※本企画はHeritage&Legends 2024年2月号に掲載された記事を再編集したものです。
純正廃番となったカムに対して対策と提案を行う
生産終了から20年。純正パーツの廃番が進んでいくニンジャだが、先頃またひとつ、大物が廃番となった。吸気側カムシャフトだ。回転方向やロッカーアームとのカム山接触部との兼ね合いで、潤滑不良によるかじり(傷つき。使用状況や回し方にもよる)が起こりやすく、そのダメージが見た目にも分かりやすいから、オーバーホール時には交換対象になりやすいパートでもある。廃番となれば当然対応策を考えなければならないが、どうするといいのだろう。
「ここは後継機とも互換性がない専用品です。それで対応策は2択。まず、今あるカムに対してラッピングを施すこと。もうひとつはヨシムラST-1Mカムを使うこと」
こう言うのは、トレーディングガレージ ナカガワ(TGナカガワ)の中川さん。1994年にパフォーマンスマシン製ホイールの扱いから2輪業界に参入。以来30年、ニンジャ系を中心に、多くのエンジンチューニングを手がけ、パワーやトルクを高めながら、同時にセキュリティ(中川さんは耐久性/壊れなさのことをこう言う)も高めるメニューを作ってきた。
その中川さんが2択というカムの対応。ラッピングは回転軸への定番として展開している作業だ。
「クランクでは一般化していますが、カムシャフトにも使えます。ジャーナル(軸部)の丸さを損なわないようにしながら、軸表面をきれいに磨き込んで傷を消し平滑度を高め、回転をスムーズ化するとともにダメージを受けにくくします。カム山にも施せます」
まずラッピングする。その上で表面処理のTGナカガワR-Shot#M(後述)をカム山やロッカーアームに施せば、両者の接触面はスムーズに当たりかつその抵抗も減ることになり、よりダメージを受けにくくなる。
またTGナカガワが製作・販売するDOS-R(ダイレクトオイルシステム-R)でカム山とロッカーアームの接触面に積極的にオイルを吹き込むという手法もプラスできる。その前提として、カムシャフト本体へのラッピングを行いたいということだ。
もうひとつのヨシムラST-1Mカムは1年半ほど前に登場。同店が窓口となって販売している。
「中空でカム山にはDLC(ダイヤモンドライクコート)処理がしてあります。使う際にはA16純正の強化チップ(接触面強化)ロッカーアームと、ZRX1200DAEG用オイルポンプの併用が推奨。オイルはカワサキ純正か、当社で使っているシルコリンオイルが指定となります。新品で、チューニングエンジンに向いたハイカムですし、こちらもお勧めします」
定番の作業と社外パーツ。もうあるメニューで対応できるのは、まずは安心というところか。
エンジン各部の加工や表面処理で維持性も高めていく
「単に安心というわけでもなく、供給の不安を何とかしているというところでしょうか。幸いにして、ニンジャ国内仕様が登場したあたりからいろいろやって、積み上げたノウハウが生かせています。当時は出力を上げたら壊れるのがある意味定説でしたが、それをつぶしていく。出力も後軸200ps仕様もできましたし、それも定期のオイル交換やオーバーホールで使ってもらえてます」とも中川さん。
クランクケースや各パーツのバリやエッジを落とし、異物が落ちてエンジン内を回らないように。鏡面加工で対象パーツの表面強度、熱効率を高める。軽量加工、複数あるパーツの重量バランス、燃焼室容積合わせに、スムーズな混合気の流れを作るポート加工、オイルのヘッドバイパスで潤滑強化。
972ccに1050cc、1078に1108、1137……と後継機エンジン用パーツも使いながら排気量設定も複数を用意し、用途に合わせて選べるようにする。外観のリフレッシュもある。そんな個々のメニューを受けることもだが、TGナカガワで用意しているステージメニューをベースにエンジンを作るのが、今のニンジャには向いているかもしれない。
そうした各作業/メニューのメリットをより高めるのが、表面処理のR-Shot#Mだ。もう何度も触れてきたが、対象物表面に二硫化モリブデンを混入したメディア(担体粒子)を打ち付けること(ショット)で対象物の表面強度を高め、かつ摺動抵抗を減らすTGナカガワ独自の手法だ。寸法維持性も持つため、測定で許容範囲内にある中古パーツも再使用できるなど、多くのメリットがある。
部分ごとにも、フルにやる(再オーバーホール時に加える)ことも、このところ増えてきたという。そのフルR-Shot#Mでの効果は、体感でも味わえるようだ。このフルカーボンルックニンジャも、そんな例となる1台だ。
「オーナーさんとは長い付き合いがあって、いろいろな仕様を楽しんでこられた方。今は当店で鍛造ピストンを入れてカム変更ほか行い、ムービングパーツにはフルにR-Shot#Mを施しています」と、主な内容を中川さんは言う。「とにかく扱いやすくなっています。この仕様でキャブレターをFCRφ39mmにした時にはレスポンスも過敏なくらいに付いてきてコーナー立ち上がりからフロントアップということもできます。今付けているFCRφ41mmだと扱いやすさの方がぐっと前面に出て、普段使いにはまさに最適に変わる。
ニンジャはノーマルからずっと乗ってきて、それも楽しかったんです。排気量アップなどもしてその都度楽しみましたけど、今の仕様はとてもいい。多少費用はかかりますけど、エンジンに手を入れることを考えるなら、腰下までやるべきですし、R-Shot#Mもやればなおいいと思います」
こうオーナーも言うように、扱いやすさ、そして補機類で性格も変えられる(現行モデルで言うモード切替的なこと)ようにできることが分かった。他のオーナーからも同様の話が聞かれるという。
もう1台の青の車両は現状で908ccの排気量ほかエンジンはノーマルだが、車体まわりや操作系を先にしっかり作った状態。エンジン側もチューニングし、恩恵もいずれ受けることになるだろう。
メニューは豊富にある。延命のための方策もある。TGナカガワでのチューニングエンジンでのオーバーホールタイミングは5万kmを基準に出来るという実績もある。多少のコストはかかるとしても、壊れてからパーツを探し組み直すよりもリーズナブルだし、O/Hなら時間も読める。先に手を打つのは賢明な手法、保険にもなる。パーツがまだ何とかなるうちに、ぜひやっておきたいものだ。
ヘッドはベースの修正や適正なポート加工でスムーズ化
周部にも巣穴(鋳造時にアルミが流れ込みきれなかった)があるなどするので、ここも補修する。
燃焼室加工やバルブガイド打ち替え/シートカット、面研といったヘッド加工のひと通りも必須メニューだ。
狙うステージに多彩な仕様で応えるシリンダー&ピストン
純正908から1224ccまで、系列機やそれら用社外ピストン/コンロッドも組み合わせ、目的に合わせた多彩な仕様を用意するTGナカガワ・ステージメニュー。上はGPZ1000RX純正φ74mmシリンダーをφ76mmにボーリング/ホーニングし、φ76mmのZZR1100純正ピストンを使う例(RX純正φ74mm廃番にもよる)。下はGPZ900Rにワイセコφ78mmピストンを用意、これからR-Shot#Mを施して使う1050cc仕様の例。ニンジャ系なら出力も耐久性も読める。
摺動性と耐久性を高める独自のR-Shot#Mは定番メニューに
TGナカガワ独自の表面処理、R-Shot#Mは微細な粒子とモリブデンをメディアとともに対象物に打ち付け、表面硬度を高めつつ滑らかにし、潤滑性と耐摩耗性の向上を図る。写真はZZR1100の純正ピストンに施工したもので、ピストンピンやクランクメタル、ミッションやオイルポンプにカムホルダー、バルブ、キャブのスライドバルブにも施せる。剥がれにくく寸法が維持されるため、中古パーツでも測定で確認できれば新品同様に使えてしまう利点も持つ。価格は問い合わせを。