ターボも6気筒も試した新型ハヤブサ開発秘話
「実はこの10年間、さまざまな形の新型ハヤブサの検討を行っており、試作車まで作って白紙に戻したこともありました。中には、フレームが今のものと変わっていたり、エンジンの排気量が変わっていたり、エンジンの気筒数まで変わっていたこともありました」
そう語るのはアシスタントチーフエンジニアの粕谷さん。新型ハヤブサは、なぜ全面刷新ではなく、従来型を発展させるという道を選んだのか? その裏にはスズキ開発陣の、莫大なトライと苦労があったのである。ここで、公開された開発者インタビュー動画から、新型ハヤブサ開発にまつわるエピソードをいくつかご紹介しよう。
「今回、この仕様にたどり着くまで、何仕様のエンジンを作ったか。排気量の大きいやつとか、過給機がビューンと回るやつとかも実際作ったりしましたし」
とエンジン設計の溝口さんは語る。従来型のエンジンを熟成、という決定が下るまで、さまざまな紆余曲折があったようだ。
「ターボだったり、排気量アップしたモデルだったり、6気筒だったり。たくさんのモデルができては消えてゆく形でここ10年。やっぱり、味的には現行のこのエンジンに勝てるものがなかった」
とテストライダーの中島さんは言う。スズキは次期ハヤブサのエンジンに関して、考えうるすべての選択肢を試していたのだ。溝口さんが続ける。
「変えないっていうこともひとつのアイデンティティなんじゃないのかと。この素性の良さを活かして、このエンジンに勝てるエンジンをこのエンジンで造るんだ、というのが、今回の設計の狙いで、ポイントです」
しかし、ひと口に進化、熟成といっても、その道のりは平たんではなかったようだ。溝口さんはこう語る。
「ピストンもコンロッドも見直しました。クランクシャフトは加工を変えました。もう、何回テストするんだ? って言うぐらい(テストを)やりましたね」
エンジン実験の東郷さんも続ける。
「もともと耐久性にはすごく定評のあるエンジンなんですけれど、今回は徹底的に2代目ハヤブサのエンジンを研究しました。もうボルト1本、Oリング1個まで全て見直しをしまして、お客様が触らないところでエンジンの強度を上げています」
エンジンだけでなく、車体もあらゆる可能性を試していたようだ、車体設計の吉田さんはこう語る。
「これとは全く違う構成のフレームを採用したものもありました。ハヤブサは二輪の世界ではスーパーカーだと思いますし、四輪のスーパーカーにも使われているような展伸材(押し出し、引き抜きなどの加工を施した金属)を採用できていますので、これが一番ベストだと思うものを作ることができました」
コンセプトは継承、エンジンもフレームも発展型。そんな中で、新しいモノを生み出すため、デザインチームも苦闘していた。デザイナーの小川さんが語る。
「膨大な数のトライ&エラーをデザイン的にもいろいろ繰り返しました。初代、2代目のハヤブサが、フラッグシップとして、レジェンドとして、いまあるものが最高だ、という風潮があったのですが、殻を打ち破って全く新しいものにする、という点に関しては気を使いました」
こうして出来上がった新型ハヤブサは、あらゆる面で従来型を超える1台として誕生した。パワースペックこそ変わったが、その速さは失われるどころか、さらに扱いやすく磨かれているようだ。テストライダーの中島さんが再び語る。
「実際、竜洋(テストコース)のストレート、2.5kmを(最終コーナーから)2速で立ち上がって、全開で旧型と新型を比べた場合、ほぼ変わらないんですよ。低速からの加速を比べた場合は新型の方が良くて、6速の低速から同時にスロットルを開けた場合は新型の方がわずかに上回る」
早く日本の道も乗ってみたい新型ハヤブサ。スズキ開発陣の「努力の結晶」を触れる日が待ち遠しい。
「他社製品と比べてどうこう、ではなくて、ハヤブサとしてどうなんだ、ということを考えて造り込んできました」
まとめ:オートバイ編集部