2025年1月6日、中国の大手2輪EVメーカーのYadea(ヤディア)は、ナトリウムイオン電池を採用した最新モデルを杭州のイベントで披露しました。近年EV業界で話題となっているナトリウムイオン電池ですが、現在EVの動力源などで主流のリチウムイオン電池と比較して、現時点で何が優れていて何が劣っているのか、みなさんはご存知でしょうか?
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事はウェブサイト「ロレンス」で2025年2月6日に公開されたものを一部編集し転載しています。

電池大手のCATLや、EV大手のBYDも開発を進めているナトリウムイオン電池

中国のCATL(寧徳時代新能源科技)が2021年に、EV用としてナトリウムイオン電池の将来性の高さについて公表したことは、当時EV業界に大反響を巻き起こしました。また2023年に、中国のBYDがナトリウムイオン電池工場建設に約14億ドルもの巨額投資したことも、ナトリウムイオン電池の業界の注目度を大いに引き上げる効果を発揮しました。

いずれも近年の話題のため、ナトリウムイオン電池は最近生まれた技術・・・と思う方もいるかもしれません。しかし、その開発は半世紀ほど前の1970年代から始まっており、決して真新しい技術というものではありません。ただし近年の「再注目」まで、リチウムイオン電池が1990年代から急速に発展・普及したため、その間は研究者たちの関心がナトリウムイオン電池から著しく減少したという現実があります。

画像: ヤディアが採用するナトリウムイオン電池は145Wh/kgのエネルギー密度を持ち、室温で最大1,500回のサイクル寿命を有しています。なおマイナス20℃で92%以上という優れた放電保持率により、寒冷地での使用にも適しているのも特徴です。 yadea.com

ヤディアが採用するナトリウムイオン電池は145Wh/kgのエネルギー密度を持ち、室温で最大1,500回のサイクル寿命を有しています。なおマイナス20℃で92%以上という優れた放電保持率により、寒冷地での使用にも適しているのも特徴です。

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元素周期表を見ると、リチウムは2周期・1族、ナトリウムは3周期・1族にあります。つまり表ではリチウムはナトリウムの真上にある同族の元素(1族元素)で、1価の陽イオンになりやすいなど科学的な性質が似ています。正極と負極の間にある電解液の中で、イオンが行き来するのが充放電できるリチウムイオン電池と、ナトリウムイオン電池の仕組みです。

リチウムイオン電池が初めて商品化されたのは1991年のことで、手掛けたのは日本のソニーでした。その後今日に至るまで、携帯電話やノートパソコン、充電式家電、そしてEVと、リチウムイオン電池がさまざまな製品用に普及していったことは多くの人の知るところです。全金属で最も低密度のリチウムは非常に軽い一方で、リチウムイオン電池にしたときに高いエネルギー密度を有することができます。つまり小型化と高性能化のしやすさという点で、リチウムイオン電池はナトリウムイオン電池より優れています。

豊富に存在する資源という点が、ナトリウムの最大の魅力!?

近年ナトリウムイオン電池が再注目されている最大の理由は、リチウムが希少資源であることに由来する将来の供給体制への不安です。2050カーボンニュートラルに向けて、近年のEV普及とともにリチウムイオン電池の需要は急増していますが、リチウムの生産はオーストラリア、チリ、中国、アルゼンチンの4カ国に集中しています。

2022年時点のデータですが、埋蔵量を生産量で割って計算したリチウムの採掘可能年数は世界全体で約200年となり、リチウムが今世紀中に枯渇するこということはなさそうです。しかし上掲の4カ国にサプライチェーンが偏っているリチウムは供給が不安定化しやすい資源で、世界政治の情勢変化次第によってはEV需要増に応えるだけの量の、リチウムの調達が困難になるおそれがあります。またリチウムは生産過程で大量の水を消費し、精製過程で生じる硫酸ナトリウムなどの副産物が水質・土壌汚染をするという、生産に伴う環境問題の深刻化が懸念される資源でもあります。

一方ナトリウムは海水中など、地球上で6番目に豊富に存在する元素です。またリチウムイオン電池のようにコバルトなどの希少資源を使わなくても作れるのも、ナトリウムイオン電池の特徴です。

まず枯渇することのない豊富なナトリウムを原材料にできることは、すなわちリチウムイオン電池に比べると製造の低コスト化も容易で、そのことはナトリウムイオン電池の大きなアドバンテージといえます。多くの資源を輸入に頼っている日本にとって、ナトリウムという比較的調達しやすい資源を電池材料に使えるという点は非常にありがたいことです。

画像: ナトリウムは単体ではなく、ナトリウムイオン(Na+)や、塩などの化合物のかたちで地球上に存在しています。ダウンズ法という電気分解プロセスによって、塩化ナトリウム(NaCl)から単体のナトリウムを生産することができます。 ja.wikipedia.org.jpg)

ナトリウムは単体ではなく、ナトリウムイオン(Na+)や、塩などの化合物のかたちで地球上に存在しています。ダウンズ法という電気分解プロセスによって、塩化ナトリウム(NaCl)から単体のナトリウムを生産することができます。

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2輪EV用として、ナトリウムイオン電池は将来有望なのでしょうか?

資源としてナトリウムが豊富にあること・・・のほか、リチウムイオン電池に対するナトリウムイオン電池のアドバンテージとしては急速充電の速さや使用温度範囲の幅広さなどがあります。

ヤディアが発表したナトリウムイオン電池は、わずか15分で80%充電が可能と説明されています。これら数値は過去にCATLが公表した同社製ナトリウムイオン電池と同等ですが、つまり一般的なリチウムイオン電池よりもはるかに急速充電ができるわけです。

またヤディアのナトリウムイオン電池は、マイナス20℃で92%以上の放電保持率があると公表されていますが、マイナス20℃から90℃という使用温度範囲の幅広さもナトリウムイオン電池の長所といえます。寒冷地において電池は、電解液の粘度増加による反応速度低下で抵抗値が上がるため、電池出力が低下してしまいます。その点でナトリウムイオン電池は、寒冷地での使用にも適しているといえます。

画像: ナトリウムイオン電池とリチウムイオン電池のメカニズムは似ているので、既存のリチウムイオン電池製造設備を、ナトリウムイオン電池製造に転用することは比較的容易です。リチウム同様ナトリウムは発火性や爆発性があるため、製品化には適切な安全対策が必要になることは変わりありません。 yadea.com

ナトリウムイオン電池とリチウムイオン電池のメカニズムは似ているので、既存のリチウムイオン電池製造設備を、ナトリウムイオン電池製造に転用することは比較的容易です。リチウム同様ナトリウムは発火性や爆発性があるため、製品化には適切な安全対策が必要になることは変わりありません。

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リチウムイオン電池に対してエネルギー密度が低いことと、重たくなってしまうことがナトリウムイオン電池の劣るところですが、電池のエネルギー密度は電極の性能にも大きく依存するので、今後高性能な電極などの開発が進むことで、性能についてはリチウムイオン電池との差を縮めていくことが期待できます。

リチウムに対してナトリウムの原子量は約3倍大きいゆえに、絶対的な重さの違いはいかんともし難いです。そのため、ドローンや携帯端末用などにはリチウムイオン電池が使われ続けていくことになるでしょう。一方、再生可能エネルギーと組み合わせるESS(電力貯蔵システム)など据え置きのものや、4輪EVなど重量の制約が少ないものには、価格の優位さから今後の採用例が増加していくことが予想されます。

画像: ヤディアが1月に発表した、ナトリウムイオン電池採用電動スクーターと、バッテリーパック。交換ステーションで使えるようなデザインのバッテリーパックですが、一方で電動スクーターはプラグイン充電が可能なことがわかります。ナトリウムイオン電池の急速充電の速さを活かすなら、プラグイン充電での運用がベストに思えますね・・・。 yadea.com

ヤディアが1月に発表した、ナトリウムイオン電池採用電動スクーターと、バッテリーパック。交換ステーションで使えるようなデザインのバッテリーパックですが、一方で電動スクーターはプラグイン充電が可能なことがわかります。ナトリウムイオン電池の急速充電の速さを活かすなら、プラグイン充電での運用がベストに思えますね・・・。

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4輪EVに比べると車体サイズの小ささから、重量の制約がかなりあるといえる2輪EVには、ナトリウムイオン電池はリチウムイオン電池より適している・・・といえるのでしょうか? 軽さと動力性能最優先の高性能スポーツ2輪EVの場合は、やはりリチウムイオン電池の方が適しているでしょう。

一方、コミューター的使い方をする街乗りメインの2輪EVの場合は、公共充電インフラの充実が大前提ではありますが、急速充電の速さからナトリウムイオン電池採用モデルが発展する可能性は大いにあるといえるのでは? 諸外国に多い家庭用コンセント200V以上であれば、出先で気軽に15分急速充電!! みたいな使い方ができそうに思えます。

昨年末にヤディアは、世界での2輪EV販売台数1億台突破という偉業を達成しています。これくらい2輪EVに力を入れているメーカーとしては、製造コストをリチウムイオン電池採用車より下げられるナトリウムイオン電池採用車生産に取り組むことで、得られるスケールメリットは非常に大きいでしょう。今後ヤディアに続き、ナトリウムイオン電池を採用する2輪メーカーが登場するのか? 注目したいですね。

文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)

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