談:伊藤真一/まとめ:宮﨑健太郎/写真:松川 忍
伊藤真一(いとうしんいち)
1966年、宮城県生まれ。1988年ジュニアから国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、WGP500クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2021年は監督としてAstemo Honda Dream SI Racingを率いてJSB1000、ST1000クラスなどに参戦!
ホンダ「CB1000R」インプレ(談:伊藤真一)
スタイリングの変更点に目が行きますが、"中身"もしっかり変わっていますね!
新型のCB1000Rは、スタイリング的な変更がされたモデルと紹介されていますが、ホンダ車はそういう変更でも走りの部分が大きく変わっていることが多いので、そのあたりを探るのが今回の試乗の楽しみでした。
まずは変わったスタイリングの部分ですけど、LEDヘッドライトのリム部にポジションランプが付いていたり、イマドキという感じで良いなと思いました。2018年のデビュー以来、CB1000Rの形は好きですが、新型も格好良くて自分の好みですね。
試乗車のカラーリングは、黒のメタリックですが、この色もとても気に入りました。そのほかレッドとシルバーも用意されています。シルバーはどんな仕上がりなのか、実車で見てみたいと思いましたね。
まず乗り始めはライディングモードでスタンダードを選択しましたが、すぐにエンジンのフィーリングが従来型から随分変わったことに気付きました。パワーデリバリーが、以前よりスムーズになりましたね。フューエルインジェクションのツキも良くなっていて、操作に対してリニアな感じになっています。
3000回転くらいのところにスロットル操作に対して敏感な領域があり、高速道路を巡航しているときは常用する回転域なのでちょっと気になったりもしましたが、全体にはブラッシュアップされたといえ、総合的にはクオリティが高くなっていました。
ホンダがアシストスリッパークラッチを量産車に採用した最初のころは、クラッチ操作の軽さに重きを置いていたのか、どこでクラッチミートするかちょっとわかりにくいところもありました。
でも最近のものは非常に繋がる瞬間もわかりやすくなっていて、なおかつ操作も軽くて非常に仕上がりが良くなっています。新型CB1000Rも、その恩恵を感じることができましたね。
高速道路でのクルージングでは、ハンドルがラバーマウントじゃないので、ちょっと振動を手で感じました。
前にCB1300SF SPをテストしたとき、ラバーマウントじゃない方がステアリングのフィーリングがダイレクトで、スポーツ走行には良いと言いましたけど、ラバーマウントでなければないで、難しいですね(苦笑)。ただCB1000Rで感じる振動は強く意識しないとわからないレベルですから、ツーリングで問題に思う人もいないと思います。
エンジンや駆動系については、総じてクオリティが上がったと思います。最初期のモデルはエンジンのベースとなったCBR1000RR…SC57のフィーリングが電スロを使っていても残っているように感じましたが、新型はSC57っぽさを感じなくなりました。CB-Rシリーズの頂点モデルに相応しい、上質なエンジンに仕上がっていると思います。
エンジン同様に、車体に関しても新型のCB1000Rは大きく従来型と変わっていました。シート高などの数字は従来型と変わっていないのですけど、実際跨ってみると新型はライディングポジションが変わった、と感じました。
従来型は、もうちょっと座るところを下げたいなと感じたのですが、新型はちょうど良いところにある、と思いました。一方で、従来型ではそこまで感じなかったのですが、新型では自分の身長でもハンドルバーがちょっと遠いかな、と思ったのです。
最初期型モデルのハンドリングをキープしつつ、より上質な走りを目指した
従来のCB1000Rに比べ、新型は跨ってみるとフロント側が上がって、リア側がちょっと下がったようなライポジになった気がします。リア側が1Gをかけたときの沈み込みが多くなり、相対的にフロント側が高い位置になったような感覚でした。
新型のシートは従来型と同じような形状ですけど、新型はシートレールの形状が変更されています。シート自体の座り心地は変わりはなかったですが、シートに座っている位置が低くなった印象で、従来型のライポジの少し腰高な感じが薄れました。
また乗車しているとき、新型よりも従来型はスイングアームの垂れ角がもっと立っていたような気がしました。
CB-Rシリーズの125と250と1000は、最初期型では前後のタイヤのベターっとした接地感が、まるで手のひらで路面を触れているかのように伝わってくるのがハンドリングの特徴でした。特にリア側は、タイヤが台形になっているかのようなフィーリングで接地感が伝わり、コーナリング時にはスイングアームピボットまわりのヨレる感じが、乗っていてすぐにわかりました。
1000の新型は車体の剛性がちょっと上がったのか、リア側の接地点から押されたことによるピボットまわりのヨレが減った気がします。サスペンション含む車体が全体的にしなやかに動くようになって、ピボットまわりに応力が集中する感じがなくなりました。
シートレールとフレームの、締結剛性の違いでハンドリングのフィーリングが変わっている部分もあるのかもしれません。
従来型は走らせていて、片持ちスイングアームから長いものを引きずっているようなイメージを受けましたけど、新型ではその感覚もなくなっていました。
125も250も、モデルチェンジとともに最初期型にあった走りのキャラクターが薄れてきましたが、1000の新型についても従来型とその辺が変わったと思います。ただ125と250同様に、CB-Rシリーズ独特の個性的なキャラクターと言いますか、あのハンドリングの味わいは残っています。
125と250の新型との比較では、250はよりオーソドックスなハンドリングになり、125の方はオーソドックスに寄りつつも個性的なハンドリングが残っている、という印象でした。新型CB1000Rに関しては125に近いというか、最初期型のキャラクターを残している感じです。
平たく言えば、125と250同様に1000も新型は乗りやすくなっている方向にモデルチェンジされていますね。
多くの方は、ホンダ車は優等生的なハンドリングというイメージがあるみたいですが、最初期型のCB-Rシリーズのハンドリングは個性が強く、ストリートファイター的スタイルに合ったハンドリング作りに挑戦しているのがわかり、とても面白くて気に入っていました。
新型の各機種はそこから少しずつ、多くの人が違和感を覚えないように味付けを変えています。
きっと開発の人たちは、CB-Rシリーズを一所懸命に改良、熟成させているのだと、今回CB1000Rの新型に試乗してみて思いました。荒削りな部分が薄れて、走りのクオリティ的なものが向上しているような印象です。
よくぞここまで詰めた‼ と賞賛したくなるミッションの節度
「新型CB1000Rに乗って一番感心したのは、ミッションの節度ですね。シフトドラムのスプリングを変えるだけで、フィーリングは大きく変るものですが、クイックシフターとのマッチング含めて、すごく良くなっています。ちょっと操作感が硬くなったと感じる人もいるかもしれませんが、繋がり方のシャープ感とか、とても気に入りました」