KTM「RC390」インプレ・解説(和歌山利宏)
KTMらしさを増した内容の濃い充実進化
車体回りが一新され、エンジンがユーロ5準拠となった新しいRC390は、見るからにレーシー度を高めている。2層構造のカウリング、LEDヘッドライトのフロント回り、シートカウルと一体のタンクカバーなど、高品位スーパースポーツと言った印象だ。
ただ、このRC390もそうだが、多くのシングル、もしくはツインエンジンの軽量級スーパースポーツは、ライディングポジションも含め、車両性格はそれほど先鋭化しているわけではない。超ハイパワー車のように、身体が置いて行かれないよう前傾姿勢を取る必要がないという事情もあるにせよ、このクラスのモデルの場合、あらゆるタイプのライダーが街乗りなどにも使える身近な存在でなければならないからである。
実際に跨ってみても、プレッシャーを感じることはなく、平常心のまま身体に馴染む。街中や郊外で試乗しても、スーパースポーツに乗ったときによくやるように、燃料タンクの上に肘を置いて上体を休ませるなんてこともない(同行したイギリス人ジャーナリストは時折そうやっていたが)。
もちろん、最高出力44PSを発揮する373ccの単気筒だけに、期待する出力を発揮できるのは高回転域にならざるを得ない。6速2500rpm、50km/hで流すこともできるものの、それではややギクシャしがちだし、心許ない感じもあるから、常に最低3000rpm以上に保っていたい。
また、そこから追い越し加速するとなると、2段か3段ギアダウンし6000rpm以上に回転を上げることになる。いざ追い越しというとき何段ギアを落とすのか、車速と回転数から無意識に判断して、的確にこなさなければならない。それを身体に覚え込ませなければならないが、これも軽量級スポーツを乗りこなす面白さのひとつである。
そんな軽量級スポーツらしい一面はあっても、スーパースポーツとしてはハンドル切れ角が大きく、ホイールベースが短いことも手伝って、結構小回りできるので、街中での日常使いで苦労することもない。
今回はイタリアでの試乗だったが、国内ではあまり見掛けない荒れた路面の道でも、さほど挙動を乱すことなく走破でき、ビギナーが肝を冷やすようなこともないと思う。リアサスペンションのストロークは150mmと大きく、モタードやデュアルパーパス並みであることが功を奏しているのかもしれない。従来型からさらに軽量化されたこともあって、ライダーへの負担も少なく、身近に付き合える相棒としての魅力も高まっている。
フレンドリーながら本格的な手ごたえも十分
こんな具合にフレンドリーな新型RC390ではあるが、それだけで終わらないのが、KTMならではの魅力。フレンドリーであっても単に「お手軽」なわけではないのだ。
このクラスでは軽量・コンパクトであることを活かして、小柄で非力な人にも無理なく扱える特性を明確にしたモデルも少なくないが、それらは悪く言えば淡白感や軽薄感を免れないものになりがち。しかし、RC390には全くそんなところがないのだ。
適度な重厚感としっかりした安定感、そして手応えがあって、マシンからの情報も豊か。RCの手応えは、まるでミドルクラス以上のスーパースポーツのよう。この軽量コンパクトな車体と細いタイヤで、よくまあこうした特性を得ているものだと、感心させられることしきりだった。
それゆえ、ワインディングでのコーナリングがすごく楽しい。マシンを操っている実感に溢れているからだ。おまけに、ガソリン満タン時の車重は164kgと、リッタークラスより35~40kgも軽いのだから、操る面白さはもはや他に例を見ないと言っていい。
サーキットでも試乗したが、RCはライダーを裏切らないばかりか、ますます魅了してくれる。ベースに安定感があるから攻め込む気にさせられるし、ライダーのマシンコントロールに応えてくれるから勉強にもなる。
一貫して市販モデルにレーシングマシンのポテンシャルを造り込むことをポリシーとしてきたKTMだが、今回の新型RC390はそんな「KTMらしさ」が一層高められていた印象だった。
KTM「RC390」カラーバリエーション
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