2024年、ひとつブレイクした岡本

「来年、なんのカテゴリーで走るのかはまだ分かんないですけど、日本の最高峰クラスのチャンピオンとして恥ずかしくないレースを、どこを走ってもしなきゃな、って思います」と言ったのは、2024年のJSB1000クラスチャンピオンの岡本裕生です。レースが終わったあとの記者会見後に、岡本を囲んでの小インタビューでのひとことでした。

岡本にとっての2024年は、ついにチームメイトで先輩である中須賀克行超えを達成した、ひとつステップアップしたシーズンでした。中須賀に開幕3連勝を許したものの、第3戦・菅生大会のレース2から7レース、中須賀の優勝を許しませんでした。中須賀を破るのは初めてではないけれど、勝ったり負けたりではなく、ほぼ実力で乗り越えた――そう感じさせる走りでしたね。
それほど、今シーズンの岡本は強かった! 

画像: 中須賀と水野のトップ争いに後れを取ってしまった開幕戦・鈴鹿2&4

中須賀と水野のトップ争いに後れを取ってしまった開幕戦・鈴鹿2&4

開幕戦は極寒の鈴鹿2&4。先輩・中須賀克行と、このレースが日本初登場となった、チームカガヤマのドゥカティファクトリーマシン、パニガーレV4Rを駆る水野涼の後塵を拝する3位フィニッシュ。土曜の走行がキャンセルされるほどの極寒のなか、金曜の走行で転倒、圧倒的に走行時間が足りない中での開幕戦でした。
「転倒から修復してもらったマシンの確認もできないままの決勝レースでした。課題ばかりが残るレース、完走できただけでもホッとしています」

画像: 中須賀と僅差の2位でフィニッシュしたもてぎ大会のレース2 写真のこの差がなかなか詰まらない!

中須賀と僅差の2位でフィニッシュしたもてぎ大会のレース2 写真のこの差がなかなか詰まらない!

第2戦は中須賀が優勝を逃すことの少なくないモビリティリゾートもてぎ。レース1は開幕戦と同じく中須賀と水野の後ろで3位フィニッシュ。レース2でも3位以下を大きく引き離したものの、中須賀に力負けした印象の2位ゴールでした。
「なんとか中須賀さんについていけましたけど、レース1と同じような展開。仕掛けるポイントを作れなかったし、勝負に出る強みがなかった。最後は引き離されて、完全に負けです」

画像: 菅生大会のレース2では今シーズン初優勝!「菅生は得意なコースだから勝てた感じでした」(岡本)

菅生大会のレース2では今シーズン初優勝!「菅生は得意なコースだから勝てた感じでした」(岡本)

第3戦は岡本が得意という、23年に初めて中須賀を破ったスポーツランド菅生大会。レースウィークを控えた事前テストでは、中須賀を上回ってのトップタイム、公式予選でもコースレコードをブレイクしてのポールポジションを獲得しました。
その菅生大会のレース1は、やはり水野を交えて、中須賀との3すくみのレースで、終盤に水野をパスして中須賀に迫った岡本が、最終ラップでベストタイムをマークして0秒152秒差の2位フィニッシュ。しかし、レース2では水野を約2秒差に振り切って、中須賀とは11秒5の大差をつけての今シーズン初優勝を決めてみせました。
「事前テストからいい流れでのレース。レース1では中須賀さんと水野君の走りから一歩引いて見てしまってレース中盤のトップ争いに加われなかった。レース2は序盤から行こうと、自分でペースを作って行った。JSBでこんなにレースを引っ張って勝ったのは初めてですね!」

画像: 8耐明けのもてぎ大会では、水野+パニガーレに逃げられて、中須賀と2位争いの末に3位でゴール

8耐明けのもてぎ大会では、水野+パニガーレに逃げられて、中須賀と2位争いの末に3位でゴール

第4戦は鈴鹿8耐明けの灼熱のもてぎ大会。ここでは、8耐ウィークで鈴鹿を走りに走った水野+パニガーレV4Rの勢いに飲まれ、逃げを許してしまっての3位フィニッシュ。
「一発のタイムよりレースアべレージが良くて勝負になると思ったんですが、水野君が1周目からトップに立ってペースアップ、逃げに逃げたのについていけませんでした。予想はしていたけど、ついていけなかったのは悔しいです」

画像: 赤旗中断中にマシンのセットを変えての先行逃げ切り! 岡本の新しい必勝パターンだ

赤旗中断中にマシンのセットを変えての先行逃げ切り! 岡本の新しい必勝パターンだ

第5戦オートポリス大会は、岡本も中須賀も得意とするコース。しかしここで、土曜の公式予選で中須賀が転倒するというアクシデント。土曜のレースは中須賀が、日曜のレースは岡本がポールポジションというがっぷりのスタート。水野は、ドゥカティでオートポリスを走行するのが初めてとあって、レース前から「ちょっと走行時間が足りない」――そう言っていました。
レース1では、中須賀と岡本が3番手以下を引き離しながらのレース中盤で赤旗中断、決着をつける第2レースでは、残りレースの中盤からじりじりと岡本が中須賀を引き離し始め、中須賀を3秒7ほど引き離して今シーズン2勝目! 日曜のレース2では4~5周目という早い段階から岡本が中須賀を引き離して4秒5もの差をつけての独走優勝!
「レース1は赤旗中断の間にチームにセットを変えてもらって、うまく当たっての優勝でした。レース2では、競り合ってしまうと中須賀さんの強さが出てしまうから、序盤からできるだけ引き離して、と思ったのが当たりました。ST600時代もST1000時代も、連勝って初めて!」

画像: 岡本が独走で3連勝 水野、中須賀を引き離した岡山大会

岡本が独走で3連勝 水野、中須賀を引き離した岡山大会

第6戦は前戦オートポリスから20日だけ開けての岡山大会。レースインターバルが長い前半戦に比べて次々とレース→事前テスト→レースが続きます。この大会でもコースレコードを更新してポールポジションを獲ったのは岡本。ちょっと波に乗ってきた感じがした大会でしたね。
レースでは、1周目から先頭に立って逃げ切りを図る岡本、中須賀はまたも予選で転倒を喫しての出走でペースが上がらない。
レースは7周を終えた時点で転倒者が出て赤旗中断からの再スタートとなり、ここでも岡本がオープニングラップからレースを引っ張って、2位の水野に2秒5差をつけての優勝。これでオートポリスから3連勝、今シーズン4勝目です。
「苦手意識があった岡山ですけど、予選でレコードを更新してポールを獲って、いい流れのレースでした。赤旗の間も集中を切らさずに行けたのがよかった。赤旗前も赤旗後も、スタートが決まったのもよかったですね。レース終盤は2位の水野君との差を見ながら走れました」

画像: 最終戦、中須賀が転倒で戦線を離脱した後は水野、野左根に続いて3位フィニッシュ!

最終戦、中須賀が転倒で戦線を離脱した後は水野、野左根に続いて3位フィニッシュ!

そして最終戦MFJグランプリ。2レース制の2つとも岡本がポールポジションからのスタートのレースで、レース1は岡本、水野、中須賀が最終ラップまでもつれにもつれてのトップ争いを見せながら、水野が今シーズン2勝目、岡本が2位、中須賀が3位でゴールし、なんとここまでで中須賀と岡本のシリーズポイントが「211」と同点となり、日曜のレース2で勝った方がチャンピオン、というものすごいフィナーレへと向かっていったのです。
そしてレース2では、今シーズンに岡本がたびたび見せた必勝パターンである「1周目からの逃げ」でレースをスタート。じりじりと中須賀を引き離した岡本は、16周のレースが折り返しを迎えるころ、中須賀まで2秒以上もリード! このまま決まるか、と思われたものの、多重クラッシュでセーフティカーが介入、各マシンの差がほぼゼロになってからの再スタートで、中須賀が転倒して終了。岡本は、レース1に続いて水野に、さらに今シーズン初めて野左根航汰に先行を許しての3位で、中須賀との決着をつけたのでした。
「チャンピオンを決めたというより、3位に終わってしまった悔しさの方が大きいです。それでも、1年を通してレベルの高い戦いができて、自分でもひとつ階段を昇れた、レベルアップできたシーズンになりました。中須賀さんが走っている時にチャンピオンを獲れたというのがうれしいです」

画像: 全戦表彰台で4勝を挙げてのチャンピオン!先輩も黒船も蹴散らした岡本

全戦表彰台で4勝を挙げてのチャンピオン!先輩も黒船も蹴散らした岡本

そして、冒頭のコメントに続くのです。ちょっと長かったかな、すいません。
――ワークスチーム3年目でチャンピオンだね。
「正直、1年目から結果を求められる環境で走って、楽しかったけど、1年目の途中でケガして後半ろくに走れなかったり、苦しい思いもたくさんありました。いろんな経験もさせてもらって、チームの皆さんに本当に感謝しています」
――普段、中須賀選手が『オレから盗めるものは何でも盗んでよし』って言ってるよね。
「先輩、チームメイトの中須賀さんに、たくさん教えてもらいながら、中須賀さんのおかげでここまで走れるようになったと思います。これからも、中須賀さんの教えに恥じないように、どこを走っていても、日本の最高峰クラスのチャンピオンの名に恥じない走りをしなきゃ」
――今シーズンのターニングポイントは?
「オートポリスのレースだと思います。その前の菅生は、得意なコースというのが上手くいった原因で、オートポリスは中須賀さんも得意なコース、去年や一昨年みたいに、引き離されたり、真後ろで負けたりというレースにならずに、力で勝てた。それが自信になったし、苦手意識のあった次の岡山でも勝てた原因だと思います」
――今年は自分でも「成長できた」って言ってたけど?
「3年目、マシンに慣れたし、チームとのコミュニケーションもうまくいくようになった。セッションをはじめ、事前テストも含めて、初日からトップで行こう、ってことを意識して、それも何度か上手くいったシーズンでした」
――走りの面でも何か変わった?
「ずっと課題だったブレーキングも、中須賀さんにはかなわないけど、なんとか勝負できるところくらいまでは行くことができたかな、と思います。走る度、テストコースを走る時でも、自分で考えて、重点的に練習してきたかんじです。タイヤのマネジメントに関しても、タイヤが消耗してからの中須賀さんの走りってすごくて、最後の最後でもベストタイムに近い走りをしてくる。それが自分が持っていなかったレース終盤のあの強さなんだと思います」
――そういうところも、先輩の教え?
「わからないところはお互いに聞き合ったり、言葉ではわからないところも、走行データも共有しているから、お互いがどんなセットで、どんなMAPで走っているかがわかるんです。中須賀さんって、ほとんど電子制御を介入させていなくて、自分でコントローるしているところがあって、自分は去年まで、パワーを落として、できるだけスライドさせないように、電気でコントロールしながら走ってたのを、中須賀さんと同じとまではいかないけど、介入を少なめにして、自分の手でコントロールするように、少しできるようになったんです」
――そうやって結果が出はじめた、ということ?
「最終戦も、セッションごとに制御の介入を弱めていって、うまくタイヤのマネジメントもできるようになったし、レースペースもいいアベレージを刻めるようになった。そういう細かい積み重ねを、シーズンを通してできました」
――チャンピオンを獲った実感は?
「シーズンを通してチャンピオンではあるけど、今はまだ最終戦の2レースを水野君に勝たせてしまったのが悔しいです。とはいえ、徐々に実感するのかな、レース2のあとは、自分バーンナウトもできないし(笑)、あれやったことないから、制御のスイッチ切らなきゃいけないんです。それもやり方を知らない(笑)。でも最後は中須賀さんと一緒にチェッカーを受けたかった。中須賀さんがいる時代に、一緒に走れてよかったです。それがあったから、ここまで走れるようになった。今シーズン、楽しい1年でした」

画像: レースベース車も開発されているYZF-R9 岡本の世界進出は若手ライダーの刺激にもなっている

レースベース車も開発されているYZF-R9 岡本の世界進出は若手ライダーの刺激にもなっている

MFJグランプリの週末、鈴鹿サーキットでは、ニューモデルYZF-R9が本邦初公開されました。このR9、25年からWorldSSP600(スーパースポーツ世界選手権)に参戦できるマシンということで、ヤマハの25年レース体制も気になるところでしたが!
MFJグランプリ終了からすぐ、11/5にヤマハから正式に発表されました。岡本裕生、2025年からWorldSSP600にフル参戦を開始します! 日本でチャンピオンを獲って世界の舞台に飛び出していくという、実に好ましいパターンです! 岡本の前には、野左根航汰も全日本選手権でチャンピオンを獲得し、WSBK(スーパーバイク世界選手権)からMoto2に参戦を開始しましたよね。今回の岡本の場合は、いきなり世界最高峰のスーパバイクではなく、まずスーパースポーツに参戦ということで、初めての海外レース、初めて続きのコース、初めてのマシン、初めてのタイヤに慣れるという意味で、いいステップを踏める世界デビューになるんじゃないでしょうか。

以下は、岡本裕生のヤマハから出された正式コメントです。
「今年、全日本選手権の最高峰JSB1000でのチャンピオン獲得という一つの目標を達成しました。そして次の目標であった世界選手権への挑戦がついに実現します。僕が参戦するのはスーパースポーツ世界選手権ですが、僕自身、WorldSSPを最終の目的地とは思っていません。YAMAHA FCTORY RACING TEAMの皆さん、中須賀選手、吉川監督から“ここからがスタート、頑張れよ!”と送り出されたとおり、ここで世界の厳しさを味わい乗り越えて、次のステージへと進んでいきたいと考えています。 また来年はYZF-R9での参戦となります。僕と同じくデビューとなるR9と共に新天地でライバルたちと戦うのが楽しみです。
最後に、今回のチャンスをくれたヤマハ発動機、ここまでサポートしてくれた家族、スポンサーやファン、すべての方に心から感謝します。そしてこれからも引き続き応援をよろしくお願いします。力の限り頑張ってきます!」

画像: 1999年生まれ、25歳の日本チャンピオン 世界へ出るには早くはないが遅くもない! WorldSSP600を卒業して、狙うはWSBKかMoto2かそれとも……

1999年生まれ、25歳の日本チャンピオン 世界へ出るには早くはないが遅くもない! WorldSSP600を卒業して、狙うはWSBKかMoto2かそれとも……

11月初旬にはイタリアへ渡ってチームと初顔合わせ、上手くいけばマシンテストもしているかもしれない岡本。時間ができたら、岡本を捕まえて世界の舞台に臨むインタビューでもたいですね。
2025年はMotoGPもMoto2もMoto3も、そしてWSBKだけじゃなくてWSSP600にも大注目!しましょう!

写真提供/ヤマハ 写真・文責/中村浩史

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