文:オートバイ編集部/写真:井上 演、安井宏充
ヤマハ「XSR900 GP」特徴
「こだわりの走り」と「質感」ヘリテージの新しい象徴
2023年秋に欧州で発表されたヤマハの新型「XSR900 GP」が2024年5月20日に国内デビューを果たした。1980年代に世界GPを戦ったレーサー・YZR500をオマージュしたデザインのハーフカウルが特徴のモデルだ。
排気量888ccのトルクフルな水冷3気筒エンジンや、CFアルミダイキャストフレームなど、基本メカニズムは「XSR900」のものを受け継いでいるが、ピストン、コンロッド、クランクシャフト、カムシャフト、クランクケースなど、主要パーツのほとんどを専用設計し、フレームを見てもエンジン懸架のブラケットの肉厚を変更するなど、剛性バランスをチューニングしている。その作り込みから伝わってくるのは、単なるカウルを装着したスタイルチェンジのモデルではないということ。
もともと、現行モデルXSR900はヤマハレーシングヘリテージの核心をつくデザインを採用した、MT-09由来の走りにこだわりのあるモデル。そして追加されたXSR900 GPは、より「レーシングヘリテージ」を突き詰めたもの。アイコンとも言えるアッパーカウルや最新鋭の走行性能も「GP」の名前を冠した意味を持って作り込まれている。
今も語り継がれる多くのヒーローレーサーを生んだ「あの頃」のヤマハGPレーサーをマインドに持つ、ヤマハレーシングヒストリーを体現するモデルだ。
ヤマハ「XSR900 GP」スタイリング解説
心躍る細部へのこだわりはデザイン面だけに留まらない
GPレーサーを、いかに現代のバイクに落とし込めるか。そこで選択されたのが、エッジを効かせず流線形を意識したシンプルで丸みがある全体のシルエットだ。
シルバーに輝きデルタボックスを思わせる形状のメインフレーム、台形型で上部がフラットなシートカウル、アッパーカウルの造形と別体式ナックルバイザー、ゼッケンプレートをモチーフにしたフロントマスクなど「本物だったらどうやって造るだろうか」を形にしている。
オマージュは本来の効果を生み出すこともあり、カウルの装着とその形状によってエアロダイナミクスが向上し、エンジン出力やファイナルレシオは「XSR900」と同一ながら加速感と最高速は伸びている。
オマージュした造形美を生み出すために作り込まれた部分も多く、セパレートハンドルの切れ角確保のため、燃料タンク前方に設置されるエアクリーナーボックスカバーの設計を変更し、ライディングポジションが前傾することでのフレーム前方への荷重量増大に備えて、車体全体の剛性も見直している。
当時のレーシングカラーを思わせる外観に目を奪われがちだが、作り込みは決して外見だけのものではなく、装備を充実させ、最新鋭の技術を惜しみなく盛り込んだ最先端のスポーツモデルだ。
カラーバリエーションはXSR900 GPの象徴的なカラーと言える「シルキーホワイト」の他、「パステルダークグレー」が設定されている。塗り分けのデザインは同じで、こちらはブラックとグレーでシックな装い。XSR900 GPが正式発表される前に、ヤマハUKが「グッドウッド フェスティバル オブ スピード」でお披露目した「XSR900 DB40 プロトタイプ」に似たカラーリングだ。
フロント&リアビュー
象徴的なアッパーカウルのあるフロント側はもちろんだが、リア側から見るとシートカウルに向かっていくスマートな造形が1980年代のレーサーらしいスタイルを生んでいる。「あの頃」を知るライダーからすると、感じるものがあるはず。
GP用に車体全体の剛性をチューニング
メインフレームは最新のCF(コントロールド・フィリング)アルミダイキャスト技術を用いて、最も薄い部分の肉厚は1.7mmを実現。フロント荷重の増加に対応するため、車体全体の剛性をチューニング。2022年モデルXSR900のフレームの一部を設計変更し、ヘッドパイプの左右を連結、板金の板厚調整や連結部分の太さを変更。エンジンを吊るす板金にも厚みを持たせ、フレームとスイングアームを結ぶピボットの締結剛性も最適化している。
80's GPレーサーを思わせるこだわりのアッパーカウル
今のスーパースポーツとは違う丸みのある当時の形状を採用することで、かつてのGPマシンを彷彿とさせるアッパーカウルとなった。さらに、アンダーカウルの存在を意識させるハーフカットなボディカウルと相まって、80'sを思わせるスタイルに。カウルについたナックルバイザーは1980年代の進化で生まれたもので、まさに「あの頃」を演出する大事なポイントだ。
優れた照射性を維持しつつ、車両との一体感を演出した小径LEDヘッドランプ。発光面のサイズはHi:Φ31mm/Lo:Φ25mm。
LEDテールランプはシート下部に位置し、シートカウルともマッチする仕上げ。シートカウルを装着して公道を走る場合は乗車定員が変わるため構造変更申請が必要だ。
現代と過去を繋げる敬意と技術が融合したコクピット
カウルフォルムだけでなく、その固定方法にも1980年代感を散りばめている。カウル上部とフレームを繋ぐ丸パイプで構成されたステーやメーターを支持する直線的なステーを採用することで当時のコクピットを思わせる雰囲気を作り出している。カウル上部には、絶版になっていたTZR用(3XV)のナット構造を採用。同寸のアルミナットとカラーを復刻し、ベータピンで留めている。ベータピンは、公道走行用の量産市販車としてはヤマハでは初の採用となる。新採用の5インチのフルカラーTFTメーターがこの空間にマッチしているところがXSR900 GPらしさでもある。
過去への敬意と最新技術との融合がテーマのXSR900 GP。「Garmin StreetCross」アプリをスマートフォンにインストールし、車両とペアリングすることによって、5インチフルカラーTFTメーター上でナビゲーション機能を使用することができる。
インターフェイスを刷新した新設計のハンドルスイッチ
多機能化するインターフェイスの操作性向上のため新採用されたハンドルスイッチ。FPC(Flexible Printed Circuits)を組み込むことで、既存のものと同程度の省スペースを実現しつつ、多岐に渡る機能を集約させている。右ウインカースイッチに高さがあり、セパレートハンドルでも押しやすい形状になっている。
GP独自にセパレートハンドルを採用したが、バーエンドミラーはXSR900でも採用済み。位置の好みは分かれるだろうが、想像以上に見やすいことに驚く。