文:ノア セレン/写真:南 孝幸
三重奏を響かせながら、目指すは静かな湖畔の森の中
ダイナミックなXSR900と意外と快適なXSR900 GP
3気筒の3重奏。GP2台と、XSRで都内を抜け、高速道路を走り、ツーリングへと出かけていく。
早朝の静まり返った都内で3台をスタートさせると、4気筒とは違う個性的な排気音が響き渡る。良い意味で整っていないサウンドが、1980年代にがむしゃらに最速を求めたGPシーンとリンクさせてくれる。とはいえ、マフラー出口が路面に向かって下を向いていることもあって、そんなエキサイティングさを周囲にまき散らすことなく、ライダーだけに楽しませてくれる感覚がスマートだ。
GPの2台はレプリカ時代にタイムスリップさせてくれるクリップオンポジション、そしてXSRはワイドなバーハンドルとバーエンドミラーの組み合わせで幅広な印象だが、交通量の少ない幹線道路では苦にならず、むしろ無理が効かないからこそ余裕をもった走りとなる。
GPはスイッチデザインが新しくなっていて3人とも慣れるまで「あれ? あれ?」などと言っていたが、GPが採用した新型の5インチディスプレイは小ぶりなXSRのメーターに比べて大きく進化している。見やすいだけでなく好みに合わせて表示の種類も気軽に変えられるのだ。
一方、XSRまで採用していた右スイッチボックスの上下ダイヤル式のスイッチがなくなったのが寂しい、との意見もある。いずれも慣れの範疇だろうし、XSRもいずれGPと同じシステムに統合されるのだろう。
高速道路に入ると自然とアクセル開度も大きくなる。タンクの裏側から吸気音が響き、3気筒らしい力強い中回転域のおかげでギアチェンジせずとも速度は自由に乗せられる。
「エンジンがもの凄く熟成されてきましたよね! 初期型のMT-09はレスポンスが激しくてサスも柔らかかったからエキサイティングな反面、ちょっと怖いと感じるほど活発な印象もありました。あの3気筒がここまで良くなったのかぁ! パワーはあるんですが、スポーツモードでもアクセルの開け始めがスムーズなので、あらゆるシチュエーションでとても使いやすくなってる」と中野さんは、大きく熟成された3気筒エンジンについて語っていた。
振動の少なさも特筆事項だ。クリップオンハンドルだと一定の回転域で手が痺れたりすることも少なくないが、そんなことは全くないし、大型のカウルにビビリ音が出たりすることもない。GPのステップにはゴムが貼られているが、XSRにはないことや、GPはシートのクッションがソフトになっていることなど、前傾はそれなりにあるが、快適性への配慮もされている。
高速道路を走っていて感じるのは、芯の通った安定性だ。スポーツバイクではあるものの、ドシッと地面にくっついているような安定感はホイールベースの長さによるものではないだろうか。というのも、XSRとGPはMT-09よりも全長が長く、トレーサーと同じホイールベースを持っているので、スポーツ性という意味ではMTの軽快さを失っていない。それにもかかわらず、ツーリングシーンではトレーサーのような安定感と落ち着きを感じさせてくれるのだ。
ただGPで長距離を走ると、高速はともかく一般道のノンビリペースでは手首や首に負担を感じる人もいるかもしれない。中野さんも休憩時に「あ、フォークトップにちょっと余裕あるなぁ。ハンドルをもうちょっと上げられそうだな」と独り言を言っていた。アクティブに走るぶんにはGPのフィット感は魅力だが、長距離ツーリングではバーハンドルのXSRの方が気楽に走れるのは事実だろう。
ライポジはともかくとして、GPのシートは絶品だ。XSRのシートはサイドカウルがシートとタンクの間にまで伸びているので、タンクに密着して座るとサイドカウルパネルの上に着座していることになるので、尻への負担は少なくない。よって自然と腰を引いた乗車姿勢になり、より後輪荷重な乗り方になる。それがXSRらしさであり、バーハンドルネイキッドをダイナミックに操るスタイルを作り出している要素ではあるものの、着座位置を限定されてしまうと感じる人もいるだろう。
対するGPはタンクまでしっかりとシートが伸びていて、かつクッションの柔らかさも変更されていて、結果シート高は若干高くなっているが、長距離における尻の快適性はかなり高まっているし、着座位置の自由度も高まっている。今回の3人は体形も様々だが、よりタンクに密着して座ることも、より腰を引いて座ることも可能であり、それぞれが自分に合ったポジションを見つけ出すのに苦労はなかった。
ただシート高が増えたこととクリップオンハンドルであることで、中野さんは「Uターンだけはちょっと気を使いましたね。足が届きにくいということもありましたが、ハンドルをフルロックするとグリップとタンクが近く、アクセルの細かな操作がちょっとしにくいということがありました。狭い道だったら降りてUターンしても良いかもしれません」と話していた。
3台で楽しく走った結果、ポジションの違いはあるもののそれぞれのツーリング適正は十分高いという事は確認できた。2台とも常に独特なスタイリングの美しさを楽しめるのはもちろん、燃費も20km/L以上も記録したし、ゆっくり走ってもエンジンの表情が豊かで飽きさせないというのも魅力だ。GPはその名の通りGPシーンをイメージしたルックスではあるが、その空気感を楽しみつつ、ツーリングに使うというのも大いにアリだ。
ヤマハ「XSR900 GP」主なスペック・燃費・製造国・価格
全長×全幅×全高 | 2160×690×1180mm |
ホイールベース | 1500mm |
最低地上高 | 145mm |
シート高 | 835mm |
車両重量 | 200kg |
エンジン形式 | 水冷4ストDOHC4バルブ並列3気筒 |
総排気量 | 888cc |
ボア×ストローク | 78.0×62.0mm |
圧縮比 | 11.5 |
最高出力 | 88kW(120PS)/10000rpm |
最大トルク | 93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm |
燃料タンク容量 | 14L |
変速機形式 | 6速リターン |
キャスター角 | 25゜20′ |
トレール量 | 110mm |
ブレーキ形式(前・後) | ダブルディスク・シングルディスク |
タイヤサイズ(前・後) | 120/70ZR17M/C(58W)・180/55ZR17M/C(73W) |
燃料消費率 WMTCモード値 | 21.1km/L(クラス3・サブクラス3-2)1名乗車時 |
製造国 | 日本 |
メーカー希望小売価格 | 143万円(消費税10%込) |
ヤマハ「XSR900」主なスペック・燃費・製造国・価格
全長×全幅×全高 | 2155×790×1155mm |
ホイールベース | 1495mm |
最低地上高 | 140mm |
シート高 | 810mm |
車両重量 | 193kg |
エンジン形式 | 水冷4ストDOHC4バルブ並列3気筒 |
総排気量 | 888cc |
ボア×ストローク | 78.0×62.0mm |
圧縮比 | 11.5 |
最高出力 | 88kW(120PS)/10000rpm |
最大トルク | 93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm |
燃料タンク容量 | 14L |
変速機形式 | 6速リターン |
キャスター角 | 25゜00′ |
トレール量 | 108mm |
ブレーキ形式(前・後) | ダブルディスク・シングルディスク |
タイヤサイズ(前・後) | 120/70ZR17M/C(58W)・180/55ZR17M/C(73W) |
燃料消費率 WMTCモード値 | 20.4km/L(クラス3・サブクラス3-2)1名乗車時 |
製造国 | 日本 |
メーカー希望小売価格 | 125万4000円(消費税10%込) |
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文:ノア セレン/写真:南 孝幸