ある。天気ばかりはどうにもなりませんから仕方のないことですが、毎年のように春先は“もう戦争”って感じ(笑)になります」(同)

そしてそんな冬の間、メカドックが行うバイク向けのサービスに、阿部代表の言う預かり保管がある。

「ウチは預かり用にガレージを用意しています。80〜100台ぐらいのキャパシティ。早い人は10月中旬には預けに来るかな。皆さん、GW明けには引き取っていきます。

画像: ▲メカドックがショップ近辺に用意した、預かり車両の保管用ガレージ。足の踏み場もないほど排気量やジャンルを問わず、びっしりとバイクが停められている。道内にはこうしたサービスを行うディーラーやショップが数多く存在。ライダーは遅めの春を待ちわびる。

▲メカドックがショップ近辺に用意した、預かり車両の保管用ガレージ。足の踏み場もないほど排気量やジャンルを問わず、びっしりとバイクが停められている。道内にはこうしたサービスを行うディーラーやショップが数多く存在。ライダーは遅めの春を待ちわびる。

北海道は土地柄、自宅にガレージをお持ちの方も多いのですが、自家用車とスペースを共有するから、やはり冬は生活の邪魔になる。一方でバイクの価格も上がっていますから、高価なバイクを転倒させてしまっては目も当てられない。そんな理由もあってか、ウチに限らず保管サービスを利用する方は年々多くなっているようですね。

もちろん、ご自宅で保管する方もいるけれど、冬季保管のノウハウをご存じなくて春に『動かない』ってバイクショップに駆け込む方も少なくない。特にキャブ。ガソリンを抜かないで保管して調子を崩すケースは多い。修理や調整に出したら、保管料より高くついたなんて当たり前にある」

メカドックでの冬季保管料はリッタークラスで1万6500円、最大でも1万9800円というから、やはりプロにきちんと管理してもらう方がやはり得策なのだ。

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冬季保管時の大敵は湿気。いかに排除するかがカギ

さて、ここからは冬季保管で気を付けたいポイントを、メカニックの畑中 仁さん(故人・2023年7月逝去)にあげてもらおう。

「乗らないのならまず、バッテリーは外して管理する。キャブ内にガソリンは残さない、そして錆対策として逆にタンクは満タンにする。シリンダー内のオイルは約半年で落ちてしまいますから、古いバイクならピストンリングを固着させないためにも、スパークプラグ穴からオイルを多めに垂らしてクランキングしておきます。本当はクラッチやミッションまわりも含めて、定期的にクランキングしておきたいところ。そういえば’80年代のホンダ系、CB-Fなんてキルスイッチ切ったままセルスターターが回ってクランキングできましたね。あの機構が今のバイクにも付いていたら、長期保管には便利だったでしょうね(笑)。

画像: ▲預かり車両のバッテリーは外されて補充電後、室内保管。外気温がマイナス10度を下回る北海道では、室外では比重が下がりバッテリーがパンクすることも。山積みのバッテリーは、保管サービスを行うショップの冬の風物詩的光景。

▲預かり車両のバッテリーは外されて補充電後、室内保管。外気温がマイナス10度を下回る北海道では、室外では比重が下がりバッテリーがパンクすることも。山積みのバッテリーは、保管サービスを行うショップの冬の風物詩的光景。

バッテリーに話を移せば、あがってしまうのが怖いからと、充電しているつもりでたまにエンジンをかけて暖気だけで終わらせる人がいますが、あれが一番いけない。

寒冷地に限らず冬は、暖まったエンジンが急に冷えて内部の水分が結露しちゃいます。ウチでも春になったらエンジンオイルが白濁していた車両は、しょっちゅう見ます。オイルは入れ替えればいいですが(それでもエンジン内洗浄用にオイルを入れて一定時間回して抜き、再度エンジンオイルを入れ替える二度手間の作業になる)、錆発生の起点ができたりと、エンジン内に少なからずダメージが残ります」(畑中さん)

画像: ▲冬季保管明けに持ち込まれるトラブルの多くは、キャブレターとか。保管時にフロート室に残ったガソリンを抜いておくことは必須。

▲冬季保管明けに持ち込まれるトラブルの多くは、キャブレターとか。保管時にフロート室に残ったガソリンを抜いておくことは必須。

阿部さんが言葉を引き継ぐ。

「キャブと言えば、ガソリンを腐らせてフロート室内が緑青(銅素材にできる錆)だらけっていうのを見たことがありませんか? ああなってしまうと、いくらケミカルを使って落としたところで、3〜4カ月で再発する。普通に走らせてフレッシュなガソリンを通していてもです。クセが付いちゃう。ドライブチェーンの錆もそうですよね。そうならないように、普段からメンテナンスを心がけるかで、パーツの保ちは変わるんです」

再び、畑中さんの話に戻ろう。

「保管時の大敵は湿気。先のエンジン内結露もそうですが、札幌に限らず湿気の多い地域はバイクの保管場所に気を配りたい。屋外の土や舗装の上、屋内でも土間は湿気が上がりますから、そうした場所は避けたい。どうしてもと言うなら、ビニールシートを敷くなど湿気対策を。車体カバーを掛けているなら、定期的に外して湿気を飛ばしたいですよね。

画像: ▲地面から上がる湿気を防ぐために土や舗装路に直接停めない。写真のように床面が貼られた屋内ガレージがベストだが、やむない場合はビニールシートを敷くのもいい。

▲地面から上がる湿気を防ぐために土や舗装路に直接停めない。写真のように床面が貼られた屋内ガレージがベストだが、やむない場合はビニールシートを敷くのもいい。

あと、保管時は前後サスとタイヤの負荷も抜いておきたい。愛車にセンタースタンドがあれば掛けて、フロントにもスタンドを掛けるといい。リヤショックは車重で縮んだままになりますが、リヤスタンドをかけるだけでも、しないよりいいでしょう。

そこまでするの? と僕自身も思いますが(笑)、ウチのお客さんの中には実践してる人がいる。感心させられますよね」

考えてみれば、今回聞いた話はどれもが昔から言われ続けたことだ。要は冬の間、愛車から遠ざかっていたとしても、その間、どれだけ気を配れるかなのだろう。

春の乗りだし時に慌てないように、保管時に起こりえるネガティブ要素を想像して予め手を打っておく。その大事さが改めて思い知らされた取材だった。

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●DAYTONA/アンダーフレームスタンド:1万2100円
画像1: 北海道のプロショップに聞く! 愛車の冬の保管と春の起こし方|バイクプラザ メカドック【Heritage&Legends】
ダウンチューブのあるビッグネイキッド(耐荷重200kg)に使える、デイトナのアンダーフレームスタンド。左右独立のネジ式リフトアップ機構(最大高:270mm)採用で、サイドスタンドをかけた状態からひとりで、安全に安定したリフトアップが可能なアイデア品だ。

●J-TRIP/メッキフロントスタンド(JT-116PT):4万1118円
画像2: 北海道のプロショップに聞く! 愛車の冬の保管と春の起こし方|バイクプラザ メカドック【Heritage&Legends】
●J-TRIP/メッキロングローラースタンド(JT-120PT、写真右):2万4673円(本体)、メッキショートローラースタンド(JT-125PT、写真左):2万3408円(本体)
画像3: 北海道のプロショップに聞く! 愛車の冬の保管と春の起こし方|バイクプラザ メカドック【Heritage&Legends】
森製作所が製造する、J-TRIPブランドのスタンドは、多くのラインナップを持つ純国産品。中でも深みのある高品質めっきが施され耐蝕性に優れる“クロムメッキスタンドシリーズ”は、冬の長期保管にぴったり。リヤスタンドには、らくらくリフト設計のロングローラースタンドと、狭い場所での捌きがいいショートローラースタンドがある。

取材協力

バイクプラザ メカドック

森製作所

デイトナ

レポート:ヘリテイジ&レジェンズ編集部

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