最新のスーパースポーツなどに採用される「IMU」とはどんな機能を持つのか?また、コーナリング中のブレーキ制御に加え、軽量コンパクト化も進むABSの世界も技術進化が著しい。そんな最新技術について詳しく知りたい! ということで「IMU」や「ABS」を開発・製造しグローバル展開する「Bosch」に聞いてみました。

万が一「ABS」が故障したらどうなってしまうの?

最新モデルの解説で当たり前のように出てくる「電子制御」というワード。だが、なにをどう制御しているのかは判りづらい。

ABSは過剰なブレーキ入力によるタイヤのスリップ(ロック)を検出するとブレーキキャリパーに掛かっている油圧を抜いてグリップを回復させる装置。ホイールに取り付けられたセンサーが回転速度を監視し、スリップによって前後タイヤの回転速度に差が生じると油圧制御ユニットが作動する。

この回転差の検出を応用して後輪のスピンを検出すると点火カットによってグリップを回復させるのが初期のトラクションコントロールだ。だが、前後輪の回転速度差のみに頼ったシステムではコーナーの立ち上がり加速で後輪をスピンさせたり、ブレーキで後輪をスライドさせて素早く旋回姿勢に持ち込むなどのライダーの意図的な操作を妨げることがある。

画像: 万が一「ABS」が故障したらどうなってしまうの?

そんな中でもABSに関しては、万が一にでもトラブルが発生したら大変である。それについて伺ったところ「故障した場合、普通のブレーキに戻ることが大事なこと。ABSで恐れているのは故障してノーブレーキになること。

ですから、故障時は普通のベースブレーキに戻ることが全ての基本になっています」とのこと。また、ABSを効かせるかどうかを判断する「スリット」と「センサー」に関しては、特別なメンテナンス不要で、逆に一般の方は「触らない方が良い」そうだ。ただ、一般的なメンテナンス(ブレーキ液の交換など)は必要である。

また、欧米や日本、インドや台湾などでは2020年までにABSが義務付けになる予定だが、ボッシュでは新興成長市場向けに、新製品を開発したという。それがかつてない軽量コンパクト化を実現した「ABS10」である。

20年前に誕生したボッシュの油圧制御ユニットが約4・5㎏だったのに対し、最新型の最も軽量なタイプは450gにまで軽量化されているというのだから驚きだ。バイクのスペック表を見ていると、スタンダード仕様とABS仕様で車両重量が大きく違うが、その理由ともいうべきABSユニットの軽量化は歓迎すべき進化である。

画像: ブレーキ操作によってタイヤがロックすると、車体制御が困難となり、転倒に直結することも。そのロック状態を解除してくれるのがバイク用ABSの役割。より安全な走行を実現するための装備なのだ。上の写真はABS油圧コントロールユニットで、上部に穴が4つ空いているのが2回路(前後)仕様の証。1回路用のユニットは穴2つ。

ブレーキ操作によってタイヤがロックすると、車体制御が困難となり、転倒に直結することも。そのロック状態を解除してくれるのがバイク用ABSの役割。より安全な走行を実現するための装備なのだ。上の写真はABS油圧コントロールユニットで、上部に穴が4つ空いているのが2回路(前後)仕様の証。1回路用のユニットは穴2つ。

画像: ボッシュが作り上げてきたバイク用ABSの数々。同社が初めて日本市場に投入したのは、カワサキGPZ1100用だった。

ボッシュが作り上げてきたバイク用ABSの数々。同社が初めて日本市場に投入したのは、カワサキGPZ1100用だった。

結局IMU(慣性計測センサーユニット)って一体何をしてくれるの? そして電子制御の今後は?

そして、最新スポーツモデルへの採用が加速しているのがIMU(イナーシャル・メジャーメント・ユニット)と略される慣性計測装置。物体が回転する速さを測定するもので、オートバイの場合は上下方向の軸を中心とするヨー、左右方向の軸を中心とするピッチ、前後方向の軸を中心とするロールの3つが重要。

具体的な動きに置き換えるなら、ピッチは減速でフロントが、加速でリアが下がる車体姿勢、ロールはバンク角、ヨーは旋回方向にあたる。実際に走っているときはこうした要素が絡み合っていて、減速しながら左コーナーへ進入するときは、ピッチが前方向、ロールとヨーが左方向に増加するし、コーナーを加速しながら立ち上がるときはロールが減少しながらピッチが後ろ方向に増加する。

画像: 最新のスーパースポーツに搭載されているIMU(イナーシャル・メジャーメント・ユニット)と略される慣性計測装置。バイクが上下前後左右に対し、どう動いているかを把握する計測装置である。元々は四輪車用のESC(横滑り防止装置)向けとして開発されたのが最初。あくまで計測装置なので、そのデータをどんな制御に使用するかは、また別の話となる。

最新のスーパースポーツに搭載されているIMU(イナーシャル・メジャーメント・ユニット)と略される慣性計測装置。バイクが上下前後左右に対し、どう動いているかを把握する計測装置である。元々は四輪車用のESC(横滑り防止装置)向けとして開発されたのが最初。あくまで計測装置なので、そのデータをどんな制御に使用するかは、また別の話となる。

つまりIMUが検出したそれぞれの角度の変化速度で、そのオートバイが何をしているのかが判る。これによってコーナリング中のバンク角に応じたABSやトラクションコントロールの効かせ方、ウイリー角度のコントロールが可能となる。走行状況に応じて減衰力を可変させるセミアクティブサスペンションもIMUあってこそのシステムだ。

IMUは最新の装置ではなく、ゲームのコントローラーやスマホにも内蔵されているが、オートバイ用として現在最も優秀とされているのがドイツ・ボッシュ社の製品。11年にデビューしたアプリリアRSV4ファクトリーAPRCに初のオートバイ専用IMUとして搭載され、精度や耐久性、コンパクトさなどが高く評価されてBMWやKTM、ドゥカティといったヨーロッパメーカーをはじめ、日本のメーカーも『MM5・10』という型番のボッシュ製IMUをこぞって採用している。

驚いたのはその小ささと軽さ。手のひらに収まるサイズで重量も僅か40gだから搭載位置の自由度が大きく、振動にも強い。これが毎秒100回という速度で3軸の加速度と2軸のジャイロを測定しているとは思えないほど。

そして、またもや万が一の故障について水を向けると、「センサーの中に自己診断機能がありまして、万が一問題が発生すると情報をECUに送り、インジケーターランプが点灯するようになっています」。

さらにボッシュの開発陣に今後の進化について聞くと、IMUと車輪速センサー、油圧制御ユニット、ECU(エンジンコントロールユニット)が一つのシステムとして進化し、ライダーの操作ミスをフォローしたり、効率的な加減速をアシストしてスポーツライディングのレベルを上げていくことになる。ボッシュでは、それをモーターサイクル用スタビリティコントロール(MSC)と名付け、世界初の二輪車向けオールインワン型安全システムとして熟成している。

(2013年に量産。KTM1190アドベンチャー/Rの2014年モデルから採用されている。)個人的にはライダーの操作を電子制御が超えていくことに寂しさも感じるが、オートバイが安全で効率的な乗り物へと進化する宿命を持っている限り、電子制御の進化が止まることはない。となれば豊富な実績と開発能力の高さを持つボッシュが電子制御の世界をリードしていくことも間違いないだろう。

最新技術はこうして生み出される

日本国内でも開発は行なわれており、日々新しい技術への挑戦は続いている。ABSが、IMUが、そして世界初の二輪車向け「オールインワン」型安全システム「MSC」が熟成されているのだ。

画像1: 最新技術はこうして生み出される
画像2: 最新技術はこうして生み出される
画像: 国内では栃木などにテストコースを完備しており、日々実走テストも行われている。写真はそんな開発風景のひとコマで、転倒防止用のガードが取り付けられていることに注目。

国内では栃木などにテストコースを完備しており、日々実走テストも行われている。写真はそんな開発風景のひとコマで、転倒防止用のガードが取り付けられていることに注目。

画像: 今回はボッシュで二輪パーツの技術開発に携わる岩月氏(左)と、由類江氏(右)にお話を伺った。

今回はボッシュで二輪パーツの技術開発に携わる岩月氏(左)と、由類江氏(右)にお話を伺った。

取材協力:Bosch

ボッシュがバイク用ABSの開発を開始したのは1984年のこと。2013年には累計100万台を超えるバイク用ABSを製造・販売している。現在はライディングをサポートするシステムや、パワー制御などのほかに、「ネットワーク化システム」の開発にも注力しているとのこと。

画像: 2015年には二輪車向け事業を独立させた事業部門モーターサイクル&パワースポーツを新設し、本部を横浜に設置。今回お邪魔したのもコチラです。

2015年には二輪車向け事業を独立させた事業部門モーターサイクル&パワースポーツを新設し、本部を横浜に設置。今回お邪魔したのもコチラです。

写真/南 孝幸・Bosch 文/太田安治、編集部・福田

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