以下、文:高山正之
筆者プロフィール
高山正之
1955年 山形県出身
1974年 本田技研工業に入社(狭山工場)
1978年 本社モーターレク本部に異動
以降2020年に65歳で退職するまで二輪のモータースポーツや新製品のPR活動に従事。現在はライターとしてスーパーカブの魅力を発信し続けている。愛車は、退職時にプレス関係者や同僚からの激励が書き込まれた世界に一台のスーパーカブ110。
1958年 ホンダを、日本を代表するスーパーカブが誕生
日本市場に合わせたモノづくり
1958年8月、ホンダから斬新なスタイルと耐久・信頼性に優れた4ストロークエンジンを搭載した50ccの小柄なオートバイ「スーパーカブC100」が発売されました。
スーパーカブの開発には、創業者の本田宗一郎と藤澤武夫両氏が深く関わっていました。ふたりは、スーパーカブによって一般庶民の暮らしをより豊かに楽しくしたいと考えていました。
そのためには、品質に優れた製品をいかに求めやすい価格で提供できるか。そして、販売とアフターフォローができるサービス網の拡充に注力したのです。全社を挙げた展開によって、スーパーカブは人々の生活に浸透していきました。
現在、多くの方がスーパーカブに描くイメージは「働くバイク/ビジネス」なのだと思います。
しかしながら、発売当初は実用に加えて、街中をおしゃれに乗りこなす、そして郊外でのピクニックも楽しめるといった、「パートナー/レジャー」のような存在を提唱していたのです。
ここでは歴史を振り返りながら、働くバイクの代表格のスーパーカブが、趣味やレジャーの友として歴史を変えた時を紐解いていきたいと思います。
1960年代はスポーツとレジャーも提唱
1960年 ホンダの50ccとして初となるスポーツモデルが誕生
1960年、カブのロードスポーツ版となる「スポーツカブ110」が登場。スーパーカブとはフレームが異なり、スポーティなスタイリングや精悍なアップマフラーに、3速マニュアルトランスミッションなどで若者たちに大好評だった。
1962年 元祖ハンターカブが登場
1962年に発行したオートバイ1月号の広告。ハンターカブの車名で紹介されています。
そして、アメリカンホンダの要請で急遽開発したアウトドア仕様のハンターカブを、1961年の全日本自動車ショウ(後の東京モーターショー)に参考出品し、11月にC105Hハンターカブとして日本で発売したのです。
1968年 アウトドア・カブが発売
C105Hハンターカブは、日本においてはとても販売期間が短く、1968年に後継モデルとしてCT50を発売。登坂で威力を発揮する副変速機を採用した本格的なアウトドア・カブでした。
1968年 元祖スクランブラーモデルが登場
1960年代は、スーパーカブファミリーにオフロード走行もこなせるCT50が登場しましたが、より本格的なオフロードモデルとして、スクランブラーモデルのCLシリーズが誕生。
スーパーカブのエンジンを流用しながら、オフロード走行を楽しめるスクランブラーモデルでした。
67年・69年にはそれまでにない2台のニューモデルがラインナップ
新たなレジャーモデルとして誕生したのが1967年に発売されたモンキーZ50Mと、1969年のダックスホンダです。
どちらもスーパーカブのエンジンを流用していますが、新しい時代のレジャーバイクとして人気ものになりました。カタログでは、クルマに積んでレジャーを楽しむ6輪車時代の到来を表現。
1970年代、1980年代はビジネス主体に展開
働くバイクとしての新境地を開拓
レジャーモデルのモンキー、ダックスと、スクランブラーモデルのCLシリーズの発売などにより、スーパーカブはビジネスモデルの色を更に濃くしていきました。
当時のカタログでは、職業シリーズとして生活を支えるビジネスカブを訴求。1970年代に入ると、スーパーカブの役割は働くバイクとして活躍する世界を拡げる事でした。
1971年 郵便や新聞配達用のMD90、ニュースカブが誕生
1971年、郵政省と共同開発した郵便配達専用のMD90が誕生。同年には新聞配達専用のニュースカブC90も誕生し、ビジネスシーンにおいて欠かせないモデルとなりました。
そこから郵便配達用カブは、MD70やMD50を加え、モデルチェンジし新聞配達用カブも、プレスカブやプロと名称を変えながら現在もビジネスシーンで大活躍しています。
1981年 CT125の祖先、CT110が登場
1981年、トレッキングモデルとしてCT110が発売されました。アウトドア・カブとしては、1968年のCT50から数えて13年後となりました。
発売当時は、ホンダとヤマハが熾烈な出荷競争(通称HY戦争)の最中で、CT110は数多くあったニューモデルの1台として扱われたため、カブの世界に新風を吹き込む存在にはなりませんでした。ハンターカブの名はファンの間で呼ばれていた愛称だったそうです。
1982年 “赤カブ”が登場! パワーも見た目もインパクトはあったが…
1982年、それまでにない鮮やかなレッドカラーを身に纏ったスーパーカブ50 SDXが登場。スーパーカブ50史上最強の5.5PSを発揮するエンジンを搭載するモデルで、この真っ赤な車体は赤カブの愛称で親しまれましたが、ビジネスの域を超える存在にはなりませんでした。
しかしながら、この鮮やかなカラーリングについては、その後のカブシリーズに大きな影響を与える存在となりました。
文:高山正之