(レポート:オートバイ編集部 松本正雅)
勝利への飽くなき追求が生み出した最高のCBR
石川 譲 氏
本田技研工業株式会社
二輪事業本部 ものづくりセンター
完成車開発部 完成車統括課
課長 技師
CBRが、これまでの「RR」にもうひとつ「R」を加えたのは、主たる活躍のステージがサーキットに移ったことを示している。プロジェクトリーダーの石川さんは語る。
「ファイアーブレードは当初はワインディングで楽しいスポーツバイク、というコンセプトでしたが、マシンが高性能化していくにともなって、サーキットに持ち込まれる方や、レースを楽しむ方が増えました。当然、私たちとしては、ホンダでたくさん勝っていただきたいわけです。とりわけ、このクラスはベースのポテンシャルがモノを言う世界なので、レースで勝つためのマシンとして、最高の性能を追求しました」
新型で目を惹くのは、やはり217.6PSという驚異のパワー。この数値はどのようにして決められたのだろうか。
「ライバル車も同時に進化しているので、勝つためにはその一歩先を行く必要があります。パワーアップの追求は、実は発表直前まで延々と作業を重ねていました」
こうして生まれた史上最強のホンダ・インライン4にはMotoGPマシン・RC213Vの技術も惜しみなく投入されている。
「新型のエンジンは、ボア・ストロークをRC213Vと同じ設定にしました。ボア・ストロークがRC213Vと同じなら、MotoGPで培ったテクノロジーをフルに投入できると考えたからです。バルブ挟み角を思い切って立てたところや、ピストンの材質、表面処理の仕方まで同じです。開発者としては『とことんやり切った』という想いです」
ホンダの技術の粋を集めた、宝物のようなエンジン。これに組み合わせるマフラーは、アクラポビッチに白羽の矢が立った。
「アフターメーカーのマフラーを装着して楽しまれる方も多いですが、場合によっては本来の性能をフルに活かせないこともあります。ならば、ということで、実績のあるアクラポビッチさんにお願いしたわけです」
車体面のハイライトでは、ユニットプロリンクをやめるという「英断」も下されている。
「ユニットプロリンクは、その構造上スイングアームが重くなってしまうので、新型はユニットプロリンクの考え方はそのままに、エンジン後部に設置したハンガーにサスペンションをセットする方式としました。これで、通常のフレームであれば必要なクロスパイプも省略することができ、車体をよりしなやかにすることができました。具体的には、コーナーの立ち上がりでのラインの自由度がこれまでとはまるで違っています」
まるでMotoGPマシンのようなダクトウイングの効果も大きいという。
「ダクトウイングにはウイリーを抑えてパワーロスを減らす効果があり、社内テストでは2、3、4速での加速タイムが向上しています。SUGOで伊藤真一さんにも試乗していただきましたが『ホームストレートでウイリーしない』※と褒めていただきました」
※スポーツランドSUGOのホームストレートは坂の頂上にあるため、途中から下っていて、加速中にフロントがリフトして減速してしまうため、通常であればラインを慎重に選ぶ必要がある。
勝利への飽くなきこだわりが生んだ新型ファイアーブレードが、いよいよ走り出す。
「走りのステージがサーキットに変わっても、代々受け継いできた『トータルコントロール』の思想は同じです。ぜひ楽しんで下さい」
レポート:オートバイ編集部 松本正雅