文:太田安治、オートバイ編集部/写真:柴田直行、南 孝幸
ホンダ「GB350 S」インプレ・解説(太田安治)
コーナーが楽しくなる緻密なチューニング
単気筒エンジンの鼓動感と排気音を味わい、流れる景色と風を愉しむ、といった走り方で他にない魅力を感じさせるGB350。それだけに、連続するコーナーを駆け抜けようとすると、直進安定性重視のハンドリングがもどかしく感じることがある。そうしたスポーツライクな走りを重視する人の要求に応えてくれるのが7月に追加されたSだ。
決定的な違いを感じるのがライディングポジション。スタンダードに比べてハンドルが少し低く遠く、ステップ位置は上・後方に位置している。と言っても、ネイキッドスポーツとしてはごく標準的な姿勢だから、腕や腰に負担がかかることはない。
だが、このポジションの違いはハンドリングに大きな影響を与えている。ステアリング軸とハンドルグリップのオフセット量が減り、グリップ位置も低いため前輪に荷重を載せやすく、旋回性能が高まると同時に接地感がしっかり伝わってくる特性を生んでいるのだ。
スタンダードはリアタイヤから曲がり始め、やや間を置いてフロントタイヤが内側に切れてくるが、Sはこの「間」が半分以下に短くなった感覚で、タイトターンの寝かし込みや連続コーナー切り返しでの反応が素直。バンク角も若干増えているから、曲がりくねった峠道もリズミカルに駆け抜けられる。
ただし、旋回力そのものはスタンダードと大差ない。スポーティな感覚で安心感も高いが、峠道でSとスタンダードが一緒に走ってもアベレージはほとんど変わらないだろう。
エンジン自体は完全に共通だが、ECUの設定がやや異なっているとのこと。スロットルを開けた瞬間のレスポンスが良くなっているが、鋭いというほどではなく、ハンドリング特性と同様にネイキッドスポーツとして違和感のない素直な反応。スロットルのワイドオープン時に破裂音を含んだサウンドが耳をくすぐる心地よさは変わらない。
スタンダードのリア18インチに対してSは17インチで、標準装着タイヤも前後共に異なる。そのためかSの乗り心地は少し硬質。ハンドルにかかる体重が多いことと併せ、ギャップ通過時に突き上げ感があるが、これは優しい乗り心地のスタンダードと比較しての話。決して快適性が劣るということではない。
GB350Sの魅力は穏やかさの中に溶け込んだ人車一体感。ハンドリングもエンジン特性も「乗る」のではなく「駆る」感覚で緻密にチューニングされている。