文:太田安治、ゴーグル編集部/写真:柴田直行
ロイヤルエンフィールド「INT650」インプレ(太田安治)
スペックからは読み取れない味わい深さが魅力
INT650にはブリティッシュ調のシックなグラフィックから、ウエストコーストムードのポップなカラーまで7種類の外装バージョンが用意されている。今回撮影したのはガソリンタンクやヘッドライトケースにクロームメッキを施し、エンジンのクランクケースカバーとヘッドカバーをアルミ地のポリッシュ仕上げとした『マーク2』。太陽の下では鮮烈に輝き、夜闇の中では街灯やネオンを妖しく反射する独自のオーラを放つ。
車体構成は鋼管製のクレードル型フレームに前後18インチホイール、フロントの正立フォークにリアのツインショックというオーソドックスなもの。並列2気筒のシリンダーが少し前傾しているのでバーチカルツインではないが、エンジンの冷却フィンは今や貴重な空冷の証。1960年代のイギリス車然とした端正なルックスが現代では新鮮に映る。
となれば50年以上前に国産最大排気量車として君臨したカワサキW1やヤマハXS650を想起するライダーも居るだろうが、乗り味はまったく異なる。ベテランライダーをニヤリとさせる濃い味わいに加え、エントリーユーザーでも不安なく扱える現代的なフレンドリーさも備えているのだ。
まず感心するのが低中回転域での力強さ。クランクマスが大きい感触はないから、インジェクションや点火系のマッピングを市街地走行に合わせ込んであるのだろう。2000〜4000回転台ではスロットル操作に対して素直に力が湧き出てくる。スロットルオン/オフの瞬間の反応が優しいこともこのエンジンのポイント。定速走行がしやすく、ギクシャク感もないので不思議なほど疲れない。
4000回転以上ではフラットな加速のまま7000回転を超えるまでスムーズに回り、不快な振動は一切出ない。100km/h時は6速・4000回転弱で「回っている感」はなく、追い越し加速でもシフトダウンは不要。270度クランクの適度なパルスと軽やかな排気音を楽しみながら走り続けられる。
120km/hクルージングも余裕たっぷりだが、アップライトなポジションゆえに体に受ける走行風圧は大きめ。最も快適な速度域は60〜100km/hあたりになる。
個人的にエンジン以上の魅力を感じたのはハンドリング。現代の基準からすれば何の変哲も無い車体構成だが、「剛性バランスの妙」と表現すればいいのか、意識的な操作をしなくてもイメージしたラインをきれいにトレースして曲がっていく。ライダーの感覚とオートバイの動きがシンクロし、まさに人車一体の感覚。前後サスペンション単体の動きが特に優れているというわけではないから、名門ハリス・パフォーマンスによるフレーム設計の真骨頂といったところか。
スペックシートからは読み取れない乗りやすさと味。そして現代のオートバイでは薄れてしまった「鉄馬」感がINT650の魅力。フラリとあてもなく走り続けたくなる一台だ。