フルモデルチェンジと言うべき大幅刷新を行っていても、エンジン+シャシーの基本構成は不変。そのスペックだけを見ると、冒頭の「フルチェンジ」という言葉に違和感を覚えるライダーもいるだろう。だが、3代目ハヤブサの動力性能とフレンドリーな素性を体験したら、誰もがスズキが目指した方向性に共感するに違いない。
文:中村友彦/写真:渕本智信、富樫秀明

ハヤブサのミッドレンジのパワーは圧巻! のひと言

ああ、これはハヤブサだなあ……。

文字にすると何だかマヌケだけれど、それが3代目ハヤブサで約500kmのツーリングに出かけた、僕の第一印象だった。

まず乗車中の視野とライディングポジションの感触がハヤブサだし、リッタークラスとは一線を画す重厚なフィーリング、ドスの利いた排気音、比類なき高速直進安定性も、紛れもなくハヤブサ。

画像1: ハヤブサのミッドレンジのパワーは圧巻! のひと言

もちろん大前提の印象が共通でも、3代目の乗り味は初代や2代目と同じではなかった。基本構成を2代目から継承しつつも大幅刷新を受けているのだから、それはまあ当然だろうが、緻密な熟成が行われた3代目は、歴代最高の優しさを身に付けていたのである。

その象徴が、先のライポジと低回転域のエンジン特性。上半身の適度な前傾は不変でも、ハンドルグリップの位置が12mmライダー側に移動し、シートが5mm低くなり(乗車時の沈み量が多いためか、数字より低い印象)、ガソリンタンク後端とシート前部がスリムになった3代目は、2代目より明らかにとっつきがいい。そして低回転域のマナーのよさ、右手の操作に対するエンジンの反応の絶妙さは、2008年に登場した2代目とはやっぱり別物で、3代目は最新のインジェクションモデルならではの従順さを獲得しているのだ。

画像2: ハヤブサのミッドレンジのパワーは圧巻! のひと言

さて、フレンドリーな話が先行したけれど、高速道路で感じる速さは依然として健在……と言うより、割り増し(!)だった。数値だけ見れば、3代目の最高出力は2代目より9㎰低い188㎰だが、ドライブモードセレクターを最もヤル気のAに設定した上で、スロットルを大きく開けた際のミッドレンジのパワフルさは、圧巻!のひと言に尽きる。2代目をきっちり凌駕するだけではなく、200㎰オーバーのリッターSS以上と思えるほどで、超高回転&サーキット指向のエンジンとは趣が異なる、熟成が進んだ自然吸気の1339㏄並列4気筒の力量を、改めて思い知ることとなった。

そういったパワフルさを身に付けつつも、100km/h前後での巡航が心地いいことは、既存のハヤブサと同様。もっとも3代目は、スロットルの保持が不要となるクルーズコントロールを装備しているので、初代や2代目以上の余裕を感じながら、まったり巡航が楽しめそうだ。

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峠道と帰路で感じた最先端電子制御の恩恵

画像1: 峠道と帰路で感じた最先端電子制御の恩恵

近年のリッターバイクは、ライダーをサポートする電子制御が当たり前になりつつある。でも自分自身の経験を振り返ってみると、ワインディングロードで電子制御のありがたさをここまで実感したのは、今回が初めてかもしれない。

と言うのも、3代目でスポーツライディングをしていると、初代と2代目でビビリを感じた要素、車格の大きさや車重の重さ、エンジンのパワフルさが、ほとんど気にならないのだ。コーナー進入時は前後連動式で、ABSの作動は至ってナチュラル、そして効率のいいブレーキのおかげで自信を持って減速ができるし、立ち上がりではトラクション/アンチリフトコントロールの制御を信頼して、右手をグイッと捻ることが可能なのだ。さらに3代目はいろいろな意味で無理が利くのである。

画像2: 峠道と帰路で感じた最先端電子制御の恩恵

もっとも既存のハヤブサだって、ワインディングは十分に楽しめた。でも、この3代目を経験してしまうと、初代と2代目でコーナーを攻めるときは、脳内リミッターが早め早めで作動していた気がしてくる。電子制御の導入で抜群の包容力を獲得した3代目は、そんなスポーツライディングが楽しみやすく、ハヤブサの本領が引き出しやすくなっているように思う。

そして包容力と言えばもうひとつ。日没後に走った海沿いのチマチマした道で感じた扱いやすさも、3代目の大きな美点だ。この件に関しても、既存のハヤブサは走行条件が悪化すると、スロットル操作や車体の倒し込みが恐る恐るになりがちで、適度な気遣いを必要とする上、場面によっては“こんなところを走るバイクじゃないよな”と感じることもあったのだけれど、3代目では最も穏やかなCモードを選択すれば、悪条件が苦にならない。今回の試乗は晴天のみだったけれど、おそらくこの特性なら、雨天時でもストレスを感じることなく、淡々と走り続けることができるだろう。

画像3: 峠道と帰路で感じた最先端電子制御の恩恵

そんな調子で、3代目の乗り味にいたく感心させられたわけだが、自分がこのバイクのオーナーになったら、ややハードなリヤショックを守備範囲が広いアフターマーケット製に換装して、自分好みの乗り味を追求してみたいし、フロントブレーキは初期の効力の立ち上がりもうちょっと明確にしたい。さらに進めば、大幅な軽量化が期待できるマフラーとホイール交換や、ライポジ関連パーツの見直しなど考えることになるだろう。

こう書くと、ノーマルの完成度が低いということ? と感じる人がいるかもしれないが、そうではない。ノーマルも素晴らしいけれど、乗り込むうちにカスタム意欲がムラムラと湧いてくるのが、初代/2代目から変わることがない、ハヤブサの特徴でもあるのだ。

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スズキ・HAYABUSA(2021)Detailed Description【詳細説明】

画像1: スズキ・HAYABUSA(2021)Detailed Description【詳細説明】

3代目ハヤブサを開発するにあたって、さまざまなエンジン/フレーム形式を検討したスズキだったが、最終的には2代目の基本構成を踏襲した。もっとも、エンジンに関しては数十万kmの走行を念頭に置いて主要部品の大半を再設計しているという。

今回、新規採用された電子制御は、10段階に調整できるトラクション/アンチリフトコントロール、3段階のローンチコントロール、モーショントラックブレーキシステム、クイックシフターなどで、各機能の制御には慣性計測ユニットのボッシュ製6軸IMUを使用する。スロットルは電子制御式で、オーソドックスなケーブル式だった2代目と比較すると、3種のエンジンモードのすべてに利用価値が感じられるようになった。

画像2: スズキ・HAYABUSA(2021)Detailed Description【詳細説明】

かなりシャープな印象になったけれど、フロントマスクのデザインはどこからどう見てもハヤブサだ。

画像3: スズキ・HAYABUSA(2021)Detailed Description【詳細説明】

メーターまわりは伝統の4連アナログ式で、中央にはフルカラーTFTモニターを設置する。

画像4: スズキ・HAYABUSA(2021)Detailed Description【詳細説明】

シリーズ初となるラジアル式フロントマスターは、リザーブタンク一体型の新規開発品だ。

画像5: スズキ・HAYABUSA(2021)Detailed Description【詳細説明】

左ステップのシフトロッドには、標準装備のクイックシフター用センサーが備わる。

画像6: スズキ・HAYABUSA(2021)Detailed Description【詳細説明】

フロントブレーキキャリパーはブレンボSTYLEMAで、フロントディスクはφ310→φ320mmに大径化された。

画像7: スズキ・HAYABUSA(2021)Detailed Description【詳細説明】

前後ホイールは新デザインで、純正タイヤは専用チューニングを受けたブリヂストンS22を履く。

画像8: スズキ・HAYABUSA(2021)Detailed Description【詳細説明】

シートカウルは既存のハヤブサとは異なる斬新なデザインに変わった。

画像9: スズキ・HAYABUSA(2021)Detailed Description【詳細説明】

タンデムシート下には標準装備のETC2.0と車載工具が整然と収まる。

画像10: スズキ・HAYABUSA(2021)Detailed Description【詳細説明】

ガソリンタンクは分割式。前部のエアボックスが容量を10.3→11.5Lに拡大する一方で、後部の燃料タンクの容量は21→20Lに縮小されている。

スズキ・HAYABUSA(2021)【SPECIFICATIONS】

型式:8BL-EJ11A ●エンジン:水冷4ストロークDOHC4バルブ並列4気筒1339㏄ ●ボア×ストロークφ81.0mm×65.0mm/圧縮比12.5:1/最高出力138kW(188PS)/9700rpm/最大トル
ク149N・m(15.2kgf・m)/7000rpm ●変速機6段リターン ●全長×全幅×全高2180mm×735mm×1165㎜ ●ホイールベース1480mm ●車両重量264kg ●タンク20L ●シート高800mm ●キャスター角23.0度 ●トレール90mm ●タイヤサイズ120/70ZR17・190/50ZR17 ●価格215万6000円〜222万2000円

まとめ:ヘリテイジ&レジェンズ編集部

※本企画はHeritage&Legends 2021年7月号に掲載された記事を再編集したものです。

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