文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事はウェブサイト「ロレンス」で2024年11月11日に公開されたものを一部編集し転載しています。
自動車や船舶の分野では、すでに採用されている電動過給機
なぜ3気筒なのか・・・同様に、気になるのがなぜV3なのか・・・です。ターボの場合、効率を最大化するためにはターボユニットを排気ポートにできるだけ近付けるのがセオリーであり、その点ではV型3気筒よりも並列3気筒の方が有利です。
ホンダが採用したのはターボではなく、レイアウトの自由度が高い電動過給機であることがこの疑問に対するひとつの回答でしょう。電動過給機はターボと異なり、エンジン回転数と関係なく最適なブーストを常時得ることができます。電動モーターのトルクは立ち上がりが早く、コンピュータにより細やかな制御が可能です。アイドリング領域からレブリミットまで、ブーストをきっちり管理できるのが電動過給機のメリットです。
4輪F1のハイブリッドターボや、船舶用2ストロークディーゼルエンジンなどで、電動過給機はすでに実用化されています。またホンダも2014年の米パイクスピーク用NSXに、仏ヴァレオ製の電動過給機を採用していたりします。
抵抗と電流に比例する電気加熱から回路を保護するため、ホンダの電気過給機付きV3はモーター駆動に48Vシステムを採用していると思われます。モーターの種類はおそらくSRM(スイッチド リラクタンス モーター)でしょう。巻線や永久磁石を使わず、高回転・高出力が狙いやすいのがSRMの特徴です。
あれこれ良いことが多いのは確かですが、一方で電動過給機の欠点とは?
三菱系のMHIET(三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社)が開発した48V電動過給機は、モーター最大出力は5kWで停止から最高回転数の90%までの応答時間は0.3秒と説明されています(Mitsubishi Heavy Industries Technical Review Vol. 56 No. 2 (July 2019)より)。また定格出力の3kWに抑えることで、連続運転が可能となります。
ホンダの電動過給機付きV3の場合は4輪用エンジンよりも排気量が少ないので、過給機ユニットはより小さいものでまかなえます。出力は3〜5kWも必要はないでしょうから、ホンダのゴールドウイングのACG(オルタネーター)出力、1,550Wくらいで事足りる設計になっているのではないでしょうか?
電動に限らず、過給機を付けることで生じるデメリットもあります。高ブースト圧から燃焼室を守るため、一般に過給機に組み合わせるエンジンはNAより低圧縮設定を採用します。ただ低圧縮は燃料消費量増加や、低中速域のトルクが弱くなることに結びつくこともあります。ヴァレオは電動過給機と回生ブレーキシステムの組み合わせで、燃費を20%向上させることができると主張していますが、ホンダの電動過給機付きV3は複雑化を嫌ってか、回生ブレーキシステムは採用していないようです。ホンダの電動過給機付きV3がどのような圧縮比設定なのかはわかりませんが、燃費や性能のバランスをとった設定になっているのでしょう。
電動過給機のコストは現時点ではターボより少し高価で、重量もわずかに重いです。ホンダの電動過給機付きV3が市販されたとき、価格増にどれだけ影響されることになるのかはわかりませんが、重量については4輪乗用自動車用電動過給機が大体10kg増くらいであることを考えると、10kg増以下に抑えられると思われます。
ホンダだけではなく、ライバルメーカーも過給機付きモデルを研究中です
2013年の東京モーターショーにスズキが出展した「リカージョン」をご記憶の方は多いでしょう。リカージョンは588ccの並列2気筒にインタークーラー付きターボを組み合わせ、ビッグバイクの走りとミドルバイクの扱いやすさの両立を狙った意欲作でした。
2015年の東京モーターショーでも、スズキはリカージョン用からちょっと排気量を上げた700cc版ターボエンジンのXE7を公開しました。そして特許公開情報により、ヤマハは2019年にターボ付き並列2気筒エンジン、そして2020年にターボ付き並列3気筒エンジンを搭載したモデルをそれぞれ開発中であることが明らかになっています。
すでにスーパーチャージャー付きモデルを市販しているカワサキを含め、国内4メーカーが過給機付きモデルを現在研究しているわけですが、はたして1980年代の量産ターボ車ブーム期以来の過給機ブームが近々訪れるのでしょうか?
ホンダ、ヤマハ、スズキが過給機に注目している理由は、前述のとおりUHC排出削減などエミッション対策とコスト削減のため2〜3気筒を使いつつ、リッターバイク並みの動力性能を有するモデルを作れる環境が技術的に整いつつあるからでしょう。
電動過給機付きV型3気筒エンジンは、内燃機関領域での新たなチャレンジとして位置づけ、モーターサイクルを操る楽しさ、所有する喜びをより一層体感いただくことを目指しています。今後、HondaのFUNモデルへの適用を予定しており、量産化に向け、引き続き開発を行ってまいります。
電動過給機付きV3発表のリリースを、ホンダは上記の文で結んでいます。リッター級より小さいエンジンを使うことで、軽量かつリッターモデル並みに高出力という、新しいスポーツバイク像を生み出せるポテンシャルを過給機付きモデルは有しているといえます。その市販化の日がいつ訪れるのかは定かではありませんが、その日が来ることを信じつつ、その日の訪れを楽しみに待ちたいですね。
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
参考文献
Electric Supercharging Technology for Automobiles Mitsubishi Heavy Industries Technical Review Vol. 56 No. 2 (July 2019)
Why did Honda Electric-Supercharge its V3 Concept? Cycle World November 8, 2024.)
Valeo Launching Two Electric Superchargers WARDS 100 June 26,2014
Gas Flows Through the Inter-Ring Crevice and Their Influence on UHC Emissions 1999-01-1533 SAE INTERNATIONAL
電気自動車の普及とともにモータも進化。SRモータ・PMモータの性能向上に関する研究――明治大学 アドバンスト機器制御研究室 fabcross for エンジニア 2019-4-18
「送り込むのは空気か、欲か。」伝説の絶版車 過給機&ロータリーPower ヤエスメディアムック916号