談:伊藤真一/まとめ:宮﨑健太郎/写真:松川 忍
伊藤真一(いとうしんいち)
自分はスポーティなGB350Sを注文したのですが、スタンダードのGB350…非常に気になります!
1966年、宮城県生まれ。88年ジュニアから国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、WGP500クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2021年は監督としてAstemo Honda Dream SI Racingを率いてJSB1000、ST1000クラスなどに参戦!
ホンダ「GB350」インプレ(伊藤真一)
従来の単気筒エンジンへのイメージを覆す!? GB350のスムーズな回転フィーリングを堪能!
GB350は、今すごい人気ですね。自分もスポーティな「S」の方を注文したのですが、まだ納車されていません。「どうしてGBを?」とよく聞かれるのですが、非常に興味があったんです。
まず最近のバイクとしては販売価格が安いので、この値段でどれだけのモデルを作ることができるのだろうということ。そして空冷単気筒エンジンが綺麗で、全体の佇まいが良くて、その辺にも興味をひかれました。あと、自分は今年55歳になるのですが、雰囲気が自分の年齢には合うのではないかと思いました…。
GB350に乗るのは今回が初めてですが、第一印象は50万円台のモデルとは思えないくらい、質感もあって良い仕上がりですね。そして乗り出して一番最初に思ったのは、これ、めっちゃ楽しいじゃん! でした(笑)。思わずヘルメットの中で、顔をニヤニヤさせてしまいましたね。いいなコレって思いながら、走っていましたよ。
走り出す前は、ヤマハSR400みたいなモデルなのかな? と想像していたのですが、SRよりも排気量が小さいから力感的なことはそんなに期待していなかったのです。でも実際乗ってみると、全然トルク豊かだし、回転も滑らかだし、排気音も良い。
GB350のトルク感は250ccの単気筒みたいに足りない感じはなく、自分が想像していた350cc単気筒のトルク以上のものがありました。後で諸元表で確認しましたが、諸元の数値よりもトルクが出ている…3.5とか4kg-mくらいあるような印象を受けましたね。最高出力も20馬力と決して高くはないですが、それで馬力が足りないなと思うことはなかったですね。GB350の車体を、十分に制御できるパワーです。
実を言うと、空冷単気筒ということでもっとフリクション感のある、まともに回らないようなフィーリングを想像していました。ガサツに回るエンジンと言いますか…。でも実際乗ると、GB350のエンジンは非常にスムーズにユルユルと回る。
自分が昔から思っていたビッグシングルのイメージは、アイドリング中にストンと止まっちゃうような感じだったのですが、そういうことは全くなかったです。想像していたよりもっと回転がスムーズで、スロットルレスポンスも操作に対して忠実でした。
GB350のエンジンのトルクの豊かさと、回転のスムーズさには「たまげた!」という感じです。50万円台のモデルでこの上質さは「買い」ですね。自分、買ってよかったと思いましたよ(笑)。
クラッチはアシストスリッパータイプですが、発進時もシフトダウンの時も滑らせ方がすごく良くて、非常に乗りやすいです。フライホイールマスが大きいこともありますが、本当にエンストすることがないですね。フライホイールマスは走っているときの心地よさや、低速走行での扱いやすさとか、その辺を非常に良く考えて調整しているのだろう…と感じました。
ホンダ車にしては非常に珍しいロングストロークですが、1回1回の燃焼がわかる感じの回り方です。その感覚をどの回転域でも感じることができる、非常に面白いエンジンですね。
初心者にもリターンライダーにも安心してオススメできるGB350の扱いやすいハンドリング
車体については、今回の試乗の前にwebオートバイ・YouTubeチャンネルでの配信で観察する機会がありましたが、その時はステアリングヘッドまわりの作りが特に気になりました。ヘッドパイプの位置や長さで、剛性やフロントへの荷重の乗り方がすごく変わりますから…。
剛性的にそんなにガチガチにしていなく、ステアリングヘッドの辺り全体で少しヨレるようにしているのかな、と思いました。フロントタイヤもラジアルではなくバイアスなので、舵を入れてのスラストによりグリップを出そうという感じではなく、上手く調整しているのだろうと想像していました。
試乗では一般道や高速道路のほか、webオートバイ・YouTubeチャンネルの企画「最高速チャレンジ」で富士スピードウェイを革ツナギ着て走りましたが(笑)、全開走行してもテクニカルセクションでヨレたり、振れたりすることもなく、剛性的な問題を感じることはありませんでした。左右のステップが路面に当たるところまではしっかりテストしましたが、限界を超えてもまあまあバランス良く「失う」ので、破綻するようなこともなかったです。
フロント19インチ、リア18インチで前後バイアスタイヤということもあり、最近のネイキッドなどと比べるとかなり操舵感が軽いですね。70~80年代にバイクに乗っていた人には懐かしいフィーリングで、当時を知らない若いライダーには新鮮に感じるハンドリングかと思います。
初心者やリターンライダーにも、GB350はピッタリな1台でしょう。構えることなく乗れて、何より走らせていて楽しいです。現行車の中では他に類例がない、貴重なキャラクターだと思います。
ブレーキはABS付きですが一般道を走ったときも、富士スピードウェイの1コーナー進入でギリギリ奥まで突っ込んだときでも、ABSが作動することはありませんでした。後日うかがった開発者の方のお話によると、通常のモデルよりも入りにくいというか、ABSが効くまでのコントロール性を重視しているそうです。制動力自体は、GB350のスピードからすると十分なもので、ABSが付いていることからくる安心感も大きいです。
自分はバイクに試乗する時、常にエンジンと車体の「パッケージ」として走りを評価するようにしているのですが、GB350はエンジンと車体の主張が強く、それぞれを別々に評価するような感じになりました。
別に、マッチングやバランスが悪いというわけではないですよ。適切な表現が浮かばないのですが…すごく良いエンジンがあって、それをバイクのことを良く理解した愛好家の方が見立てたフレームに載せたような…イギリスのビルダーが作った作品みたいな感じですかね? いい意味で量産車っぽくないと言いますか…。
GB350の車体に対してGB350のエンジンはピッタリ合っているのですが、両方個性が強いのでついつい別々に評価したくなってくる。すごく不思議な感覚でした。