文:太田安治、オートバイ編集部/写真:南 孝幸
BMW「S 1000 R」インプレ・解説(太田安治)
スポーティさ抜群、だけど街でも扱いやすい!
1000ccクラスのSSモデルは高性能化が進み、最高速300km/h、ゼロヨン加速9秒台が当たり前。圧倒的パフォーマンスは大いに魅力的だが、それを発揮できる場所、ライダーはごく限られる。
そこで、ヨーロッパを中心に近年人気なのが、SSのエンジン/車体を活かして造られたスポーツネイキッド。S1000Rのベースはスーパーバイクレースでも高い戦闘力を実証しているS1000RRで、試乗したMパッケージは快適なツーリングからサーキットライドまでを完全カバーする上級仕様だ。
最高出力はS1000RRの207馬力に対して165馬力。公道では使い道のないトップエンドのパワーを削り、低中回転域に振り分けたセッティングとされている。おかげで市街地での扱いやすさは抜群で、回転数や半クラッチ操作に気を使う必要はまったくない。アップ/ダウン両対応のクイックシフターも前モデルより作動が洗練され、街乗りの回転域でも小気味よくシフトが決まる。
パワーモードは3種類用意され、市街地やツーリングなら自然なスロットルレスポンスの「ロード」が最適。「ダイナミック」は開け始めのレスポンスが鋭くなり、高回転域パワーも強烈なのでサーキット向きの特性だが、トラコンやウイリーコントロールが実にスムーズに介入してくれるから身構えることなく高いパフォーマンスを堪能できる。
DDS(セミアクティブサスペンション)はサーキット以外なら「ロード」のままでいい。峠道レベルならダンピング不足は感じず、むしろピッチングを活かしてリズミカルに走れるし、乗り心地も快適。パワーモードとサスペンションモードを個別に切り替えれば特性の変化を楽しめるが、個人的にはどちらも「ロード」で充分という印象だ。
なお、前モデルは全回転域で細かな振動が出ることと、エンジンの熱気がライダーに伝わって暑いことが弱点だったが、エンジン/車体とも一新されてこの問題も解消した。新型S1000Rの魅力は、峠道ならスーパースポーツマシンと互角の運動性能を見せ付けるスポーツ性能と、S1000RRの兄弟車とは思えないほど優しくて扱いやすい普段使い。
スポーティなキャラクターが好みだが、SSの硬い乗り心地と前傾姿勢は辛い、というライダーには最高の一台。Mパッケージの235万円という価格も乗れば納得。BMWの理念と技術力、上質さを強く感じる。