※本企画はHeritage&Legends 2024年5月号に掲載された記事を再編集したものです。
直系後継エンジンで可能性は広げられる
先代、言い換えればスズキの4ストロークリッターモデルの初代となるGS1000。これを2から4バルブ化したのがGSX1100E。GSX1100Sカタナは、そのプラットフォームに独特の外装をまとわせたものだ。さらに言うなら、後継は油冷のGSX-R1100が該当する。
そこで紹介するこの車両は、カスタムファクトリー刀鍛冶によるカタナ。赤×銀のSSLカラーに前後18インチホイールやフロントフォークのゴールドカラーのマッチングも良好。注目はエンジン。そう、油冷ユニットに換装されている。その理由や方法、背景は何だろう。
「“油冷エンジンを積んだカタナに乗りたい”というオーダーをいただいたんです。オーナーさんはもう1台、フルノーマルのカタナも持ってらして、油冷との違いというか、カスタムバイクも楽しみたいという感じです。手法としては当店にはエンジン位置や補機類含めた取り回しなど油冷搭載のデータもありますし、カタナに油冷エンジンを積むマウントキット(エンジンハンガー)も販売していますから、過去の例と同様、無理なく積んでいます」
刀鍛冶・石井さんは言う。刀鍛冶はその名の通りにカタナ、そして油冷エンジンモデルのカスタムを中心としたショップでもあり、同店なら両車の融合は石井さんも言うように無理なく行える。
油冷エンジンはカタナのそれより前後/左右ともコンパクトになること、ノーマル状態でも出力が上がること(参考としてカタナの111psに対してGSX-R1100なら初期型で130ps、後期型で143ps)も利点になる。そのあたり、そして石井さんが気を配る純正パーツ廃番の増加に対してはどうだろうか。
「エンジンは、JEピストンで1216ccにしてヨシムラST-1カムや当店で持っていた6速クロスミッションも組んでます。フルオーバーホールも兼ねてチューニングもしたという感じです。ベースは1200(GSF1200等のφ79×59mm/1156cc)と言うか、1200と1100(GSX-R1100。後期はφ78×59mm/1127cc、前期はφ76×58mm/1052cc)のハイブリッドです。ここでは1200の腰上に1100(ここでは後期)の腰下、クランクは1200。クランクが1200なのはカムチェーンのテンショナーガイドが1200用は新品が出るけれど、1100用は出ない、つまりフルオーバーホールができなくなってるからです。どうしても1100で行きたいなら、いい中古エンジンを探すしかないのが現状です。シリンダーヘッドでも同じ油冷でも吸排気ポートの形が違っていて、1100の方がパワーが出るなどの特徴はあります。ですからそれぞれの特徴が分かっていれば、ブロック/パーツの組み合わせを変えて特性を変えることができる。パワフルなエンジンを作るとか、応用の利く利点もあります。そういう意味でハイブリッドです」
単に換装するだけでなく、今後のオーバーホールのための純正パーツの有無、そして求める特性まで考えた構成でのエンジン作り。カタナエンジンでも厳しくなる純正パーツ事情は、油冷だから大丈夫というわけでもないが、このように歴代モデルの組み合わせができるのはプラスとも言える。
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オリジナルやワンオフのパーツでも追える可能性
このカタナ、車体の方も11カ所のフレーム補強が行われる。ネック下、背面、キャブレター後ろ(曲線状になった部分にプレートを追加)。エンジン後ろの左右フレームをつなぐパートの連結部、ピボット上にリヤショックアッパー近辺。
純正φ37mmからφ43mmに太くされたフロントフォークをマウントするステムやスタビライザー付きスイングアームは刀鍛冶によるワンオフ品。こうしたフレームにつながるパーツのノウハウもある。
ステップやバッテリーケースにシート下の電装マウントボックス(一般的なプレートでなくトレー形状としている)も刀鍛冶のワンオフ。シリンダーヘッドに備わるオリジナルエンジンスライダーは、ここでは油冷エンジンに付くが、カタナにも装着可能(カラーの違いがあるのでオーダー時にどちらに付けるかを添えるといい)。
こうした細かいパーツ製作や、冒頭で石井さんが油冷機搭載のデータとして述べていた車体作りは、刀鍛冶の本領でもある。
それが現れているのは、テイスト・オブ・ツクバ=TOTのトップクラス、ハーキュリーズにもう10年参戦し続けているレーサー、刀鍛冶“刀”。カタナのルックスに現状で1277ccへスープアップされた160ps仕様の油冷エンジンを積み、行方知基選手がライドするマシン。’23年5月には58秒台入りも果たし、上位を走り続ける油冷エンジン車だ。
エンジン仕様も熱対策と出力、耐久性のバランスまで多くを試し、オイルを冷やすボディ側のエアフローも考慮する。シャシーはGSX-R1000K5ディメンションで起こした17インチ&モノサス仕様で、これもいくつかの変遷を遂げてきた。最新の仕様ではリヤサスマウントまわりの作り替えで、あえて剛性を落としたという。
「今までが剛性があり過ぎたんですね。コーナーを曲がりにくい。それがたまたま3つ前のTOTの時に前より曲がりやすくなっていたんです。何も変えてないんですけど、後で確認したらフレームにクラックが入っていた。それでちょうどいい感じに剛性が抜けたんですね。その抜け、バランスを作るために作り直して、操作性やコーナリングを良くした。次の5月はこのフレームに合わせてフロントフォークを中心にサスセッティングを見直して行く予定です」
このようにして数字だけでなく積み上げられる車体側のノウハウは、ストリートを走るカタナに反映できるとも石井さんは続けてくれる。17インチ用としても、油冷機搭載車用にも、もちろん18インチや空冷エンジン搭載車にも。前ページの車両はそのひとつでもある。
カタナをまだまだ楽しめるように。油冷カスタムやレーサーを通じて、オリジナルパーツを通じて。刀鍛冶の活動は、カタナというモデルを走らせ続けることへの可能性を広げていると言えるのだ。
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油冷機搭載に適した各部パーツも用意
上で紹介した刀鍛冶の油冷カタナには各部に刀鍛冶製パーツが装着されている。1枚目は万一の転倒時にエンジン/車体へのダメージを軽減する「エンジンスライダー」。2枚目は高性能な「オイルキャッチタンク」でアルマイトなしのほか、セラコート・ブラック仕様もある。3枚目のバッテリーケースはワンオフだがオーダー製作することは可能。詳細は問い合わせを。
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カタナ用オリジナルパーツも注目
刀鍛冶ではもちろんGSX1100S用パーツも用意される。1枚目と2枚目はバー位置が5mm前×5mm上と0mm前×20mm上の2ポジションが選べる「GSX750S/1000S/1100S バックステップ」(別売りブレンボマスターあり)はベビーフェイス製で刀鍛冶ロゴ入り。3枚目は上で油冷用とした「エンジンスライダー」でカタナにも使用可能。カラーが違うのでオーダー時に使う機種を伝えること。4枚目はNC削り出しで純正よりも軽く高剛性な「強化クラッチバスケット」。ほかに6速クロスミッションやTSS製スリッパークラッチも用意する。
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10年にわたるTOTハーキュリーズ参戦でカタナと油冷の可能性を高め続ける
TOTハーキュリーズ用、刀鍛冶“刀”。写真は’23年11月のTOTでのもので、カラーも黒から紫/オレンジ/赤ラインを新たに加え、フレームはあえて剛性を下げることで旋回性を高めてコーナリング特性を上げるべく、リヤサスマウントアッパー近辺を作り直した。フロントカウル内にはシリンダーヘッド冷却用オイルクーラーが置かれ、ゼッケンプレート下のダクトから効果的に走行風を送ることで安定した冷却性を得るなどのデータも得られている。
下側写真左は向かって左が刀鍛冶・石井光久さん、右がライダーの行方知基さん。既に58秒台のラップも刻み、実績を積み上げている。
刀鍛冶“刀”のフレームはGSX-R1000K5ディメンションを参考にして製作した刀鍛冶オリジナルのスチール製でモノショック仕様。エンジンは現状で耐久性と出力のバランスを取った160ps仕様の1277cc油冷を積む。