文:宮崎敬一郎、オートバイ編集部/写真:南 孝幸
カワサキ「メグロ K3」インプレ(宮崎敬一郎)
往年のバイクが持つ艶を現代に伝える貴重な1台
「メグロ」はカワサキが1964年に吸収合併した中~大型バイクを得意とする二輪メーカー。そのメグロにパワフル、快速を誇った高級車「スタミナK」というバーチカルツインモデルがあった…。W800シリーズがリスペクトするカワサキW1~W3(650RS)の原型モデルだ。
このK3はそんなW系の始祖をオマージュして誕生したモデル。ベースはW800で、その外観や排気音など、感覚性能に関わるパートを変更。元からクラシカルなW800に徹底して時代の深みを加味している。
メグロK3は2021年に登場し、この2025モデルで小さなマイナーチェンジを受けた。一番の変更はカラーリング。タンクには手間のかかる銀鏡塗装をベースに、かつてのメグロ「SG」のような塗り分けを施している。ホイールリムはブラックコートされ、上質な装いに磨きがかかっている。それは何もかもを鉄かアルミで成型していた時代の「バイクの色気」と言ってもいい。
パワーユニットはW800と共通で、力量は変わらない。低中域にしっかりとしたトルクがあって常用域から非常に扱いやすいが、従来のK3より排気音に張りが出たように感じる。2500~4000回転手前あたりまでが面白く、エンジン負荷に応じて表情を変えながら強い音圧で応えるのだ。下ではドパパっ、回せばダウーンっと吠える。
100km/hは5速で約3500回転。このあたりでも古いバーチカルツインの味が濃厚。まるで、タイムスリップしてきたバイクのようだ。120km/hだと4200回転。このあたりになるとパルスも振動もなくなって滑るように走る。
この速度レンジ以上になると、大きなアップハンドルの影響で大型車の巻き込み風などで車体が煽られる傾向にある。もちろん、安定性などには全く問題ない。街中やツーリングで快適なアップライトなハンドル、ライポジが風に煽られやすい、ということ。エンジン同様、軽い節度のフロントまわりと大型アップとの相性は常用速度レンジで光るのだ。
許容リーンアングルなどは深くないので、美しいサイレンサーやフレームと相談しながらになるが、スポーティな走りも身軽にこなす。車体自体の剛性バランスもよく吟味されていて、タイヤやサスのポテンシャルを使い切るくらいでは音を上げない。それにシングルローターながらフロントブレーキもよく効く。実は案外機敏に走れるバイクでもある。
メグロK3は美しいバイクだ。そのシルエットには、古き佳き時代のバイクが醸し出す色気がムンムンしている。過度な演出はないし、強引な妥協もない姿だ。それに、のんびりと、時には勇ましく「時」に浸れる走りの演出付きだ。
それでいて現代のバイクらしく、クオリティの高い走行性能を持っていて、元気もあるし、扱いやすさもある。永く作り、永く乗って欲しいバイクだ。