文:北岡博樹/写真:岩瀬孝昌
カワサキがレースで培った技術のフィードバック
【後編】の最後でお伝えしたZX-4RRに感じた『全能感』のこと。実は私(北岡)は、その感覚を知っていました。
数年前に乗った『ZX-10R SE』にも同じ感覚があったんです。昔のことにも関わらず記憶は鮮明に残っていて……今回のZX-4RRはそれにかなり近い。
というか『排気量が400ccになったZX-10R』みたいな感触なんです。車体から感じるフィーリングはまさにカワサキのスーパースポーツそのものでした。
しかもZX-4RRはエンジン回転数が上がれば上がるほどに、パワーが底なしで湧いてくる!?
走らせている間は『これって無限に加速していくのでは?』 なんて思っていました。
だがしかしっ!!!
ここまではギア2速での様子見の話……バイクに身体が馴染んで、タイヤも温まってきて。
先の高速道路で感じた性能により一抹の不安感は残っていたけれど、意を決してギアを1速に!
一気に、化けた!?
ギア1速で扱うZX-4RRの加速感は正直に言って、大型バイク乗りでもドン引きのレベルです。
でもギリギリ……開けていける! 優秀な車体に支えられてるから自信が持てる!
すさまじいスーパースポーツ感……ZX-4RRのブレーキやフレーム、前後サスペンションがもたらす安心感は峠レベルのペースでは一切揺るぎません。
でもそれじゃない。本当にスゴいのは……
アクセル全閉から1mm開けたときの加速のスムーズさ、そしてアクセル全閉の瞬間の車体の落ち着き感、です。いきなり自分のライディングスキルが上がったのでは? と思えるほどに自在にパワーの管理ができる……加速・減速のつながりがこんなにシームレスだなんて!?
個人的な感想ですが『ZX-4RRの最大の武器』はたぶんココだろうと感じています。
そしてもうひとつ!
その強烈な加速にも関わらず、イメージした走行ラインを自在に選択できること。その自由度の高さがありえないレベルです。
実はこの日は秋らしく落ち葉が多く、走行ラインに選択肢がほとんどありませんでした。でもその狭いラインに、針の穴を通すがごとくバイクをのせていける!?
ローギア1速にも関わらずアクセルオン/オフで姿勢が乱れない……恐ろしいほどに繊細で、同時に大胆です。ノーマル状態だとフロントが少し柔らかめなので、もっとガックンガックンとピッチングするかと思ったけど、それもぜんぜん許容範囲!
この繊細さは以前に乗ったZX-10R(2019)で感じたものと同じでした。カワサキが市販車レースの最高峰WSBK(ワールドスーパーバイク)で培った技術のフィードバック。それがZX-4RRの中にも確実に感じられる!?
スペックだけを見ていると重量や最高出力などに目がいきがちだと思いますが、ZX-4RRの真髄はたぶんそこじゃない。
ライダーが乗って、実際に操るときの『扱いやすさ』を極めようとしている。そう感じる走りでした。
ひと通り走って、ひと休み。
エンジン停止と共に『はぁ~~~っ』と声が漏れました。速さうんぬんの前に……
めちゃくちゃ……楽しかった!
そして……けっこう疲れたっ!(笑)
走ることに全集中していたので疲労感は感じていませんでしたが、バイクから降りてみたらヤバかったです……
ここまで集中して走ったのは久しぶりかもしれません。夢中だったと言い換えてもいい。ZX-4RRとこのバイクを生み出したカワサキ開発陣に対し、敬意を払いたくなるほどに感服しました。
言ってはなんですが、これはもう反則レベルです……もしバイク仲間と一緒にワインディングを走るようなシーンがあったら(自分ではそのつもりが無くても)ワインディングで仲間が軽く引くことは間違いありません。
そして排気量こそ400ccですが、ZX-4RRの性能は公道ですべてを解放できる領域にありません。でも公道において『バイクでスポーツする』ことを目いっぱい“楽しませてくれるバイク”だということもまた事実です。
スゴい。
これはちょっと……格が違う。
世の中には「よく出来てるナァ」とか「良いバイクだなぁ」をいう感覚を飛び越えて『乗って感動するバイク』というものが少数ですが存在します。カワサキ『Ninja ZX-4RR』はその1台に数えてもいい突き抜けたバイクだと思う。
紛れもなく、本物。
さすがカワサキ。他とは違う。400クラスで……ここまでやるかっ!?