写真:赤松 孝、山口真利、南 孝幸/まとめ:オートバイ編集部
開発者インタビュー|「XSR900」から「XSR900 GP」へ(2/5)
1980年代のレーシングスピリットを現代に体現するコンセプト
こうして2代目のXSR900は2022年にデビューを果たすのだが、すでにその時点で開発陣はXSR900のコンセプトの「延長線上」に、現在のXSR900 GPとなるカウル付きモデルの姿を思い浮かべていた…いや、ネイキッドスタイルのスタンダード、そしてカウルの付いたGPも含めて、彼らの中ではひとつの「XSR900というストーリー」が自然に出来上がっていったのである。
「一番最初のスケッチでスタンダードを描くときにも、当然クリップオンのセパレートハンドルを付けたものや、カウルつきのものはイメージしていました。ただ、お客様にご理解いただけるか、という話になったとき『ヤマハ=レース』とすぐに思い浮かべていただける方の数はかなり限られるのではないか、とも考えたのです。そこで、ヤマハのレーシングヘリテージの雰囲気を感じていただきながら、市場に投入する『一歩目の布石』というか、試金石として、まずカウルのないスタンダードの方を先に出しました。そして社内でも『やっぱりこれがヤマハの強い文脈だよね』という共通認識が高まったタイミングで、このコンセプトをもっととがらせたGPが生まれていったのです(安田氏)」
1980年代のレーシングマシンが持つ独特のオーラとデザインフィロソフィーを取り入れたレーシングヘリテージ。カウルを付けることでよりそのDNAを強く感じさせる、濃厚なテイストのマシンとして、XSR900 GPの開発は加速していった。
「ターゲットカスタマーは40代〜50代の方です。子育ても終わって自分の自由な時間がある中で、若い頃にWGPを見て抱いていた憧れを、今度は自分でその雰囲気を味わいたい。ガレージの中でも楽しめて、走ってもコクピットから見える景色から当時を思い起こして楽しめる。そんなバイクライフを送りたい、という方をイメージして開発しました(武田氏)」
メインとするターゲット層は40代から50代のライダー。1980年代のヤマハのレーシングシーンでの活躍を、子供の頃リアルタイムで見てきた「あのころ」にあこがれを抱くライダーたちである。
開発責任者の橋本さんが語る。
「ただ、その年代の方々は、これまでにいろいろなバイクを経験されてきた、目の肥えた方が多いですし、このGPが初めてのバイク、という方たちではないと思うんです。そういうお客様がきちんと満足していただけるようなバイクにするために、開発の際、我々が大事にしていたことがふたつありました」
開発陣がこだわった、ふたつのポイント。それは高い品質と乗り味の確保だった。
「ひとつは、ヤマハのレーシングスピリットがしっかり感じられるバイクであって、目の肥えたお客様が所有欲をしっかり満たしていただけるような高い品質を備えていること。そしてもうひとつが乗り味です。見た目はいいけれど、乗ってみたらただ外観を変えただけで、乗り味はイマイチだよね…と言われるようなものにはしたくなかったので、この2点にはしっかりこだわって開発しました(橋本氏)」
ヤマハが強かった黄金時代をリスペクト
XSR900とGPの両モデルがスタイリングイメージのモチーフとしているのが、1980年代のWGPを戦ったワークスマシン、YZR500。錚々たるスターライダーを多数擁し、ヤマハが強さを誇った時代のマシンだ。このマールボロカラーのマシンは1983年式のYZR500(OW70)。デルタボックスフレームを採用したマシンだ。
XSRから続く「ストーリー」でGPも誕生
レーシングヘリテージの第一弾として2022年にXSR900が登場した時点で、その先にあるモデルとして開発が進んでいたXSR900 GP。ここに挙げた3Dレンダリングを見ると、まさにその誕生の過程が感じ取れる。完立体である、市販型のXSR900 GPに比べ、この3Dレンダリングでは車体関係がスタンダードのXSRと同じで、シートも短い仕様のまま。ここからさまざまなトライが行われたのだ。
ヤマハ「XSR900 GP」「XSR900」|スペック・価格・燃費・製造国
XSR900 GP ABS | XSR900 ABS | |
全長×全幅×全高 | 2160×690×1180mm | 2155×790×1155mm |
ホイールベース | 1500mm | 1495mm |
最低地上高 | 145mm | 140mm |
シート高 | 835mm | 810mm |
車両重量 | 200kg | 193kg |
エンジン形式 | 水冷4ストDOHC4バルブ並列3気筒 | 水冷4ストDOHC4バルブ並列3気筒 |
総排気量 | 888cc | 888cc |
ボア×ストローク | 78.0×62.0mm | 78.0×62.0mm |
圧縮比 | 11.5 | 11.5 |
最高出力 | 88kW(120PS)/10000rpm | 88kW(120PS)/10000rpm |
最大トルク | 93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm | 93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm |
燃料タンク容量 | 14L(無鉛プレミアムガソリン指定) | 14L(無鉛プレミアムガソリン指定) |
変速機形式 | 6速リターン | 6速リターン |
キャスター角 | 25°20' | 25°00′ |
トレール | 110mm | 108mm |
タイヤサイズ(前・後) | 120/70ZR17M/C(58W)・180/55ZR17M/C(73W) | 120/70ZR17M/C(58W)・180/55ZR17M/C(73W) |
ブレーキ形式(前・後) | ダブルディスク・シングルディスク | ダブルディスク・シングルディスク |
燃料消費率 WMTCモード値 | 21.1km/L(クラス3, サブクラス3-2) 1名乗車時 | 20.4km/L(クラス3, サブクラス3-2) 1名乗車時 |
製造国 | 日本 | 日本 |
メーカー希望小売価格 | 143万円(消費税10%込み) | 125万4000円(消費税10%込み) |
写真:赤松 孝、山口真利、南 孝幸/まとめ:オートバイ編集部