文:中村友彦/写真:富樫秀明
※本企画はHeritage&Legends 2020年9月号に掲載された記事を再編集したものです。
DAEGの資質に磨きをかけ運動性と万能性が向上した
カワサキZRX1200DAEGはつい5年前まで現役だったが、今見ると古さも垣間見える。フレームはオーソドックスなスチールダブルクレードル、リヤサスは旧態然としたツインショック。エンジンのルーツは1984年型GPZ900Rで、ABSやトラクションコントロールのような、ライダーをサポートする電子制御は装備されていない。
だから今回の試乗には一抹の不安もあった。それは、最近のこうしたカスタムバイクの試乗には、Z900RSやKATANAといった現行のスポーツネイキッドが出てくる機会が多かったからだ。それらはフレームもエンジンも現代的で最新の電制サポートもあるし、サスは倒立フォーク+モノショック。それに比べると……という部分だが。
でも、アクティブのDAEGには、そんな基本設計の古さを原因とするマイナス要素はなかった。それどころか、昔ながらの構成には、現代のスポーツイネイキッドとは一線を画する優しさや汎用性が備わっているんじゃないか……と感じたくらい。
当日の天気は晴れ。ただし、試乗の舞台となった峠道は至るところが砂&泥だらけで、普通に考えればテストには厳しい状況である。でも今回の状況はアクティブDAEGにとっては、むしろ好都合だった。この種のカスタムでは珍しいことに、アクティブ車は悪条件に強く、砂や泥などを余裕でかわしながら、スポーツライディングが堪能できてしまったのだ。
どうしてそう出来たか。最初に挙げたい理由は、ハイパープロの前後サス=正立フォークのAH1と、独創的なダブルピストンを採用した新作リヤショック、DP-Sだ。AH1の良好な作動性と剛性の高さは、既に知っていたものの、DP-Sの動きは特筆もので、あらゆる領域で感じる従順かつ上質な伸圧ダンパーの利き方は、現代の高性能リンク式モノショック的と言えるくらいに感じられた。
続いて述べたい理由は、制動力の高さ。ゲイルスピードのマスター/キャリパー/ディスクにしているのだから、制動力は高くて当然と言う人がいるかもしれない。でもそうではないのだ。例えばノーマル車にこのデモ車のブレーキ一式を移植したら、車体が負けて、本来の制動力の半分も引き出せないだろう。対してアクティブDAEGは、フレームスタビライザー装着と足まわりの刷新で車体全体の包容力が上がっているから、自信を持って気軽に(慣れてくるとフロントは指1本でコントロール可能)制動力をフルに引き出せる。
そして3つめの理由は、コーナー進入時に身体をイン側に入れるだけで、ナチュラルにしてシャープな旋回が始まること。これにはさまざまなパーツが影響してくるのだが、中でも印象的だったのは、フレームマウント式のカウルステーと、ゲイルスピードステップだ。 前者はZRXカスタムの定番で、自然舵角が瑞々しく感じられるから、今さら詳しく説明する必要はないだろう。でも後者は驚きだった。このステップには、フレームと一体化しているかのような剛性感が得られる、切削加工が施されたバーの食い付きと離れが心地いい、位置設定が絶妙(3ポジション式で、試乗時はノーマルに対して15mmバック/0mmアップ)、左右幅が狭いので車体がコンパクトに感じられる、という良さがある。それで荷重&抜重は緻密かつ自由自在にできるという印象だ。
言ってみればこのバイクは、前後サスが正立フォーク/ツインショックという枠を超えた動きを見せてくれる上に、危険を察知したらすぐに止まる、あるいは進路変更=曲がるという選択ができる。それだけではなく、同社が独自に開発したステムとスイングアームも、このデモ車の悪条件に対する強さを語る上での重要な要素だ。
コーナリング特性は柔軟にしてフレキシブル
先にお断りしておくと、アクティブのステム+スイングアーム、そしてハイパープロ前後サスは、サーキットを視野に入れて開発されている。でも個人的には、サーキットのような良路よりも今回のような悪条件の方が、その良さが分かりやすい気がした。と言うのも、アクティブDAEGは高荷重域の感触がノーマルより格段に良好で、足まわりの作動性と剛性が間違いなく上がっている。その一方で、不測の事態に余裕で対応できる、柔軟さとフレキシブルさも持ち合わせているからだ。
例えば、進入しようとしているコーナーに泥、続いて激しい凹凸を発見したとしよう。最初の泥は急減速&進路変更で回避するのだが、ステムが硬すぎないアクティブDAEGは、その際の挙動にほどよい減衰が利いているようで、イヤなお釣り的動きが返ってこない。
続いて車体をバンクさせた状態で凹凸に乗ると、ノーマルや他のカスタム車では、車体に入った上下動の収束をじっと待つことが多い。でもアクティブDAEGの場合、それはそれでという感覚で、さらに深く寝かせたり、ラインを修正したりもできる。この感触にはハイパープロ独自のスプリング、コンスタントライジングレートが大いに貢献しているのだろう。 そして出口を見据えてスロットルを開けると、まだ凹凸が続いていても、スイングアームが適度にしなりながらビシッと路面を捉え、アウトにはらむことなく、後輪が車両を前方にグングン押し出していく感触が味わえるのだ。
話は少し逸れるけど、最新スポーツ車のコーナリングを語る際は、冒頭のような電子制御が話題の中心になりがちだ。でもアクティブDAEGに乗ると、それ以上に大事なのは車両の資質で、電子制御の仕事はあくまでもサポートだという事実が分かってくる。 いずれにしても、悪条件下でアクティブのDAEGを体感した今回の試乗では、ZRXのカスタムの素材としての魅力を再認識。生産終了した現在でも、このシリーズの人気が衰えないのは、当然だと思えた。
ACTIVE・ZRX1200DAEG
Detailed Description【詳細説明】
今回試乗したアクティブDAEGのサスは、フロントフォークがハイパープロAH1。
リヤショックがハイパープロDP-S。基本的にノーマル車への装着を前提としているが、セッティング次第でさまざまなカスタム車に対応できる懐の広さを備えている。
ビキニカウルのマウントを、ステム→フレームに変更するステーもアクティブ製。素材はA7075で、前後3度/上下10mmの調整が可能。バックミラーはナポレオンとしゃぼん玉のコラボ品。
アルミ削り出しのステムとテーパータイプのハンドルバー、エストラマー素材のグリップなどもアクティブ製。ブレーキマスターとクラッチレバー/ホルダーはゲイルスピード。
シートはスプリーム。ウレタンはハードタイプで、メイン部の座面はSTDより20mm高くなっている。アルミタンクはビーター。外装のカスタムペイントはALFATECが担当。
テールまわりをスッキリさせるフェンダーレスキットには、LEDナンバー灯が付属する。コンパクトなLEDナンバーサイドウインカーは、このところのカスタム業界の大人気パーツだ。
ゲイルスピード・バックステップは7075材製で3ポジション式。シフトペダルはレーシーな可倒式、ブレーキペダルは位置調整が可能。当然装着はボルトオンで、マフラー交換にも配慮。
3.50-17/6.00-17サイズのアルミ鍛造ホイール、φ310mm/φ250mmのブレーキディスク、前後ラジアルマウントのキャリパーなど、足まわりパーツはゲイルスピードブランドで統一。
プレスフォーミングタイプのスイングアームは縦方向の剛性を大幅に高めつつも、横剛性はノーマルとほぼ同等としている。カラードチューブ仕様のメッシュホースはグッドリッジ。
ハイフローラジエターダクト、左右ダウンチューブを結ぶフレームスタイビライザー、アルミ+ポリアセタール樹脂のエンジンスライダーは、それぞれアクティブのオリジナルパーツ。
デュアルバルブを内蔵するφ32mmのスロットルボディはノーマルだが、エアボックスを撤去した上で、DNA製エアフィルターを装着。オイルフィラーキャップはギルズツーリング。
排気系をワイバンのフルエキに変更したことにともない、燃料噴射マップはラピッドバイクEVOを用いてリセッティング。過去のテストでは、HRCのデータロガーを使ったという。