2020鈴鹿8耐はもう始まっている
開催されるはずだった東京オリンピックの影響で、今年は例年の7月最終週ではなく7月19日に決勝レースを行なう鈴鹿8時間耐久ロードレース。
例年ならば、全日本選手権を通して鈴鹿8耐への準備を進めて――って段階ですが、新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から、全日本ロードレースはいまだ開幕できず。サーキットも閉鎖されているケースが多く、テストすら満足にできない状況で、今年の8耐どうなっちゃうんだろう……っていうのがファンや関係者、そして何よりチームやライダーの偽らざる心境じゃないでしょうか。
それでも準備は進めていかなきゃいけません。3月末には、昨年度大会の優勝チームであるカワサキが、2年連続でファクトリー体制で参戦する発表をしたばかり。ここのところホンダは体制発表が遅いから、次はヤマハかな、全日本選手権はスルーして、日本のレースは鈴鹿8耐に集中するはずのヨシムラかな、ってワクワクな感じだったのですが、ヤマハから正式発表がありました!
しかし、なんとそれは「ヤマハファクトリーレーシング不参加」という発表だったのです!
以下、ヤマハの発表内容です。
YART Yamaha Official EWC Team (YART) がヤマハトップチームとして参戦します。
世界耐久選手権(EWC)に参戦中の「YART Yamaha Official EWC Team (YART) 」へ全日本ロードレース選手権に参戦予定の野左根航汰選手が加入し、ヤマハトップチームとして参戦します。なお当社は、2015年から「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」で鈴鹿8耐に参戦してきましたが、今シーズンからその活動を休止することとしました。
鈴鹿8耐参戦に向けて、YARTチームは今できる準備を進めていますので、ご声援のほどよろしくお願いいたします。
これはつまり、YART=もともとはヤマハ・オーストリア・レーシング・チームと呼ばれていた、世界耐久のヤマハのトップチームが、そのまま鈴鹿8耐に、ヤマハのトップチームとして参戦するということです。YARTは12月に行なわれたセパン8時間耐久でも優勝していますね。ライダーは野左根航汰/マービン・フリッツ/ニッコロ・カネパの3人。
YARTは、ヤマハファクトリーレーシングが復活参戦する2015年より以前にヤマハのトップチームとして参戦していたことがあり、その頃は日本の絶対王者・中須賀克行がこのチームから出場したこともありました。白いツナギで、モンスターヤマハYARTなんて呼ばれていた頃ですね。
けれど、2015年からはヤマハファクトリーレーシングが復活。中須賀はそのチームのエースとして2018年まで4連覇。2019年こそ、カワサキファクトリーに敗れましたが、最後の最後まで優勝チームがわからない白熱した好勝負でした。
鈴鹿8耐でのヤマハファクトリーチームといえば、近年は世界スーパーバイク選手権のPATAヤマハWSBKオフィシャルチームを母体に、中須賀が合流して最強チームを作り上げるスタイル。2020年は、マイケル・ファン・デル・マークをエースに、アレックス・ロウズがカワサキレーシングチームWSBKに移籍し、かわって昨年はカワサキサテライトチームの在籍して、鈴鹿8耐にもエントリーした(けど決勝レースでは走らず)トプラック・ラズガトリオグルが加入。
となれば、2020年の鈴鹿8耐は中須賀/Vd・マーク/ラズガトリオグルのトリオで鈴鹿8耐に参戦するものだと見られていたのに……。
ヤマハファクトリーレーシング不参加の理由は明らかにされてはいませんが、2015年からの参戦開始と4連覇で、ヤマハとYZF-R1のプロモーションを終了したと考えたとか、不振の続くMotoGPマシンに開発のリソースを集中したいからとか、もちろんこのコロナウィルス蔓延による準備不足も理由のひとつかもしれません。鈴鹿8耐参戦には億単位のコストがかかるのは常識ですから、そこの参戦経費を抑えたかったとしても、それは誰にも責められません。
しかし、全日本ロードレースへは中須賀/野左根の2ライダー体制で参戦予定のヤマハファクトリーレーシングが鈴鹿8耐に参戦しないなんて……。全日本ロードレースは鈴鹿8耐への準備という側面もありますから、それじゃどうして全日本は出て鈴鹿は出ないのさ、なんて声も上がると思います。
2015年から18年まで4年連続優勝、19年大会には懐かしのTECH21カラーも復活させ、まぎれもなくこの数年はヤマハが鈴鹿8耐を盛り上げていた中心的存在でした。それなのに――はレースファンすべての偽らざる心境だと思います。
これで今大会はカワサキvsホンダの対決、いやこういう時こそヨシムラスズキが強いんだ、なんて。ホンダは、まだ体制発表こそしていませんが、今シーズンからニューマシンCBR1000RR-Rを引っ提げてWSBKにワークスチーム参戦しているだけに、現状最強の布陣で鈴鹿8耐に照準を絞ってくるはずです。そのために、というわけではないでしょうが、WSBK専門の開発ライダーとしてステファン・ブラドルを確保したほど。
順当にいけばアルバロ・バウティスタ/レオン・ハスラムのWSBKファクトリーライダーに、ブラドルを組ませてトリオを結成。または今シーズンからWSBKフル参戦を開始した高橋巧もどこかに加わるか、日本人主体の別チームを作って2トップチームで優勝を狙ってくる、なんてこともあるかもしれません。
しかし! 実はヤマハにはウルトラCが残っています。今のところ、YARTをトップチームに8耐に参戦、と発表したヤマハですが、実はセパン8耐にもうひとつ、興味深いチームが参戦していたの、覚えていますか?
それが「ヤマハセパンレーシングチーム」です。これは当初、セパン8耐のために結成されたチームとも言われていて、MotoGPライダーであるフランコ・モルビデリ、WSBKチームのエースであるVd・マーク、そして地元マレーシアの英雄ハフィズ・シャリーンがトリオを結成。波乱のレース展開の中で、見事7位入賞を果たし、2020年への鈴鹿8耐参戦権を獲得していたのでした。しかも、そのゼッケンが「21」でした。まぎれもなくこのゼッケンナンバーは、鈴鹿8耐でのヤマハファクトリーレーシングのものじゃないか!
関係者によると、今のところヤマハファクトリーレーシングの参戦は0%だといいます。けれど、セパンレーシングが獲得した参戦権がありますから、そこにモルビデリ/Vd・マーク、そして地元の英雄、中須賀が合流というドリームプランが残っています。なんとかここに、ヤマハファクトリーチームの夢を残したい! ファンの声でここを動かしたいです!
写真/Yamaha 文責/中村浩史