※本企画はHeritage&Legends 2024年5月号に掲載された記事を再編集したものです。
ワガママが生み出した14万8000円! 鍛造アルミホイール『タイプC』のデビュー価格
まずは記憶を2003年に巻き戻そう。この年はZRXシリーズの第2世代となる1200R/Sや、FI化されたCB1300SFが発売され、世はビッグネイキッド全盛、1990年代からのカスタムブームも勢いが続いていた頃だ。
その前年の2002年春、アクティブが新ブランド『ゲイルスピード』の立ち上げを発表。東京モーターサイクルショーの会場では初代アルミ鍛造ホイール(後のタイプC)がお披露目された。そして先述の2003年に同ホイールは販売に移されたのだ。衝撃だったのは前後セットで14万8000円というプライス。まだ、他社はマグネシウム鍛造ホイールの拡充を推進していたタイミングで、価格はそのマグ鍛造品の約半分だったのだ。
「当時、僕は社外にいたので詳細は知りませんが、ずいぶん思い切ったことをしたものだ、と思ったものです」と切り出したのは上田和由社長。上田社長はアクティブ初代社長だった上田敏幸さん(現アクティブHD会長)のご子息で、1998年にはアクティブにアルバイトとして入社。翌1999年には一度退社して、今も同社が輸入販売するオランダ・ハイパープロ社で働くなど、いわゆる〝外の空気〟を吸っていた頃。アクティブには2004年に再入社する。
その言葉を引き継いだのは初代アルミ鍛造ホイールからゲイルスピードの開発に携わる、深瀬さんだ。
「アルミ鍛造ホイールで当初、目標としたのは、アクティブで生産から販売まで一括管理することで、絶え間なくお客さまに製品をお届けすること。当時は海外ブランドが主流で鋳造マグホイールもまだ残っていましたから、やはり納期や品質でバラつきが出ていた。それなら自分たちでやりたい、まずはそこからでした。そしてもうひとつが、マフラーと同程度での価格設定でした」(深瀬さん)
定価設定した14万8000円は、当時のステンレス製手曲げマフラーと同程度。つまり、ホイールもマフラーを替えるのと同じ感覚で買えたらいい、という発想だった。
「利益率など度外視。経営者となった僕の今の感覚では考えられません。お客さまが喜ぶもの、自分たちがほしいものを作りたいんだ、と。言ってしまえば現場のワガママですよね(笑)」(上田さん)
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“価格破壊”を地でいった『タイプC』、そして傑作『タイプR』は現在も継続販売中だ
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タイプRの大成功でゲイルスピードブランドは定着した
そんな情熱の塊だった、ゲイルスピードの初代ホイールは、発売早々に壁にぶち当たることになる。
「パッと持った時の重量が純正ホイールとそう変わらない重さだったから、お客さまから“これ、なにがいいの?”って。全体バランスは精緻に作り込みましたから、ジャイロ効果の低減など優れた特長がありましたが、お客さまに響かない。それが悔しくて、タイプCを発売したその年には次のホイールの図面を書いていました」(深瀬さん)
深瀬さんは4輪アフターマーケットホイールメーカーの出身でバイク好きだったから、ゲイルスピード・ホイールの開発にも精力的に取り組んだ。苦労したのはホイールの重量を左右する、リムの肉厚。当時、4㎜が普通だった4輪車用と比して、バイク用は剛性、安全性を担保しながらどこまで薄くできるのか? そうして2004年に発売した“傑作”がタイプRで、この時、初代ホイールの名称はタイプCに変更された。
「タイプCの5本スポークを10本に変え、スポークとリムの接合点を増やし強度を確保して、リムを軽量化でき、全体重量を抑えることができたんです」(深瀬さん)
「この時は僕も国内営業部に戻っていて、それまでのタイプCを“ジャイロ推し”の一辺倒で売っていましたから、タイプRの発売で苦労からようやく解放され、ホッとしたのを覚えています(笑)。でも、初期モデルの浸透をする間もなく、新製品を投入するなんて、しかも大物商品のホイールで。業界では異例のことですよね」(上田さん)
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一貫して目指し続けるのは最高のストリートパーツ
上田さんや深瀬さんの思いは通じ、タイプRは売れに売れてゲイルスピードの名を確固とした。そしてこちらも当初から構想にあったという、『ゲイルスピードをフットワークパーツ・ブランドに育てる』という作業に進む。ただし、アクティブはハイパープロというパートナー・ブランドを持っているから、まずはブレーキまわりだ。
「ホイールの時もさんざん言われましたが、“元々、商社のアクティブがブレーキをやる?”、“本当に大丈夫なのか?”。そんな疑問は払拭しなければならない。ライダーの命を預かる重要パーツですから、ここも慎重に進めてきました。まずはマスターシリンダーから始めてブレーキディスク……。ブレーキキャリパーもリヤから。でも、そんな姿勢もマーケットに伝わったのでしょう。こちらは最初から受け入れてもらえました」(上田さん)
「冒頭にワガママと括りましたが、お客さまに喜ばれるモノ作り、そして自分たちが作りたいモノを実現する。ゲイルスピードで培ったそんな精神は今も受け継がれています。コストも重要ですが、そればかり意識すると面白いものは生まれないと思っています。まあ、コストは気になりますが(笑)、そこは企業努力で埋めていきます。
そして当初から一貫した思想と言えば、ゲイルスピードは『ストリート向けのパーツブランド』だということ。モータースポーツで名をなしてストリートで売ろうとは思わない。逆にストリートで安心してお使いいただくために担保する高品質が、結果、モータースポーツでも使えるだけ。ここは声を大にして謳いたい」と上田さん。
「ホイールで言えば今、原点に立ち返った製品をもう一度、マーケットが驚くものを作ろう! っていう企画が動き出しています。それが“何か”はまだ言えませんが、近いうちにカタチになるはず。期待してください」とも言う。
既存の思考に捕らわれない、そしてターゲットはあくまでストリート。そんなアクティブとゲイルスピードから目が離せない。
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2014 GALE SPEED Type-N
2018 GALE SPEED Type SB1
2019 GALE SPEED Type-E
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