この全てが見事に融合して誕生したXSR900 GP。そしてこのマシンの付加価値をさらに高めるために誕生した外装セットの舞台裏が、いま明かされる。
まとめ:オートバイ編集部/写真:関野 温、南 孝幸
開発途中に偶然思いついたFZR400Rカラーの誕生
ただワイズギアのXSR900 GP外装セットが市販モデルと大きく異なるのは、ハーフカウル仕様ではなく、フルカウル仕様だということです。アンダーカウルの形状を見てください、とても面積が小さいです。これはエンジンの放熱対策など色々なことを考慮した結果なのですが、大変だったのは小さいアンダーカウルからシートカウルにかけて、流れるようなデザインのストロボパターンにすることです。何度もボディにラインを引いては5m下がり、全体のイメージを確認、これをひたすら繰り返しました。
その中でも特にこだわった箇所は、燃料タンク上面の赤色をどこまでサイドに落とし込むかです。これもミリ単位で何回もラインを引き直しています。それからタンク上面から下部に流れる赤色の絞り角度にもこだわりました。ここのデザインは跨った時に一番目に入るところですからね。
実は外装セットで使用した色は、RZV500Rに使われていた色とは少し異なります。RZV500Rの赤色はどちらかというと朱色っぽいので、これをXSR900 GPに配色すると少しボヤけた感じになったので、少し引き締まった赤色にしました。
白色も同様です。大切なのは何でもかんでも当時のままを忠実に再現するのではなく、XSR900 GPに最適な色合いで再現しています。それからテールカウル背面部の黒色も見て欲しいですね。RZV500Rを知らない方は、「なんでここだけ黒なの?」と思うでしょうが、この時代を知っている人にとっては、ここは黒じゃなきゃダメなんです。こういう所はこだわり抜きました。
開発当初、XSR900 GP外装セットは白赤のボディカラーのみで進行していましたが、ある時デザイナーと「赤と紺の配置を逆にしたらFZ400Rに見えないか?」って話になったんですよ。そうしたらデザイナーがスグにパソコンで配色を変更したところFZ400Rそのものになったんで、これは絶対に実現しなければならないと思いました。
でも不安もありました。カラーバリエーションを2種類にすれば販売個数が二つに割れますし、投資額も増えますのでかなりドキドキでした。でもモーターサイクルショーに説明員として参加したときに直接お客様と話したことで、不安が確信へと変わりました。完成した2種類のカラーリングを見比べると、個人的には白紺の方が好みなんですが、実際の販売比率はほぼ半々で、若干白赤が多い感じです。
ヤマハと共に歩んできた「栄光のストロボパターン」
今日までヤマハとして、そしてワイズギアとしてストロボパターンの旧レーシングカラーを採用した商品をいくつか発売してますが、実はヤマハの社内規定で旧レーシングデザインの使用には厳しい条件があります。だからそう簡単にこのカラーリングを商品化することはできません。
これを実現するためには、旧レーシングデザインを使用する意義、つまりお客様に対してどれだけ付加価値を提供することができるのか、が重要になります。それが社内で認められて、はじめて商品化することができます。
とはいえ、このハードルの高さが理由で永遠にストロボパターンを使わないでいると、ヤマハがこれまで築き上げてきたレース活動の栄光や往年の名車たちの存在を忘れ去られることにもなります。昔は昔、今は今、ということをユーザーに理解していただき、今回のようにしかるべきタイミングでストロボパターンの商品をこれからも提供していきたいですね。1980年代のバイクを知らない今の若者に「昔はこんなバイクがあったんだよっ」って伝えたいです。
自分的にはXSR900 GP外装セットは、かなり高いクオリティで再現できたんじゃないかなと自負しています。今は全くの未定ですが、数年後には第二弾のXSR900 GP外装セットが登場するかもしれません。1980年代にはヤマハを代表するカラーリングがまだまだありますからね。色々と妄想を膨らませながらヤマハのバイクを楽しんでいただければ嬉しいです。
XSR900から始まった名車外装セットシリーズ
歴代XSR900では1970〜80年代のヤマハを象徴するレーサーと市販車をオマージュした外装セットも販売された。特に往年の名車「RZ250」のカラーリングを彷彿とさせる初代XSR900用の外装セットは、当時を知るバイク好きの間で話題となった。
まとめ:オートバイ編集部/写真:関野 温、南 孝幸