写真:赤松 孝、山口真利、南 孝幸/まとめ:オートバイ編集部
開発者インタビュー|「XSR900」から「XSR900 GP」へ(4/5)
安心感とコーナーを攻める喜びを両立するセッティング
スタンダードとはまるで異なる、専用の足まわりと車体のチューニング。理想の乗り味を目指し、試行錯誤を重ねながら、XSR900 GPの車体チューニングは進められていった。
「峠道のコーナーに気持ち良く入っていけて狙ったラインを走れ、立ち上がりでも不安なくアクセルを開けていける。スーパースポーツのように、ヒラヒラとアグレッシブに走れる…というよりは、基本的には落ち着いているけれども、狙ったラインはきちんと走れる。そんな走りを目標としました。フロントフォークは専用品で、トップブリッジの位置は若干高くなっています。同時にリアも、フロントほどではないですが上がっていて、車高としては5mmくらい上げてスポーツ性能を確保しています。でもフロントの方がリアより上がっていて、キャスター角としてはスタンダードより0.2度ほど寝ています。セパレートハンドルなので前が低いイメージを持つ方も多いと思いますが、実際はちょっと前上がりの姿勢になっています。セパレートハンドルということでライダーはアップハンドルのスタンダードより前に座るので、フロントの分担荷重は増えていて、その結果フロントサスペンションはちょっと硬い方向のセッティングになっています。逆にリアは若干柔らかめで、しっかり動いてくれて、コーナーの立ち上がりで安心感をもってアクセルを開けていけるようなセッティングとしました(橋本氏)」
安心感をもって、ライダーが気持ちよくコーナリングを楽しめるようなハンドリング。その実現のために、サスペンションだけではなく、車体にも専用のチューニングが施されている。
「フレーム自体はスタンダードと色以外は同じなのですが、厳密に言えば、エンジンを懸架しているプレートの板厚を変えたり、スイングアーム締結部のブッシュの断面形状をちょっと変えたりしていますし、サブフレームも違います。エンジンは先にモデルチェンジしたMT-09のものと同じで、そういった大きなところを変えない代わりに、調整のきくパートはいろいろ試行錯誤を重ねてセッティングしました(橋本氏)」
安定感がある中でほどよくスポーティ。そんな乗り味を確保する一方で、ターゲットカスタマーが40代〜50代ということで、ライダーの快適性の確保についても、GPにはさまざまな工夫が施されている。
「一日中ワインディングを走り回るとか、一日中サーキットで走るという方は少ないと思うんです。具体的に言うと、休日は朝早く箱根あたりの峠道を気持ちよく走って、午後には家族と過ごす、というところをイメージしていたので、高速道路の移動も疲れない仕様としました。ライディングポジションに関しては、ハンドルの角度を1度、2度の違いで細かく検証し、前後の位置もミリ単位でテストしています。ステップの高さもさまざまなものを作ってミリ単位で調整しましたし、ステップにも振動を抑えるラバーを追加したりして、移動も苦にならないよう配慮しています(橋本氏)」
レーシングヘリテージらしい、1980年代を思い起こさせるスタイリングに、節度のある、安定感と爽快さを併せ持ったハンドリングを生み出すシャシー。そしてもうひとつ、開発陣がこだわり抜いたのが「上質さ」の追求。GPに採用されている数々の装備に、その想いが詰まっている。そのひとつが、5インチカラーTFTメーターに採用したアナログモードだ。
「今の時代、必要な機能のことを考えたら純粋なアナログのメーターは採用しづらいんですが、デジタル感の強いものはGPには合わないね、ということで、様々なデザインの表示モードの中に、アナログタコメータータイプのものも加えてもらったんです。ただ、初期の段階ではこのタコメーターの針の動きがスムーズではなく、開発メンバー一同『思っていたのと違うね』という話になり、もっと動きを滑らかにするよう、電装担当にお願いしました。言うのは簡単なんですが、実はこの針のスムーズな動きを実現するにはメモリの容量が必要で、そのままだと他の機能に使うメモリの容量が不足してしまうので、かなり頑張って工夫してもらいました(橋本氏)」
乗り心地にも配慮した新作のシートを採用
クリップオンのセパレートハンドルを採用するXSR900 GPは、ライダーの乗車姿勢が前傾となるが、乗り心地の良さにも配慮してシートを新作。一見すると、テールカウル風の後部デザインを採用しているせいでスタンダードのXSR900と同じように見えるが、ライダーの着座位置がスタンダードよりも前になるためシート長をタンクまで伸ばし、クッションもウレタンフォームの発泡の度合いを変更することで、約2割弱ほどソフトな仕様となっている。
多彩なメーター表示でアナログモードも搭載!
XSR900 GPには、視認性に優れた5インチのカラーTFTメーターが採用されている。スタンダードが3.5インチなので、これだけでも装備の大幅なグレードアップなのだが、バーグラフ式タコメーターを持つ3種類のデジタルモードに加え、アナログ式タコメーターをイメージしたデザインテーマも搭載。出力特性や電子制御デバイスの介入を統合制御するライディングモード・YRCも3種類+カスタム2種類が用意されている。
ヤマハ「XSR900 GP」の主なスペック・燃費・製造国・価格
全長×全幅×全高 | 2160×690×1180mm |
ホイールベース | 1500mm |
最低地上高 | 145mm |
シート高 | 835mm |
車両重量 | 200kg |
エンジン形式 | 水冷4ストDOHC4バルブ並列3気筒 |
総排気量 | 888cc |
ボア×ストローク | 78.0×62.0mm |
圧縮比 | 11.5 |
最高出力 | 88kW(120PS)/10000rpm |
最大トルク | 93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm |
燃料タンク容量 | 14L |
変速機形式 | 6速リターン |
キャスター角 | 25゜20′ |
トレール量 | 110mm |
ブレーキ形式(前・後) | ダブルディスク・シングルディスク |
タイヤサイズ(前・後) | 120/70ZR17M/C(58W)・180/55ZR17M/C(73W) |
燃料消費率 WMTCモード値 | 21.1km/L(クラス3・サブクラス3-2)1名乗車時 |
製造国 | 日本 |
メーカー希望小売価格 | 143万円(消費税10%込) |
写真:赤松 孝、山口真利、南 孝幸/まとめ:オートバイ編集部