ZAPレーシングサービスの長谷川健次代表と言えば、かつては自身もTOTを走り、ショップ設立以降はこちらもZの名店・ブルーサンダースのエルミラージュでの最高速チャレンジ(’11年〜)やパイクスピーク参戦(’14年〜)にもメカニックとして帯同するなど、Zフリークにはその幅広い活躍で知られる人。そんな“ハセケン”さんは今、JD-STERドラッグレースに注力する。彼が製作した3台のVSBアウトロー・レーサーと、その考え方とは?
※本企画はHeritage&Legends 2024年1月号に掲載された記事を再編集したものです。

長谷川さんが突き詰める理想のエンジンを積む3台

茨城・水戸にあった著名カスタムショップ、ZAPPERが閉店したのが’08年のこと。当時の水戸近辺ではZでレースやカスタムを積極的に行うショップも少なく、「この辺りの人たちにはZAPPERの名が残った方がいい」と長谷川さんがZAPレーシングサービスを立ち上げたのも同年だった。

「当時は自分もTOTのDOBAR-1に出ていたのですが、大けがを負ったのを機会に自分で走る機会は減りました」(長谷川さん)と、以降はマシン作りでのライダー・サポートが主体となる。

画像: ▲HAYASHI SPL. Z1260LTD改/流麗なキャンディオレンジ外装はダテじゃない! 頂点を狙うLTD改!

▲HAYASHI SPL. Z1260LTD改/流麗なキャンディオレンジ外装はダテじゃない! 頂点を狙うLTD改!

一方で’09年のJD-STERドラッグレース第3戦で初開催されたKVSB(=カワサキ・ビンテージ・スーパーバイク。現在のVSB各クラスにつながるルーツ)には長谷川さんも参戦。以降も“新”チームZAPPERとしてドラッグ参戦を続けるが、決定的なつながりを持ったのは、会場が茨城県城里町のJARI城里テストコースに移った時だ。それまでの会場が使えなくなって代替地に窮したJD-STERに、JARIを繋いだのが長谷川さんだった。

「ドラッグレースって特殊に見えますが、エンジン作りはロードレースと変わらない。ドラッグレースで得たデータやノウハウはロードで使えるし、街乗りバイクにも落としこめます」(長谷川さん)

画像: ▲ABE SPL. KZ1000/アウトロー参戦も出自のストリートにこだわり続ける!

▲ABE SPL. KZ1000/アウトロー参戦も出自のストリートにこだわり続ける!

JD-STERで過給器やNOSを使わず、NAエンジンにこだわるのはそんな理由から? と問うと。

「NAがどうとか、過給器がこうというこだわりはありません。ただ、自分の作りたいエンジンを極めるという意味で、NAで挑戦したいことが沢山あるんです。1年も2年もかかるかもしれないけれど、納得するまでやりたい。ドラッグパーツを使えば楽に速くなるかもしれないけれど、お客さんたちが払うコストもありますしね。日本の路面ならNAでまだタイムは詰まりますから、このスタイルで当面チャレンジしたい」(同)

そんな長谷川さんの周囲に集まるのは昔から顔なじみの“仲間”というべきお客さんたち。おひとりが教えてくれたのが、「やっているのは学生のころと変わりません。深夜、友達の家に集まっていたのが、今は仕事帰りにハセケンさんの店に集まって、皆でバイク談義をワイワイ楽しむだけ(笑)」。

紹介の3台も含め、作るエンジンは長谷川さんの理想とする仕様。お客さんたちは口を挟まない。もちろん、ネガが出れば修正もする。皆、長谷川さんを信用して見えるのが取材を通しての印象だった。

画像: ▲KOMATSUZAKI SPL. Z1-R/先駆車のトライ&エラーから生まれ進化する角Zドラッグマシン。

▲KOMATSUZAKI SPL. Z1-R/先駆車のトライ&エラーから生まれ進化する角Zドラッグマシン。

さて、そんな長谷川さんが今取り組んでいる作業のひとつにドラッグレース向けマフラーがある。

「小松崎さんが付けているのが最初の1本です。僕がプロデュースして先輩のマフラー屋さんに作ってもらいました。レースで得たノウハウを落とし込んだつもりでしたが、トルクの出方に関わるマフラーの容積の取り方など、まだ本場・アメリカのマフラーに敵わない。時間がかかっても理想のマフラー、作りたいですね(笑)」

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HAYASHI SPL. Z1260LTD改

画像1: ZAPが新境地を拓くドラッグスペシャルZ|ZAPレーシングサービス【Heritage&Legends】
以前は改造範囲の狭いVSBストリートを走った林 雅俊選手。「純正フレーム改で行き詰まっていた」(長谷川さん)ことで、’22年からはこのコスマン系フレーム車に乗りに換えVSBアウトローにスイッチ。155〜157ps、5000〜8000rpmの間で12.7〜8kg・mのトルクをフラットに出す扱いやすい(=開けやすい)特性は豪快な林さんの開けっぷりにフィット。’23年はランク2位を得て来季の活躍にも期待が膨らむ。

画像2: ZAPが新境地を拓くドラッグスペシャルZ|ZAPレーシングサービス【Heritage&Legends】 画像3: ZAPが新境地を拓くドラッグスペシャルZ|ZAPレーシングサービス【Heritage&Legends】
ピストンはワイセコ製にZAPが手を入れたモディファイ仕様で排気量は1260cc。カムはWebでIN/EXとも0.460を使う。上記通り、最高出力は155〜157ps、最大トルクは12.7〜8kg・mを5000〜8000rpmの幅広いバンドでフラットに出す特性。長谷川さん曰く、Zエンジンを普通に使う限界は165psぐらいで、そこからは途中に谷を作らず上手くトルクピークを合わせこむことが、速いエンジンを作るキモなのだとか。

画像4: ZAPが新境地を拓くドラッグスペシャルZ|ZAPレーシングサービス【Heritage&Legends】 画像5: ZAPが新境地を拓くドラッグスペシャルZ|ZAPレーシングサービス【Heritage&Legends】
フレーム、スイングアームはZAPにストックしていたコスマン製。外装は購入時に装着されていたLTD風デザインだったためエンジンはZ1ベースだが、これに倣い車名をZ1260LTDに。そのエンジンに合わせキャブはミクニRSφ36mmに、マフラーはV&H製ドラッグバイブを組み合わせる。流麗なオレンジの外装塗装はシェイキンスピードグラフィックスによる。

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フロントフォークはZ系純正品で「ただ、縮めて使っているだけ(笑)」と長谷川さん。フロントホイールはEXCELリムに2.75-18のミッキートンプソン製ドラッグスリックの組み合わせ。フロントのブレーキキャリパーはapの2POTで、リヤはグリメカの2POT。リヤホイールは2枚合わせのディッシュホイール(メーカー不明)で、タイヤは同じM/Tの250/70-18を履いている。

画像9: ZAPが新境地を拓くドラッグスペシャルZ|ZAPレーシングサービス【Heritage&Legends】
スピードメーターはレース用としてもちろん不動でタコメーターのみSTACKに置換。ハンドルバーは林さんの体格に合わせたフラットバーで、MPS製のtetherキルスイッチ(落車時にエンジンを切る)も装備してある。

画像: HAYASHI SPL. Z1260LTD改

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ABE SPL. KZ1000

画像10: ZAPが新境地を拓くドラッグスペシャルZ|ZAPレーシングサービス【Heritage&Legends】
ZAPが一番初めに手がけたロング&ローZがこの阿部 崇さんのZ1000だ。阿部さん自身もロング&ロースタイルが大好きとのことで、いかに隙なくカスタムとしての見栄えも成立させるかに長谷川さんは腐心したと言う。阿部さんはアウトロー/プロ/ストリートに分かれる直前、1クラスで競ったVSBの’19年シリーズチャンプ。’23年アウトローのランク3位で自身ベストは9秒3だ。

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リヤリジッドスタイルになったのはアウトローが始まった’22年第3戦から。それまでの阿部Zはリヤショック付きで車検も取れ、公道を走れる仕様だった。エンジンはJEピストンのZAPモディファイ仕様で1327cc。Webカム(IN:0.500/EX:0.480)を組み、RSφ40mmキャブ+スターレーシングEXで163psを発揮する。フレームは純正ベースでネックが寝かされる。

画像13: ZAPが新境地を拓くドラッグスペシャルZ|ZAPレーシングサービス【Heritage&Legends】 画像14: ZAPが新境地を拓くドラッグスペシャルZ|ZAPレーシングサービス【Heritage&Legends】
MREのロックアップクラッチとワイドタイヤ化に合わせたコスマンのベアリングサポートアウタープレートはドラッグバイクの定番パーツだ。

画像15: ZAPが新境地を拓くドラッグスペシャルZ|ZAPレーシングサービス【Heritage&Legends】
ハンドルはスワロータイプ、ステップはSSイトウ製を加工装着。ZAPで初めてドラッグ用にクイックシフターを装着したが、他車にも順次採用したいという。

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林車同様、FフォークはZ系純正品。スイングアームはコスマンで。ホイールはフロントがエキセルリム、リヤは’04〜Z750(5.50-17)の純正流用で前18/後17インチ仕様に。タイヤはフロントがミッキートンプソンのドッグスリック、リヤはシンコーのドラッグレース専用003A HOOK-UP PROを履く。

画像: ABE SPL. KZ1000

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KOMATSUZAKI SPL. Z1-R

画像19: ZAPが新境地を拓くドラッグスペシャルZ|ZAPレーシングサービス【Heritage&Legends】
紹介する3車の中で一番最近に製作されたのが、小松崎 明さんのZ1-Rだ。いわば阿部、林車で得たノウハウが落とし込まれた車両。長谷川さん曰く「彼が中学生の頃から知っている」という旧知の仲。車両製作は長谷川さんが主導して、小松崎さんは「ポジション合わせに最後に跨ったぐらい」という信頼関係にある。一方で外装には小松崎さんの好みが反映される。ベストは9秒4。

画像20: ZAPが新境地を拓くドラッグスペシャルZ|ZAPレーシングサービス【Heritage&Legends】 画像21: ZAPが新境地を拓くドラッグスペシャルZ|ZAPレーシングサービス【Heritage&Legends】
ワイセコをZAPがモディファイして組まれた1428ccエンジン。最後になったが3車とも当然、ビッグブロックシリンダー。林車と阿部車はMTC、小松崎車はFBG製を使用。さらに3車ともセルスタートできるのも長谷川さんのこだわりで、この車両では先のピストンのトップ形状を変え燃焼室容積を小さくしながらも、圧縮比は落とされている。カムはWeb(IN/EXとも0.500)でキャブはRSφ40mmを装着している。

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本文にあったZAPオリジナルのドラッグレース用マフラー。長谷川さんのノウハウをベースに、まずは製作したそうだが、「本当は全体容積や集合位置から見直したいけれど、まずはテールパイプの管長やメガホンのテーパー角変化で、どう特性が変わるのか見たい」と。

画像23: ZAPが新境地を拓くドラッグスペシャルZ|ZAPレーシングサービス【Heritage&Legends】 画像24: ZAPが新境地を拓くドラッグスペシャルZ|ZAPレーシングサービス【Heritage&Legends】 画像25: ZAPが新境地を拓くドラッグスペシャルZ|ZAPレーシングサービス【Heritage&Legends】
前後ホイールは不明というが、おそらくPM(パフォーマンスマシン)製18インチ。キャリパーも同ブランド。コスマンタイプのフレームはバックボーン中央部にガソリンタンクを持つが、Z1-Rにこだわる小松崎さんは純正タンク内部を切り取りカバーとして使用。サイドカバーはアルミ叩き出し品。

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タコメーターは皆STACK製だが、3車それぞれにレプリミット設定が違うのも面白い(林車:1万1500rpm、阿部車:1万500rpm、小松崎車:1万1000rpm)。ただし、いずれもピークパワーだけでなく、中回転域からフラットで大きなトルクが出せるのが長谷川エンジンの特長。シャシーはコスマン製だ。

画像: KOMATSUZAKI SPL. Z1-R

画像29: ZAPが新境地を拓くドラッグスペシャルZ|ZAPレーシングサービス【Heritage&Legends】
撮影協力:日本酒文化長屋 磯蔵(磯蔵酒造)〒309-1635茨城県笠間市稲田2281-1 https://isokura.jp/

取材協力:ZAPレーシングサービス

レポート:ヘリテイジ&レジェンズ編集部

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